「指揮統制」の連携によって、敵のミサイル発射拠点など攻撃目標を特定する情報収集能力をはじめ圧倒的な力を持つ米軍の指揮下に、自衛隊は本格的に置かれることになります。米軍の海外での戦争に自衛隊が組み込まれ、敵基地攻撃などを行えば、日本への報復攻撃は避けられず、国土は焦土と化します。「戦争国家づくり」を許さない国民的運動を大きくする必要があります。

 

 集団的自衛権行使を可能にする安全保障関連法が施行されてから29日で8年となった。自衛隊幹部が米国製巡航ミサイル「トマホーク」を米軍と情報共有して敵基地攻撃に使う可能性に言及するなど軍事的な一体化は加速。4月の日米首脳会談では米軍と自衛隊の指揮統制の連携強化で合意する方針だが、強大な米軍の影響力で自衛隊の指揮権の独立性が損なわれ、日本が米国の軍事行動に巻き込まれる懸念は消えない。(川田篤志)

◆海自トップ「トマホークで日米連携攻撃も可能」
 海上自衛隊トップの酒井良海上幕僚長は26日の記者会見で「日米がそれぞれのトマホークで同じ目標に攻撃を行うことはシステム上は可能だ」と表明。「実施するかどうかはその時の戦術判断による」と強調した。

 岸田政権は2022年末に改定した国家安保戦略で敵基地攻撃能力の保有を決めるなど、16年3月に安倍政権で施行された安保法を受けた防衛政策の転換を次々と進める。「存立危機事態」になった際、集団的自衛権の行使で自衛隊が敵基地攻撃を行う可能性があり、日米が協調したトマホークの運用も想定される。

 

 

 制服組トップの吉田圭秀統合幕僚長も28日の会見で「トマホークはもともと米軍の装備なので、さまざまな形で日米連携が行われていく」と指摘する。日本は米国からトマホーク(射程1600キロ以上)を最大400発購入することを決めており、25~27年度にかけて順次納入される。
 在日米軍は25~29日、米海軍横須賀基地で海自の隊員らに対し、トマホークの実戦配備に向けた初めての教育訓練を実施。トマホークの運用に必要な座学研修や、米艦艇での実戦を想定した訓練を行った。今後も2カ月ごとに日米で訓練を行い、運用に習熟した隊員を増やしていくという。

◆岸田首相は「独立した指揮系統」を強調するけれど
 

 

 木原稔防衛相は29日の会見で米軍の支援を歓迎し、安保法施行に伴い「日米同盟はかつてないほど強固となり、抑止力、対処力は向上した」と主張した。

 だが、米国がサイバーや衛星などを含め圧倒的な軍事力と情報収集力を誇る中、日米の軍事的な一体化が進めば進むほど、有事の際に日本が主体性を発揮しにくくなり、米国の意向に左右される側面は否定できない。トマホークの発射でも、日本が狙う相手国の軍事拠点の選定などで米軍の能力に頼らざるを得ない。

 岸田文雄首相は4月のバイデン米大統領との会談で、敵基地攻撃能力の保有を踏まえ、日米の共同対処能力の向上に向け、米軍と自衛隊の指揮統制の連携強化で一致する見通しだ。

 

 首相は「自衛隊と米軍は独立した指揮系統に従って行動する」と繰り返すが、共同作戦計画などで一体的な運用がさらに強まるのは確実だ。日本が独立した指揮系統を維持できるのか、米国の軍事行動に組み込まれる事態は想定されないのか、疑問は尽きない。

 

 

主張

安保法制施行8年

「戦争の準備」を必ず止めよう

 歴代政府が憲法違反としてきた集団的自衛権の行使など、米軍の海外での戦争に自衛隊が参戦することを可能にした安保法制=戦争法が2016年3月29日に施行されて8年が過ぎました。安保法制は、「戦争国家づくり」を法制面で進めるものでした。その下で、岸田文雄政権は22年末、敵基地攻撃能力の保有と、5年間で43兆円の軍事費をつぎ込む大軍拡計画を盛り込んだ「安保3文書」を閣議決定し、実践面での「戦争国家づくり」に乗り出しています。日本の平和と国民の暮らしを守るため、「戦争準備」の企てを止めることが切実な課題になっています。

在日米軍の機能を強化

 安保法制は、日本は攻撃を受けていないのに、海外で米軍が先制攻撃の戦争を起こしたり、海外の紛争に介入・干渉する戦争を始めたりした際、自衛隊が米軍に対し輸送や補給、修理・整備、通信、医療などあらゆる後方支援を担い、さらには米軍とともに戦闘に参加(集団的自衛権の行使)する法的仕組みをつくりました。

 安保3文書は、相手国領土にあるミサイル発射拠点などを直接たたく敵基地攻撃能力の保有を初めて打ち出しました。これは、集団的自衛権の行使容認と同じく、憲法違反としてきた歴代政府の見解を百八十度覆す立憲主義破壊の暴挙でした。

 3文書はまた、現代の戦争の特徴として、陸・海・空という従来の領域に加え、宇宙・サイバー・電磁波といった新しい領域にわたる作戦(領域横断作戦)の能力強化などを重視しています。

 その上で、敵基地攻撃と敵ミサイルの迎撃を合わせた「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)や、領域横断作戦などさまざまな任務を統合し、米軍と共同して実施していく必要を強調しています。

 3文書は、そうした態勢構築のため、陸・海・空自衛隊を一元的に指揮する「常設の統合司令部」の創設を決めました。政府はその具体化として、「統合作戦司令部」を24年度中に新設しようとしています。

 さらに日米両政府は4月10日の首脳会談で、米軍と自衛隊による「指揮統制」を連携させる方針で合意しようとしています。「指揮統制」とは、部隊の活動を計画・指示・監督することです。その連携は、米軍と自衛隊の部隊を一体的に動かし、戦争をともにたたかう態勢をつくることになります。

 首脳会談を受け、5月末に日米の外交・軍事担当閣僚による会合(2プラス2)を開き、具体的な仕組みづくりの検討を始めます。

 現在、在日米軍部隊に対する指揮権は、日本と時差や距離のある米ハワイのインド太平洋軍司令部が持っています。基地の管理を主な任務にしている在日米軍司令部(東京)に指揮権の一部を付与する案などが挙がっています。

自衛隊が米軍指揮下に

 「指揮統制」の連携によって、敵のミサイル発射拠点など攻撃目標を特定する情報収集能力をはじめ圧倒的な力を持つ米軍の指揮下に、自衛隊は本格的に置かれることになります。米軍の海外での戦争に自衛隊が組み込まれ、敵基地攻撃などを行えば、日本への報復攻撃は避けられず、国土は焦土と化します。「戦争国家づくり」を許さない国民的運動を大きくする必要があります。

 

 

そこまでやる必要があるのか…?岸田政権の野心を描く、日米安保最大の秘策―在日米軍司令機能強化の背景

 
日米の連帯をより促進
読売新聞(3月25日付朝刊)は一面左肩に「在日米軍の司令機能強化―日米指揮統制見直し、首脳会談合意へ」の見出しを掲げて、同記事の冒頭で次のように報じた。

<米政府は、米軍と自衛隊との連携促進のため在日米軍の司令部機能を強化する調整に入った。複数の日米両政府関係者が明らかにした。陸海空自衛隊を束ねる「統合作戦司令部」が2024年度末に創設されるのに合わせ、日米の相互運用性を向上させる狙いがある。日米両政府は、4月10日の首脳会談後に発表する共同文書で、日米の指揮統制枠組みの見直しを明記する意向だ>。

事実である。翌26日に日本経済新聞(朝刊)がフォローしているので「読売」のスクープだ。しかし、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が24日付電子版で「US and Japan plan biggest upgrade to security pact in over 60 years」と題した詳細な記事を伝えていた。

それはさて措き少々、説明を捕捉したい。先ずは東京都下の横田米空軍基地に司令部を置く在日米軍司令部(リッキー・ラップ司令官=空軍中将)。米軍は世界に6つの地域別統合軍を展開するが、その中でも最大規模を誇るのが米インド太平洋軍(USINDOPACOM。ジョン・アキーノ司令官=海軍大将)であり、ハワイ州オアフ島の米海兵隊キャンプ・H・M・スミス内に司令部がある。陸海空軍及び海兵隊約38万人の兵士を擁する。司令官は5月にアキーノ提督からサミュエル・パパロ現太平洋艦隊司令官(海軍大将)に交代する。
 
在日米軍司令部は、この米インド太平洋軍司令部の傘下にある。そして在日米軍司令部には以下の各部隊が配置されている。米第5空軍司令部(東京都福生市の米横田空軍基地。ラップ中将が司令官を兼務)、在日米陸軍司令部(神奈川県座間市の米陸軍キャンプ座間。デイブ・ウォーマック司令官=陸軍少将)、米第7艦隊司令部(神奈川県横須賀市の米横須賀海軍基地。フレッド・ケイチャー司令官=海軍中将)、在日米海兵隊司令部(沖縄県うるま市の米海兵隊キャンプ・コートニー。ロジャー・ターナー司令官=第3海兵遠征軍司令官・中将)などだ。
 
付言すべきは、米海軍最大の艦隊としてインド太平洋地域を管轄する米第7艦隊司令部の存在である。横須賀を拠点とする同艦隊は原子力空母「ロナルド・レーガン」など70隻以上の艦船、200~300機の航空機、そして4万人以上の海軍兵士、海兵隊員が展開する。司令部は旗艦ブルーリッジ艦上に置く。
 
米軍の調整機能を保有・活用
次は自衛隊統合作戦司令部。今年の2月9日、政府は同統合作戦司令部の設置を盛り込んだ防衛省設置法等改正法案を国会に提出した。具体的には、同設置法第21条第一項に「陸上自衛隊、海上自衛隊及び航空自衛隊の共同の部隊として統合作戦司令部を置く」の文言を加えたものだ。4月4~5日には衆院本会議で同改正法案の趣旨説明及び質疑が行われる。尚、同統合作戦司令部は東京・市ヶ谷の防衛省内に設置される。

防衛省統合幕僚監部(統合幕僚長・吉田圭秀陸将)の運用部を切り離して実働部隊を一元的に指揮できるよう、既存の陸海空に加えて宇宙・サイバー・電磁波の領域横断作戦を実施する統合運用態勢の確立のためだ。主目的はもちろん、米インド太平洋軍との調整機能を保有・活用することである。

「在日米軍の司令機能強化」(読売の見出し)は、在日米軍司令部の権限を強化して新設される自衛隊統合作戦司令部との連携強化を意味する。それは、FT報道「Tokyo has been pushing for a US four-star commander in Japan 」にあるように、現行の在日米軍司令官(空軍中将)を、例えばパパロ提督の後任太平洋艦隊司令官(海軍大将)クラスの4つ星(大将)に格上げするということである。
 
そして権限が強化された在日米軍司令部と統合作戦司令部が共同作戦を通じて「台湾有事」や「朝鮮半島有事」の事態に対処するというものだ。念頭に置くのは米韓連合軍司令部(CFC。ポール・ラカメラ司令官=陸軍大将・在韓米軍司令官兼務)である。

岸田文雄首相が描く近い将来の絵図は、米韓並みの自衛隊と米軍の指揮統制の見直しとその一体化ではないか。まさに岸田進軍ラッパ、鳴り響くだ。果たしてそこまでやる必要があるのか、というのが筆者の率直な気持ちである。
 
歳川 隆雄