阪神間の特殊性 | 京阪大津線の復興研究所

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大津線とは、京阪の京津線と石山坂本線の総称です。
この大津線の活性化策を考えることが当ブログの目的です。
そのために、京阪線や他社の例も積極的に取り上げます。

阪急2800系の事例は、都市間輸送におけるクロスシートの採用が競争力の向上に直結することを示したものとして重要です。ただ、阪急のクロスシート車は2800系が最初ではありません。ボックス式ながら、京阪から引き継いだ元新京阪線のデイ100形のクロスシートを復活させたり、その後継車両の710系・1300系の一部にも同様の座席配置を施したりしています。

 

何よりも有名なのは、1930(昭和5)年に神戸線の特急用に製造された900形です。同車は扉間に転換クロスシートを備え、阪神間を現在よりも速い25分で結びました。

 

ではなぜ、京都線の河原町延長に際し、阪急はロングシート車で競争に臨んだのでしょうか。その理由として考えられるのは、900形の後継車両として製造された920系の存在です。

 

920系は920形+950形の2両単位で1934(昭和9)年から製造が開始され、900形とともに主に神戸線の特急運用に就きましたが、内装はロングシートに変更されました。これは混雑対策ではなく、足をゆったりと伸ばせるように配慮したものであり、明治・大正期の国鉄の一等車などと同じ発想です。

 

一説によると、早くから洋食化の進んだ神戸では足の長い人が多く、そのためにロングシートが好まれたとも言われています。

 

その真偽はともかく、920系の導入に続いて神戸都心の三宮への乗り入れやスピードアップが実施され好評だったため、似た状況である河原町延長時にもロングシート車で十分他社に対抗できるとの判断を阪急は下したのでしょう。

 

阪急は神宝線(神戸線と宝塚線の総称)が発祥だけにどうしても京都線を特殊なものと扱いがちですが、本当にロングシートが好かれているのだとすれば、京阪間よりむしろ阪神間のほうが例外なのです。

 

阪急8000系セミクロスシート車

 

現在、神宝線のクロスシート車は、1989(平成元)年から1992(平成4)年に製造された8000系第3~第8編成の神戸・宝塚寄りの2両ずつだけです。当初は半数に分けて配属されていましたが、宝塚線と能勢電鉄を直通する特急「日生エクスプレス」に優先的に充当するため、神戸線配属のうち1編成が宝塚線に移されました。

 

乗車時間の長い「日生エクスプレス」に投入するということは、阪急も神宝線におけるクロスシート車の効果を認めていることになります。その一方で、特に神戸線においては乗客からの評判は今一つであったとの証言もあります(山口益生著「阪急電車 その全貌から個性とブランドを探る」)。

 

しかし、神戸では1935(昭和10)年に登場した市電の700形が路面電車として初めて転換クロスシートを採用し、「東洋一」と評されて市民の誇りになったと伝えられています。

 

現代でも、JRの新快速・快速は全てクロスシート車であり、阪神も直通相手の山陽のクロスシート車が好評を博したことから、新造車や改造車の一部をクロスシート化しました。また、阪神と直通する近鉄の「L/Cカー」も、当初はロングシート状態で乗り入れる協定が結ばれたものの、実際にはクロスシート状態で運転されることがあります。

 

このように、「神戸においてクロスシートが嫌われる」とは必ずしも言えない実態があります。一因として考えられるのは、神戸市電の700形や近年の転換クロスシート車は、座席下が空いており足を伸ばして着席できることです。

 

これに対して、阪急8000系のクロスシートは座席下に暖房器具が詰まっており窮屈です。また、転換式とはいえ半数の座席はボックス化してしまいます。座席配置と窓割りも合っていません。「乗客からの評判は今一つ」だとすれば、このあたりに理由があるのではないでしょうか。

 

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