わたしからほんの五、六歩離れた所--青々としたエゾ苺の茂みに囲まれた空地に、すらりと背の高い少女が、縞の入ったバラ色の服を着て、白いプラトークを頭にかぶって立っていた。そのまわりには四人の青年がぎっしり寄り合って、そして少女は順ぐりに青年たちのおでこを、小さな灰色の花の束で叩いているのだった。
その花の名をわたしは知らないけれど、子供たちには馴染みの深い花である。それは小さな袋の形をした花で、それで何か堅いものを叩くと、ぽんぽんはじけ返るのであった。青年たちはさも嬉しそうに、てんでにおでこを差し出す。
一方少女の身振りには(わたしは横合いから見ていたのだが)、実になんとも言えず魅惑的な、高飛車な、愛撫するような、あざ笑うような、しかも可愛らしい様子があったので、わたしは驚きと嬉しさのあまり、あやうく声を立てんばかりになって、自分もあの天女のような指で、おでこをはじいてもらえさえしたら、その場で世界じゅうのものを投げ出してもかまわないと、そんな気がした。
(ツルゲーネフ『はつ恋』 神西清訳 P12より 少年がはじめて少女に出会う場面)
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☆「恋愛小説の古典に数えられる珠玉の名作」
「16歳のウラジミールは、別荘で、零落した公爵家の年上の令嬢ジナイーダと出会い、初めての恋に気も狂わんばかりの日々を迎えるが、ある夜、ジナイーダのところへ忍んでいく父親の姿を目撃する・・・」 (以上、裏表紙の解説より)
やっと世界文学全集系の名作読書を開始。てはじめに、うすーい文庫本の一冊から、ささっと読んでみました。
そして・・・。うーんん(^^;
以下、あらすじを紹介しますと、
ロシアの大地主の家に一人息子で生まれ、当時の習慣で家庭教師について一人勉強、ごくまじめに静かに育った16歳のウラジミール。家族ででかけた別荘地で、零落した公爵家と、隣同士の縁で訪問しあい、交際が始まります。ここで、21歳の公爵家令嬢ジナイーダに一目ぼれ。彼女はその美貌と機知と、はちゃめちゃぶりで、多くの男性を虜にし、家にはいつも取り巻きの青年が何人も訪れ、みなで馬鹿騒ぎを繰り広げます。王様ゲームのようなことをしたり、詩を朗読しあったり、ダンスをしたり。 もちろん令嬢ジナイーダは、そのときの気分で、優しく見つめてくれたり、手のひらを返したように冷たくつれない態度だったり。 純朴なウラジミールは、初めてのそんな華やかな恋の空気のうずに、もう魂を天に飛ばしてしまいます。
ところがそのうち、両親が喧嘩をしたり、令嬢ジナイーダの態度が変わってきたり、どうも様子がおかしくなってきます。そしてある晩、彼女の部屋へ忍んでいく父親の姿を目撃してしまうのでした。父親は40歳前後、りゅうとした身なりの美男子で、彼にとっては自慢の、そして近寄りがたいような、憧れの父親。
結局、両親が大喧嘩をして、別荘地を引き上げることになり、すべてが終わったかにみえたのですが、自宅に戻ってしばらくして、父親と馬に遠乗りにでかけ、彼女が父を追いかけてモスクワまで来ていることを知ります。がーん。
父親はその後、まもなく亡くなり、数年後、ジナイーダも別の人と結婚して今近くに来ている、と聞くのですが、会いにいけないでいるうちに、彼女がお産であっさり、あっというまに死んでしまったと聞いたのでした。がーん。
そして、彼はその後、独身をとおして、ある夜の座興の昔語りに、もとめられて、そんな話を人々へ、手帳にかきつけて披露するのでした。
以上、要約が長くなりましたが、こんな内容です。
やっぱり名作というのは、その時代の空気や人々を、鮮やかに描き出すものですね。
しかし、もともと他人の恋愛にさっぱり興味のない私は、ついつい、君たち、ひまだなぁ・・・そんなに若くて元気なんだし、なんか仕事しようや、世の中の役に立つことしようや、貴族さまでお金も時間もコネもたっぷりあるんだし、なぜにこんな小娘と遊んでは喜んでおるのか・・・もったいないなあ、もう~・・・もし内海町に来てくれたら、林業も農業も漁業も、力仕事いっぱいあるのににゃ、と思ってしまうのでした。。(^^; ジナイーダさんも、ぜひ内海町にきて、その魅力で若い男衆をたくさんひきつけてくれないでしょうか(笑)
・・・・・・・
(以下、P110より)
何をわたしが彼女に言えたろう? 彼女はわたしの前に立って、じっとわたしを見つめていた。そしてわたしは、彼女に見つめられるが早いか、たちまち頭から足の先まで、すっかり彼女のとりこになってしまうのだ。
・・・・・・それから十五分すると、わたしはもう、幼年学校生やジナイーダと、鬼ごっこをしていた。わたしは泣かずに、笑っていたけれど、泣きはらした目蓋は、笑うたんびに涙をこぼすのだった。
わたしの首っ玉には、ネクタイの代わりに、ジナイーダのリボンが結んであった。そしてわたしは、首尾よく彼女の胴をつかまえるたびに、歓喜の叫びをあげるのだった。彼女はわたしを、思うままにあやつっていたのだ。
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☆がんばれ、ウラジミールくん。強くたくましく生きるんだ。