主張

24年版「防衛白書」

安保政策の大変質があらわだ

 
 防衛省が2024年版「防衛白書」を公表しました。1970年に中曽根康弘防衛庁長官の下で発刊され、76年の2回目からは毎年刊行されてきました。自衛隊創設70年となる24年版は50回目です。初版と比べると、岸田文雄政権の下での安全保障政策の大変質ぶりがあらわです。

■砲艦外交を主張
 まず、安保政策上の外交の位置付けです。

 初版は「国の安全保障上、まず考えなければならないことは、いかにしてわが国に対する外国の脅威や侵略を未然に防止するかということである。このため、まず、たいせつなことは、国の外交的努力である」とし、具体的な取り組みとして「積極的平和外交、国際連合の強化、軍縮や軍備管理」を挙げています。

 これに対し、24年版は「優先されるべきは、積極的な外交の展開」としつつ、「日米同盟を基軸とし、同志国との連携、多国間協力を推進していくことが不可欠」としています。外交でも最重要視しているのは日米同盟です。

 その上で「外交には、裏付けとなる防衛力が必要」だとし、「反撃能力の保有を含む防衛力の抜本的強化などを進めていく」と強調しています。岸田政権が決めた敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有などによって相手国を脅す「砲艦外交」にほかなりません。

 初版にこうした発想はありません。しかも、「防衛力」の「憲法上の限界」として「他国に侵略的な脅威を与えるようなもの、たとえば、B52のような長距離爆撃機、攻撃型航空母艦、ICBM(大陸間弾道ミサイル)等は保持することはできない」としています。

 重要なのは、他国に侵略的脅威を与えるような兵器は憲法上持てないとしていることです。岸田政権が敵基地攻撃能力として導入を進めている長距離ミサイルやそれを搭載する戦闘機や艦船が、そうした兵器に当たるのは明らかです。

 24年版は反撃能力のQ&Aを掲載し、日本が武力攻撃を受けていないのに米国の戦争に加わる集団的自衛権の行使として敵基地攻撃能力を使うことも否定していません。集団的自衛権の行使を違憲としていた時代の初版には当然、そうした記述はなく、自衛隊の出動は「わが国に対する侵略があった場合」だけです。

■軍事費を2倍化
 軍事費の考え方もまったく違います。

 初版は「社会保障、教育その他の諸施策との間に、適切な調和を保ちつつ、効率的な防衛力を漸進的に整備する」とし、「経済力の増大に比例し、国民総生産や国家予算との比率によりきめることは、必ずしも適切でない」としています。

 一方、24年版は、NATO(北大西洋条約機構)加盟国などが「経済力に応じた相応の国防費を支出する姿勢を示しており、わが国としても、…防衛力の強化を図るうえで、GDP(国内総生産)比で見ることは指標として一定の意味がある」とし、27年度の軍事費をGDPの2%(11兆円)にするとしています。22年度に比べ、2倍に膨れ上がります。

 平和と憲法を壊し、暮らしを押しつぶす岸田政権の大軍拡計画をストップさせることが必要です。
 
 



安全保障環境の激変、アジアで際立つ 24年版防衛
 
防衛省は12日、2024年版の防衛白書を公表した。北朝鮮の核・ミサイル開発を巡り「質的な意味で能力向上に注力している」と指摘した。固体燃料型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星18」の発射に成功したことを踏まえた。

東アジアの情勢は「ロシアによるウクライナ侵略により、国際秩序を形づくるルールの根幹が簡単に破られた。同様の深刻な事態が東アジアにおいて発生する可能性は排除されない」と記した。

24年版の白書は自衛隊創設から70年で50冊目と節目の白書になった。日本周辺の安全保障環境はこの10年で激変した。政府は集団的自衛権の行使を容認し、防衛力の抜本的な強化に乗り出した。白書の文言も10年間で変容した。
 
 
防衛白書は例年、日本を取り巻く安保環境の説明から始まる。

14年の白書は「各国間の具体的かつ実践的な連携・協力関係の充実・強化が図られている」と書き、危機感は強くなかった。「冷戦終結にともない安全保障環境の大きな変化はみられない」と明記した。

24年版は状況が一変した。「グローバルな安全保障環境と課題はインド太平洋地域で特に際立っており、将来さらに深刻さを増す可能性がある」と記載した。

中国や北朝鮮の軍事動向が背景にある。防衛省は10年前、中国について「強く懸念しており、今後も強い関心を持って注視していく必要がある」と評した。当時の中国軍は太平洋に現在ほど進出しておらず、東シナ海が主な活動範囲だった。

24年版は「日本と国際社会の深刻な懸念事項で、これまでにない最大の戦略的挑戦」と変化した。章立ても変わり、14年版は朝鮮半島の情勢認識が中国の前に置かれていたが、24年版は中国が先になった。

北朝鮮への言及は「地域・国際社会の安全保障にとって重大な不安定要因」から「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威で、地域と国際社会の平和と安全を著しく損なう」へと強めた。核・ミサイル開発の進展が影響した。

このような「挑戦」や「脅威」に対抗するための日米同盟の表現は対等な関係に改めている。

これまでは「駐留する米軍のプレゼンスは日本の防衛に寄与する」と米軍に頼りきっていた。

24年版は日本が防衛力を強化し「米国の能力のより効果的な発揮につながる」と自衛隊の役割を強調した。「日米同盟のもとで日本の防衛と地域の平和や安定のためより大きな役割を果たす」と訴えた。

米国以外との協力も進む。23年版の防衛白書は「同志国」の単語が初めて登場した。24年版は「安保環境を確保するためには、同盟国・同志国と協力・連携を深めていくことが不可欠」と言い切った。

この10年で大きく変わったのはサイバーや宇宙といった新しい領域だ。

10年前は白書で「サイバーセキュリティは安保上の重要な課題」として列挙した。サイバーは防衛分野でも存在感は増しており、今回は「サイバー攻撃は社会に深刻な影響を及ぼすことができる安保にとって現実の脅威」と踏み込んだ。

宇宙も同様だ。「安保上の重要な課題」から「宇宙空間における脅威が増大する」になった。

防衛力を支える防衛産業の表現は22年にまとめた安保3文書で防衛生産・技術基盤を「防衛力そのもの」と明記したものに沿った。24年版の防衛白書で章題を「いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤の強化」にした。

防衛産業の内容を紹介するページ数でも変化が見られる。14年版で21ページだったが、24年版は7割増の37ページを割いた。