序文
探偵小説は競馬に似ていると、よく言われている。勝ちそうな馬だと思って、馬券を買ってみると、レースの結果は正反対、誰も勝つと思っていなかった馬、言い換えれば、負けるにきまっていた馬が勝っている。
探偵小説においても、まず犯罪を犯しそうもない人物を疑いさえすればいい。あとは読まなくても、十中八、九まで、その人物が犯人になるのである。
この本の読者には途中であきれて、本を投げ出してもらいたくないから、まえもってご注意申し上げるが、これは絶対に、そういう小説ではない。
ここには、四人の人物が登場するが、いずれも犯罪を犯しそうな立場におかれている。したがって、意外な人物が犯人だったという驚きはないが、殺人の前歴があり、今後も殺人を犯す可能性のある人物が四人そろっている点で、別種の興味をひくにちがいない。
四人とも強い個性を持ち、殺人にしても、その動機はそれぞれ違っているし、殺人の方法も多様である。そこで、この小説における読者の推理は、心理的方向をとることになる。
わたしは、そこにこそこの作品の興味が存在すると言いたい。なぜなら、すべての状況が提示された後、われわれが殺人者の<心理>をたどって犯人を推測するというのは、探偵小説の醍醐味のはずだからだ。
この小説についてさらに付言すると、これは例のエルキュール・ポワロの自慢の手柄話である。しかし彼の親友ヘイスティングス大尉は、ポワロから、この話を手紙で知らされ、非常に単調だと思った。
読者のみなさんは、果たしてどちらの意見に軍配をあげるであろうか。(P9-10)
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☆謎解きの材料はすべて提示しました、さあ、読者よ、犯人がわかりますか?・・・・・というタイプの一作です。そして、もちろん、私はわかりませんでした。。(^^; 『羅生門』のように、同じ場面が違う解釈で何通りも繰り返し再生されます。ちょっとづつ考えながら読むのが楽しいかも。 しかし、トランプのブリッジというゲームは、そんなに面白いものなのですねえ。4人でゲームしていて、1人が暖炉のそばにすわっていて、その1人が殺されていても気づかないくらい。。!?