「62.....これはいい成績なの?」

午後9時過ぎ。
男は、静かに妻の隣に座っていた。
年齢は、40歳ぐらいであろうか。
出ていても、ひとつかふたつ。
いや意外と若いのかも知れない。
ボリュームのある髪をしていた。
切れ長だが疲れた目。
中肉、中背。
身長は170センチくらいだろう。
体重は、.....重みを感じさせる。
ズボン。シャツ。そして、生活感のあるくたびれた上着を着ていた。
普通の親父―
肉は引き締まっていない。
年相応にゆるんでいる。

普通の親父と違うのは家庭内の序列だけだ。

「正直に言えば難関中学を目指すなら不合格になる可能性の方が高いかも知れない。」
男は喉の奥から絞り出すような声で言った。

「じゃあ中学受験なんて辞めたらいいじゃないの。」

うんざりしているのであろう。

妻は男から顔を背けた。

男の膝の上に乗ってきた息子もうなずく。

何のために、自分はここまでやってきたのか。

あの中学受験という華々しい舞台への憧れ。

.....いや、そんなことじゃない。

【この子の将来が心配だからだ。】

息子には自分の全てを捧げてもいい。

本気で息子の為なら死んでも構わないとさえ思っている。

何故かは男自身でもわからない。

ただ、遺伝子レベルで親ってものはそんなものなのかもしれない。

「やるよ。中学受験。」

間をおいて男が言った。

「入試テストで正しい答えを書くだけ。簡単なことだよ。成績も前回の56から62まで伸びたんだ。まだ伸びしろがあるかも知れない。」

正攻法でなくてもいい。
不格好な滑り込みであっても入学さえすれば入試では勝ちなのだ。不正裏口入学以外は。

勉強を通じて息子に努力の大切さを伝えたい。
よいお友達と青春時代を過ごして欲しい。
何か息子と共通の思い出をつくりたい。
何より息子が幸せな人生をおくれるように手助けしたい。

それには中学受験がベストだと感じたのだ。

もう迷わない。

大きくふぅっと呼吸を整え、

男ー(P.N塞翁が馬)は妻に宣言した。

「○君(息子)と本気で○□中学を目指す。これは達成可能なミッションだよ!」

ブン!!

間髪入れず目の前で息子が手を振った。

「オレ、一番近い中学でいいよ!!」


【ハードボイルド編 完 (๑´ڡ`๑)】


本編は続きます。
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本日の家庭学習(中学受験)
スマイルゼミ4分
塾の宿題50分