「年金削減、介護の危機、医療改悪をくいとめ、高齢者の人権と尊厳を守るための緊急提言」を発表。

高齢になっても、人間らしいくらしを送れるようにするのは政治の責任。現役世代や若い世代にとっても「他人事」ではない。健全な経済成長のためにも、社会保障の充実こそ!

 

今の年金制度では高齢者はもちろん、若い人ほど年金が実質減額になる。財源を確保して、若い世代も含め年金の給付水準を下げるべきでない。
 

 

 

 

                                       

 

                                           2024年9月26日 日本共産党

 

 

年金・介護・医療――高齢者の暮らしを支える基盤の"崩壊"が起こっています
 物価高騰が高齢者の年金生活を直撃し、「暮らしていけない」という悲鳴が上がっています。自公政権が、物価上昇を下回る年金改定で実質減額を続け、第2次安倍政権以降の12年間に、公的年金は実質で7.8%も削減されました。"目減り"した年金額は30兆円を超えます。この夏、電気代の負担を苦にしてエアコンの使用を控えて熱中症になり、亡くなる高齢者が相次ぎました。「フードバンク」「地域食堂」などの食料支援に列をつくる高齢者も急増しています。

 介護では、提供体制の崩壊という介護制度の危機が進行しています。ホームヘルパーなど介護人材が不足し、人手不足と経営悪化による介護事業所の撤退・廃業・倒産が続出しています。とくに、政府が今年度から訪問介護の基本報酬を削減したことが大打撃になりました。地方では、介護事業所が1カ所もない市町村が出てきています。保険料・利用料を払っても、「人材・事業所がないため、介護サービスが受けられない」という危機的事態です。

 75歳以上の高齢者の医療費の窓口負担は、「原則=1割、現役並み所得者=3割」とされてきましたが、一昨年、単身で年収200万円以上の人などの窓口負担を2割に引き上げる改悪が強行されたために、深刻な受診抑制が起こっています。そのうえ、政府は3割負担の対象をさらに広げる方針を打ち出しました。国保料の値上げが高齢者にも大きな負担になっています。

 年金も介護も医療も、人間らしい暮らしを送るためのものです。それらが今、本来の機能を失い、危機的な状況におちいっています。憲法は、すべての国民に健康で文化的な最低限度の生活を送る権利があることを明記し、その保障を国の責務と定めています。高齢者になっても、人権と尊厳が守られ、人間らしい暮らしを送れるようにするのは政治の責任です。

現役世代・若い世代にとっても大変な事態です
 年金・介護・医療の機能不全は、現役世代にとっても"他人事(ひとごと)"ではいられません。

 いま、働く現役世代が、介護のために仕事を辞める「介護離職」が年間10万人にのぼるなど、要介護者の家族の負担は重くなっています。「ケアマネが見つからず、介護サービスが受けられない」、「ヘルパーが不足して時間を減らさざるをえない」、「入居できる施設がない」など、家族の負担がいっそう重くなる事態が広がっています。

 誰もが、高齢者になります。まともな年金が保障されないという現実は、若い世代にとって"将来の自分の姿"です。自公政権の計画では、年金は今後もどんどん減らされます。今年7月に発表した「年金財政検証」によれば、過去30年と経済状況が変わらないという想定の場合、現在月6万8000円の国民年金(基礎年金)の実質的価値は、いま40歳の人が65歳になるときには月5万2000円に、いま20歳の人が65歳になるときは月4万8000円となります。高齢になると、人権も尊厳も尊重されないというのでは、若者が将来に希望を見いだせなくなるのも当然です。

日本経済にも大きな打撃となります
 年金・介護・医療など社会保障は、国民の大切な権利であると同時に、経済の重要な部分を占めています。公的年金は、全国46道府県で「県民所得」の10%以上を占め、26県で「家計最終消費支出」の20%以上となるなど、地域の経済と消費の重要な柱です。その年金が削減され、医療や介護の負担が増えることは、家計の所得を減らし、生活不安・将来不安を増大させ、経済に大きなマイナスとなります。

高齢者の人権と尊厳を否定する卑劣な攻撃は許されない
 自公政権はこの12年間、国の社会保障費を削減するため、「社会保障が高齢者に偏っている」「高齢者向けの予算を子どもや若者にまわす」など、世代間の対立をあおる宣伝を繰り返しながら、年金・介護・医療などの制度改悪を強行してきました。まさに、事実をゆがめ、高齢者を"じゃまもの"扱いし、人権と尊厳を否定する攻撃です。政府が自ら、日本社会の分断を進め、世代間のバッシングを助長するなど、許されるものではありません。

 

【年金削減、介護の危機、医療の改悪をくいとめる緊急提言】
 日本共産党は、年金削減、介護の危機、医療の改悪をくいとめ、高齢者の人権と尊厳を守るため、緊急の提言を行います。

 1、物価高騰にふさわしい年金に引き上げます――巨額の積立金、高額所得者への適正な負担などで財源はつくれます
物価の値上がり、賃金上昇に追いつかない「年金実質削減」政策をやめる

 この12年間で年金が30兆円も減らされたのは、自公政権が「100年安心」といって導入した「マクロ経済スライド」など年金の実質額を下げる仕組みがあるからです。「マクロ経済スライド」は、毎年度の年金の改定率を物価や賃金の伸びよりも低く抑えることで、年金給付を抑え込み、目減りさせるためにつくられました。

 こうした「年金実質削減」の仕組みを凍結・撤廃し、年金を物価の値上がりや賃金の上昇に追いつかせる、年金引き上げを行います。

異常で巨額の年金積立金を年金の引き上げに活用する――「年金積立額は、現在290兆円が100年後に1京7000兆円に!」(政府試算)
 年金積立金は、現在290兆円、給付の5年分がたまっています。年金の給付を削りながら積立金は増やし続けるというのが、自公政権の政策です。

 政府は7月の「財政検証」で、経済成長への移行が見込まれる想定のもとでも年金を削減しながら積立金を増やし続け、100年後(2120年)には給付の23年分にあたる1京7371兆円に積み増すという試算も示しています。こんな本末転倒の政策はただちにやめ、年金積立金は計画的に給付の維持・拡充に充てるのが当然です。

 欧州諸国の年金積立金は、ドイツが給付の1.6カ月分、イギリスが給付の2カ月分、フランスが給付の1カ月分未満などで、日本のため込みはそもそも異常です。

 安倍・菅・岸田内閣は、年金積立金を株式市場に大量投入し、株価をつり上げ、「アベノミクスの成功」を演出しながら、大株主や大企業に巨額の利益をもたらしてきました。国民の共有財産をリスクにさらして富裕層・大企業のもうけの道具に使う、こんな邪道の政策はきっぱりやめるべきです。

年金の保険料収入と加入者を増やす対策を
 あわせて、年金財政の保険料収入と加入者を増やす対策を進めます。

 現行制度では、「年収1000万円」が保険料をかけられる収入の上限とされ、それ以上の収入があっても保険料負担は増えません。高額所得者への優遇策となっている、この"低すぎる上限額"を健康保険料と同じ「年収2000万円」に引き上げれば、1兆円規模の新たな財源を確保できます。

 さらに、現役労働者の賃上げ・待遇改善を進めれば、年金の加入者と保険料収入を増やし、年金財政を持続可能なものにすることができます。最低賃金の引き上げ、大企業への内部留保課税とそれを活用した中小企業に対する賃上げ支援、男女の賃金格差の是正、非正規ワーカーの待遇改善など、年金財政の支え手である現役労働者の賃金・待遇の抜本的改善を進めます。

 
2、介護への国の支出を増やし、介護の基盤崩壊を打開するための緊急対策を実施します
介護保険の国庫負担割合を10%引き上げ、介護報酬の増額、介護職員の待遇改善、介護事業の継続支援を行います
 現行の介護保険は、公費50%(国庫負担25%、都道府県・市町村負担25%)、保険料50%で運営されています。このうち国庫負担を10%増やして35%とし、公費負担60%の制度にし、国の支出を1.3兆円増やします。

介護の深刻な人材不足や、事業所の廃業・倒産の根本には、低すぎる介護報酬とその連続削減があります。危機を打開するには、介護職の賃金・労働条件の抜本的な改善と、事業所の経営の立て直しに向けた、介護報酬の引き上げや公的支援が必要です。

 ところが、今の介護保険では、"職員の処遇改善や給付の充実をすると、保険料・利用料の負担増に跳ね返る"という問題が生じてしまいます。この"矛盾"を解決するには、介護保険財政に投入する公費負担を増やすしかありません。

 介護保険の公費負担割合を50%から60%に引き上げることは、いま、介護の再生を求める広範な有識者や団体・個人の一致した要求となっています。かつては、自民党・公明党も介護保険を「持続可能」にするための政策として、公費負担割合の6割への引き上げを国政選挙の公約にかかげていました。それを実施することは急務です。

この財源は、富裕層・大企業への行き過ぎた税金の優遇をあらため、応分の負担を求める税制の改革によって確保できます。自公政権は、介護をはじめ社会保障は「財政危機だ」といって削減と負担増を繰り返してきました。その一方で、「安保3文書」にもとづく戦争国家づくりのために、「5年間で43兆円」の大軍拡を進めています。43兆円といえば、介護保険の国庫負担増にかかる1.3兆円の33年分です。国の歳出は戦争への備えではなく、国民の暮らしと尊厳がおびやかされる事態への備えにこそ使うべきです。

人材を確保できるだけの介護職員の賃上げと労働条件改善を
 介護現場の人手不足の最大の原因は、「全産業平均より月5万円以上低い」とされる介護職員の低賃金と長時間・過密労働です。介護職員の離退職が相次ぎ、現場の人手不足と過重労働が悪化して、さらに職員が辞めていくという"悪循環"です。

 政府は、ボランティア・外国人の登用や、転倒防止センサー導入などの「ICT化」で人手不足を補うとしていますが、事態の解決にはほど遠いものです。

――介護保険制度への国庫負担を10%増やし、公的助成で賃上げを進め、「全産業平均並み」に引き上げていきます。介護報酬の増額・改善と一体に、ホームヘルパー・ケアマネジャー・職員の処遇改善と、長時間労働の是正をはかります。

――介護施設職員の長時間・過密労働や「ワンオペ夜勤」の解消にむけ、施設職員の配置基準の見直しや、「夜勤の複数配置」を実現するための報酬加算・公的補助などを行います。

――介護事業所・施設の人件費を圧迫している人材紹介業者への手数料に「上限」を設けるなど、人件費が確実に職員の賃金にまわるようにします。

介護報酬を引き上げ、介護事業所の経営再建と事業の継続を応援します
 2003年度から2021年度に、介護報酬の本体部分は、消費税増税対応分を除いた実質で5.74%も削減されました。そのうえ、政府は、2024年度の報酬改定で訪問介護の基本報酬の引き下げを強行し、その結果、今年1~8月の介護事業所の倒産は、前年同期の1.44倍と激増し、コロナ危機の渦中にあった2020年を上回る史上最多の水準となっています。倒産の約半数は訪問介護の事業所で、その大半は小・零細事業者です。

――訪問介護の基本報酬をすみやかに元の水準に戻します。削減されてきた介護報酬を底上げし、介護事業所の経営の継続に向けた支援を行います。

"介護事業所が地域からなくなる"......介護基盤を支えるための国の特別措置を
 2019~23年度の5年間で、訪問介護事業所の4分の1にあたる8648カ所が廃止されました。事業所の撤退・廃止後、それに代わる新規の参入がない地域では、介護事業所が"消滅"の危機にひんする事態となっています。「しんぶん赤旗」日曜版の調査によれば、今年6月末時点で、訪問介護事業所がゼロの自治体は97町村、ひとつしかない自治体は277市町村にのぼります。

 そうしたなか、地域から介護事業がなくなる事態をくい止めようと、自治体が公費を投入して介護職員の賃金や待遇を保障する動きが起こっています。"民間まかせ"では事業所が成り立たない地域では、介護事業所の経営を自治体が公費で補助したり、自治体が直接、事業所を運営する「公営化」に踏み出す事例も出てきています。

――介護の事業が消失の危機にある自治体に対し、国費で財政支援を行う仕組みを緊急につくります。医療における公立病院などと同様、へき地や不採算部門を担う介護事業所・施設の経営を、国と自治体で支える取り組みを行います。

 

3、高齢者いじめの医療費負担増をやめさせ、負担の軽減を進めます
2022年の窓口2割負担の導入に続き、政府が9月に決定した「高齢社会対策大綱」で、75歳以上で窓口負担が3割となっている「現役並み所得者」の範囲を拡大し、さらなる医療費の負担増を高齢者に負わせる方針を打ち出しました。

 病気にかかりやすく、治療に時間もかかる高齢者の窓口負担は、現役世代より低くしてこそ、世代間の負担の公平を図ることができます。不公平を拡大し、高齢者の命と健康を脅かすだけの制度改悪はやめるべきです。

――高齢者に際限なく負担増を押しつける医療改悪をやめさせ、70歳以上の窓口負担を一律1割に引き下げ、軽減・無料化を進めます。

――後期高齢者医療保険料、国民健康保険料(税)の値上げをくいとめ、減免・引き下げをはかります。

――高齢者にとっても大きな不安となっている、健康保険証の廃止、マイナ保険証の強制をやめます。

【高齢者の人権と尊厳が守られる年金・介護・医療へ――展望をもった制度改革を進めます】
 年金削減、介護の危機、医療改悪をくいとめながら、高齢者の人権と尊厳を守られる年金・介護・医療制度にするための、展望をもった制度改革を進めていきます。

「頼れる年金」制度への改革を進めます
 公的年金制度のなかに「あらゆる人に最低限の年金額を保障し、無年金・低年金者をつくらない」という最低保障の仕組みがないのは、先進国では日本だけです。国連からも「最低年金を公的年金制度に導入」することが「勧告」されています。低年金の底上げ、最低保障年金の導入など、「頼れる年金」にするための改革を進めます。

介護保険の給付の充実と利用者負担の軽減を進め、高齢者も現役世代も安心できる介護・福祉制度にします
 この12年間に自公政権が繰り返してきた、介護保険の負担増・給付削減の制度改悪が、要介護者と家族を苦しめています。介護保険の生みの親といわれる元厚労省幹部が、「介護保険は『国家的詐欺』となりつつある」と警鐘を鳴らす、異常事態です。

 自公政権は、軽度者の在宅サービスの保険給付外しや、利用料の2割・3割負担の対象拡大など、「史上最悪の介護保険改定」を引き続き「検討」していますが、介護の再生を願う、広範な介護・福祉・自治体関係者による改悪反対の共同が広がっています。負担増・給付削減に反対し、保険給付の拡充と利用料・保険料の減免をはかります。

 高齢者虐待、貧困、社会的孤立など、介護保険のサービスでは対応できない事案に対応する、自治体の福祉(措置)の機能と体制を強化します。

 住居費用の負担が大変な高齢者や、病気・要介護のためにそれまで住んでいた住居に住み続けられなくなった高齢者が、低廉な費用で質の確保された住宅に居住できるようにする支援を強化します。

医療費の負担軽減、医療体制の整備・拡充を進めます
 高すぎる窓口負担の軽減を進め、将来的には"窓口負担ゼロ"の医療制度をめざします。公費1兆円を投入し、人頭税のようにかかる均等割・平等割を廃止して、高すぎる国民健康保険料(税)を抜本的に引き下げます。高齢者に負担増と差別医療を押しつける、後期高齢者医療制度を廃止します。病床削減や病院統廃合をやめ、医師・看護師を増員し、地域医療の体制を拡充します。

暮らしを支える社会保障の拡充は、健全な経済成長の土台にもなります
 日本は、先進国のなかで高齢化がもっとも進んだ国でありながら、社会保障への公的支出(社会支出)はGDP(国内総生産)の22.9%にとどまり、ドイツ(28.1%)、フランス(31.4%)、イタリア(28.7%)、デンマーク(30.8%)などの欧州諸国や、「自己責任の国」と言われるアメリカ(24.1%)よりも低い水準です。「高齢化の進展度合いから見ると、我が国の社会保障給付の水準は相対的に低い」ことは、『厚生労働白書』も認めています。

 年金が増えれば家計の所得も増え、地域の経済・消費にもプラスとなります。介護の人材確保や事業所の経営再建を進めることは、地域の仕事と雇用を守り、経済の振興にもつながります。お金の心配なく必要な医療を受けられる体制をつくり、国民の健康が守られることは、経済・社会の健全な発展の土台です。

 高齢者の人権と尊厳を守ることで、経済の健全な成長や社会の発展も実現していく――これこそ、憲法25条をもつ日本がめざすべき道です。日本共産党はその道への転換をめざして、力をつくします。