実はK君のことをよく知らない。
一つ年下で、同じ大学の法学部を出て、東北に住んでいて、妻と大学浪人をしている一人息子がいる。
仕事でよく青森や岩手を回っている。
本社は広島。そこまではOB会で聞いていた。
それ以外は、私のなかでは30数年前の、大学時代のK君のまま。
いつLINEをしたらK君が返しやすいのか、どんな生活をしてるのか全くわからないもどかしさ。
わかるのもそれはそれで辛いような…。
それでも2〜3日おきにどちらからともなくLINEを送って少しずつお互いの仕事の話などしていた。
お昼休みに送られてくることもあれば、仕事が終わった頃のこともある。
うっかり送ったら300キロ運転して家に帰る途中で、反省したりもした。休日はなんとなくやめた方がいいかなと思って控えてた。
占いに行って「彼も同じ気持ちよ」と言われたものの、所詮は占い。どんな生活リズムなのかもわからないから、送るこちらも探り探りになる。
毎日送ったら気があるみたいだからやめようとか…その都度、悩ましい。
3日やり取りがないと苦しくなって、うっかり送ったあとに「またやってしまった…私ばっかり送ってる」と反省したことも。なぜ向こうが送ってくるまで待たなかったのかと思ったり。
だけど落ち着いて返信を読むと、K君はいつも温かかった。ちゃんと「LINEのやり取りが楽しい」「仕事で疲れてもLINEをもらうと癒される」「お互い送りたい時に送って、返信も気がむいたらすればいい。」とちゃんと気遣いがある。
私が一人で反省して、向こうが迷惑しているのではと思い込んで、相手の対応にフィルターをかけては更に落ち込み、しばらくしてもう一度読み返すとK君はそんなことは全く書いていない。むしろ優しい気遣いばかり。
そんなことを半月も繰り返して少しずつ、私も心を開いていくことが出来た。
そんな12月上旬、私に5日間の海外出張があった。
昨年に続いて二回目で、社長の随行だから時差とスケジュールとプレッシャーとの闘い。相当、体力にこたえる仕事で、その前後で通常の仕事も片付けなくてはならない。
その頃は本当に忙しくて、目が痩せこけてスマホの顔認証が効かなかったくらいやつれた。
疲れた私は思わずLINEで本音をつぶやいた。
「もう、帰ってきたらK君にくだらない話でも聞いてもらおうかな。ちょっと癒されたい。」
優しいK君は、
「楽しみにしてますよ。」とちゃんと返してくれた。嬉しくなって「約束ね!」と返したら、
「こちらこそ約束ですよ」と返ってきた。
なんとなく、お互い一歩近づいた気がした。
それまでなんとなくやり取りを繰り返していただけだったのに、初めて先のことを約束したのだ。
それを境にK君からのLINEがちょっと変わった。
ずっと後輩だから敬語だったのに、そうじゃなくなることがあって、出張の前日も「気をつけていってきてね。帰ってきてLINEするの楽しみにしてるから」と敬語じゃないLINEが来て、ドキドキした…。
なんとなく、K君、同じ気持ちなのかなと感じた。
成田空港から搭乗する前に「行ってきます」とLINEした。すぐに返信があって、気にしてくれてるのだすごく嬉しくなった。
俄然、出張を頑張れた!

