自分の恋心に気づいてから、大学時代のK君とのことを少しずつ思い出していた。

32年も昔のこと。断片的な記憶はあるものの、細かなところは覚えていない。

そんな時に、そう言えば、昔、K君に「聞いてみて」と言われた曲があったっけ。

当時は今みたいにインターネットなんてなくて、音楽を聴くにはCDを買うか、借りるか。もしくはテレビやラジオから流れてくるか。だから、結局、聞かずにいた曲。

思い出してすぐにYouTubeで聴いてみた。

愕然とした…。

要するに彼氏がいながら、別の男の子と付き合っていたひどい女の子が、悪びれずに「ごめんね、彼がいることを黙ってて。あなたに会えなくなるのが怖くて言えなかったの。彼とは別れられないけど、あなたに恋に落ちたのよ。」と打ち明ける、なんとも酷い歌だった。まるで大学生の時の私だ…。

1980年代に斎藤由貴が歌った「AXIAかなしいことり」。どんな気持ちでK君は私に聞いてと言ったのか。酷いけれど、この歌が今の自分の心に刺さる。私に彼がいたことを知っていたのか、K君は。

作詞作曲が銀色夏生さんで、何冊か詩集を持っていたから、当時も詩は読んでいたのだと思う。

何かしら罪悪感のようなものがあって、自分の記憶に残っていたのだろうけれど、メロディと一緒に歌として流れてくるそれは、格別に30数年後の私の心をえぐった。

AXIAかなしいことり:上白石百音(あの歌2より)

斎藤由貴のver.は正直、想像が膨らみ過ぎて、上白石百音ちゃんのカバーを聴いていた。このくらい清楚だと許せる気がしてしまう。


K君に気持ちは伝えてはいけないし、K君の気持ちも聞いてはいけない。

だけど、毎晩苦しくて目が覚めて、悩んだ末にどうでもいいLINEを送った。

OB会でK君が皆に配った薄皮饅頭。本当はお饅頭はそんなに好きではなかったけれど、食べてみたらすごく美味しくて。悩んだ末に私が送ったLINEは、

「薄皮饅頭、美味しい😳!」だった…。

くだらない。本当に。

54年も生きてきて、やっと送ったLINEがこれだ。

恋の前には成長などないのかも。