12篇 遠い日の約束 その12

 

 青い鳥の彼女の存在が気になりながらも、視線を其方へ向ける訳にもいかず、母に勧められるままアイスコーヒーを頼んだ。伯母が早く店を出たい様だったので、一気に飲んで心を残しながら立ち上がった。椅子を直しながらチラッと彼女の様子を窺った。当然ながら僕の事など眼中に無い様だ。それでも無垢な笑顔を見る事が出来ただけでも嬉しいと思った。


 季節が進み街路樹が色づき始めた。道路を歩いていると、ぽつぽつと枯れ葉なども舞っている。秋の装いは人だけでは無く街並みも変えている。あとひと月もすれば年の瀬だ。十代の頃は時間の流れに無頓着だったのに、二十代になると、時間の流れの速さに、焦りを感じてしまう様になった。大学生になったのは、ついこの間の様な気がするのに、もう三年生だ。あっという間に四年生になり、卒業を迎えるのだろう。就職も未だ決まっていない身なので、年明けには本格的に取り組まなければ、と心しているが、正直どんな職種を選べばよいのか模索中だ。


 歳末商戦で賑わう町を歩いていると他人にぶつかりそうになる。寸でのところで避けているが、うっかりしていると怪我などしかねないほど、殺伐としたものを感じる時期だ。家に引きこもっていた方が良かった、と後悔しながら小野田と約束した方向へ向かっていると、見知った顔が目に飛び込んで来た。人と会うから、と僕より先に外出した姉がいたのだ。隣に並んでいる男性と笑顔で話している。ああ、デートだったのか、と得心が入った。このまま顔を合わせるのも気まずいな、と考えていると、二人は小路に入って行ったのでホッとした。男性が誰なのか知りもしないが、何となくあの二人は結婚するのだろうな、と予感がした。町で姉を見掛けた事は黙っていた。両親には未だ打ち明けていない様なので、姉から言い出すまでは知らぬふりをしようと思ったのだ。僕自身、姉の恋愛を揶揄うほど余裕も無かった。


 年の暮れになると騒がしい町中も落ち着いて来る。客を迎える家、家族だけで過ごす家、温泉地で過ごすために留守になった家、それぞれの事情を抱えながら、一年を振り返り新年を迎えている。もしかしたら来年は我が家も一人欠けているかもしれない。そう思うと今の此の家族の時間が愛しいものに感じられる。自分だって何時かは此処から巣立つ時が来るのだ。