裏金、実は「課税所得」…これは脱税事件では? どこまでも特権だらけの「政治屋」と国民の途方もない落差
「ぼくらは税金をごまかせば、追徴金を取られる。一般人なら許してもらえませんよ」と話すのは岐阜市の30代の自営業の男性。地元の参院議員・大野泰正被告=政治資金規正法違反で在宅起訴=を支持する知り合いに頼まれ、一昨年、安倍派のパーティー券を20万円分買った。
「われわれがやるべきは再発防止策」と開き直る
派閥解散に自らを追い込んだ事件だが、会見した安倍派の幹部4人は議員辞職や離党を否定。塩谷氏は衆院政治倫理審査会長のみ辞任する意向を示した。ふざけんな!
<政治とカネ 自民党派閥裏金事件>①
オフィス街でありながら気軽に入れる飲食店が多く「サラリーマンの街」と言われる東京・新橋。実質賃金が20カ月連続でマイナスとなる中、勤め人らが多く待ち合わせる駅前広場で、自民党派閥の裏金事件に対する人々の怒りが沸騰していた。
「電気代や物価が上がって生活はアップアップしている。国会議員は裏金をためても、なぜ、おとがめがないんだろう。もっと厳しくした方がいい」と駅前広場を通りかかった千葉県船橋市の男性会社員(25)が怒った。
友人に会いに甲府市から上京してきた貴金属製造業の男性(69)は「私は納税を滞らせたことはないのに、政治家は何をしているんだ。政治屋という特権だらけの職業だ」と憤った。税務署に捕捉されない多額の裏金に対する怒りが、全国に広がる。
「ぼくらは税金をごまかせば、追徴金を取られる。一般人なら許してもらえませんよ」と話すのは岐阜市の30代の自営業の男性。地元の参院議員・大野泰正被告=政治資金規正法違反で在宅起訴=を支持する知り合いに頼まれ、一昨年、安倍派のパーティー券を20万円分買った。
「知り合いの顔を立てるためだった。税金を納めて残った利益から支援しているのに、その金をポケットに入れたらいかん」
◆記載しなくていいなら「裏金は政治資金ではない」
検察の捜査は、政治家が裏金を政治資金収支報告書に記載しなかった点に収れんした。だが、経済学者の野口悠紀雄・一橋大名誉教授は「税の問題があるのではないか」と指摘する。
「派閥から記載しなくていいと言われていたとすれば、裏金は政治資金ではないと考えざるを得ない。課税所得であり、申告しなくてはいけない。税というのは1円でもごまかしてはだめ。だから国民は怒っているのではないか」
多額の裏金を受け取り、そのままポケットに入れれば脱税に、パーティー券の売り上げの一部を「中抜き」すれば横領に-。これが普通の感覚だ。「派閥のパーティー券を買って」と言われて買ったのに、政治家の裏金になっていれば、詐欺に遭ったような感じを受けるかもしれない。
◆多額の報酬に加え、1200万円が自由に使える国会議員
会計責任者との共謀が立証できないとして安倍派・二階派幹部の起訴が見送られた19日、「政治家はどこまでも守られている」という怒りがさらに高まった。
そもそも日本の国会議員の報酬は諸外国と比べて恵まれているといわれる。年収は2100万円を超え、領収書のいらない「調査研究広報滞在費」が年1200万円支給されている。
「権力の中枢はそのままで、トカゲのしっぽ切り。国会議員と国民とで扱いが違いすぎる」と話すのは元衆院議員で前兵庫県明石市長の泉房穂さん。「この30年間、国民の給料はほとんど上がらないのに、税金や保険料は上がり、物価高で生活は苦しい。政治家には『普通の目線』がないんだろう」とあきれ果てた。
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<連載:政治とカネ 自民党派閥裏金事件>
自民党の派閥に巣くっていた多額の裏金事件で、ほとんどの国会議員は法的な責任を免れた。国民の感覚との大きな落差がどこからくるのかを問う。(三輪喜人、浜崎陽介、戎野文菜、米田怜央、昆野夏子が担当します)
死去した「会長」持ち出して責任逃れまで…裏金事件で立件3派閥 使途の調査に後ろ向き 詳しい説明はナシ
会見で派閥の幹部たちの発言で目立ったのは、自身の関与を小さく見せたり、責任を転嫁したりするような言いぶりだった。
1542万円の不記載があったと発表した世耕弘成前参院幹事長は、不記載の理由について「秘書が先輩から『一切記載しなくていい』と説明を受け、そう対応していた」とし、自身は知らなかったと釈明した。
派閥解散に自らを追い込んだ事件だが、会見した安倍派の幹部4人は議員辞職や離党を否定。塩谷氏は衆院政治倫理審査会長のみ辞任する意向を示した。
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◆自民党は派閥政治に幕を下ろせるのか
岸田文雄首相をはじめ歴代首相や党幹部は「政治とカネ」を巡る事件や問題が起こるたびに、議員個人の問題として片付け、再発防止につながる改革に取り組んでこなかった。「政策集団」としての機能より、金とポストを配分する機能が重視されてきた派閥の改革は手付かずだった。
関係者が刑事処分となった安倍派と二階派、岸田派は、事件の「幕引き」を図るかのように派閥解散を打ち出した。だが、自民党が派閥を全廃できるかは疑問だ。他派閥は解散に慎重だとされる。同党には派閥の解消を掲げながら、復活を許してきた過去もある。二階派の二階俊博元幹事長は19日、「人は自然に集まってくる。派閥が悪かったわけではない」と語った。
自民党は党を挙げて「政治とカネ」問題の温床となった派閥政治に幕を下ろす必要がある。裏金事件を生み出した派閥政治の構造的な問題点に向き合わなければ、国民の信頼を取り戻す政治改革にはつながらない。(中根政人)