日本の経営者や政治家などの社会のリーダー層にはノブレス・オブリージュが欠落していると強く感じます。

ちなみに、日本企業の正社員の数は、80年代以降、一貫して3,500万人前後です。既得権益という言葉と正社員を結びつけるのは、あまり好きではないのですが、正社員の待遇を維持するために、非正規労働者を増やしてきたように思えてなりません。

 

 

実質賃金低下に向き合わず
経労委報告 ストに警戒感も

 

 経団連は16日、2024年春闘の経営側指針となる「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)を発表しました。ベースアップ(ベア)を「有力な選択肢」といいますが、実質賃金低下に正面から向き合わず、リストラ施策とセットの「構造的な賃上げ」を主張しています。

 報告は、昨年の賃上げが「30年ぶりの高い水準」だったと誇りますが、実質賃金は20カ月連続マイナスです。ところが、算出方法を変えればプラスになると言い訳して労働者の生活悪化に背を向け、「物価上昇に対し、企業の賃金引き上げだけで対応することは現実的ではない」と開き直っています。

 「構造的な賃金引き上げ」という言葉を使い、「円滑な労働移動」などのリストラ策とセットにする考えを提示。ベアは有力な選択肢だとしますが、諸手当、一時金などから自社に適した方法を検討し、能力や業績・成果などの評価で格差をつけた配分が重要だとしています。

 内部留保のトピックでは、利益剰余金が11年連続で増加し554・8兆円となり、10年前から250・3兆円増だと指摘。昨年に続き「賃金引き上げ」に言及しており、大幅賃上げへの活用を迫ることが必要です。

 報告は、「数十年振りに大規模なストライキが実施された」とストの活性化を警戒し、「労使は、『闘争』関係ではなく、価値共創に取り組む経営のパートナー」と主張。ストを構えた労働組合のたたかいで、大幅賃上げを実現することが春闘の焦点だと裏付けています。

 

 

 

まったく信用できず。経団連会長「非正規雇用の賃上げと正社員登用」発言に浮かぶ疑問符

 

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

 

 



「高い社会的地位には義務が伴う」ノブレス・オブリージュなきニッポンのエリート
「安いニッポン」から脱却できない状況が続いています。

2023年11月の毎月勤労統計調査によると、1人あたりの賃金は物価を考慮した実質で前年同月比3.0%減り、20カ月連続でマイナス。23年10月と比べると2.3%減から0.7ポイント拡大し、厳しい状況が続いています。



そんな中、経団連は16日、今春闘での経営側の指針を発表し、大企業で4%以上の賃上げをめざす考えを表明し、中小企業の賃上げも支えるよう大企業に求めています。

十倉会長は序文で賃上げの歯車を回すことに「日本経済の未来がかかっている」と強調。大企業の2023年の賃上げは経団連集計で平均3.99%と約30年ぶりの高水準でしたが、さらなる熱量と決意で春闘にのぞむことが「社会的責務」とし、「昨年以上の賃上げに果敢に取り組みたい」としました。また、非正規雇用の賃上げや正社員登用の重要性も強調し、メディアは「極めて異例」と報じています。

…正社員はもとより、非正規の賃上げを実現しないと、日本の未来はない、はずです。非正規の割合は36.9%、約4割です。これだけ多くの人たちが非正規雇用で働いているのに、低賃金かつ不安定な働き方は一向に改善されていません。

1時間あたりの所定内給与額を正社員・正職員とそれ以外の人で比べた場合、非正規の賃金は正社員の6~7割程です。しかも、その差はこの20年間でほとんど変わっていません。

「非正規は雇用の調整弁ではない」と言い続けていたのに、リーマンショックの時は派遣切りを行い、コロナ禍でも真っ先に非正規の人たちは仕事を失いました。

変わるチャンスは何度もあったのに、経済界は深くコミットしてきませんでした。

それだけに「どこまで経団連は本気なのか?」と、言葉どおりに受け止められないというのが率直な感想です。

そもそも有期か無期か?は単なる雇用形態の違いであるはずなのに、経営者側の
都合で「賃金格差」を当たり前にしたのです。政治家も同様です。

「同一労働同一賃金」を含めた「働き方改革関連法」が成立した際、最後まで政府は「均衡」の2文字を入れることを譲りませんでした。

1951年、ILO(国際労働機関)は「同一価値労働同一賃金」を最も重要な原則として、第100号条約を採択。この根幹をなすのは「均等」です。

「均等」とは、一言でいえば「差別的取扱いの禁止」のこと。国籍、信条、性別、年齢、障害などの属性の違いを賃金格差(処遇含む)に結びつけることは許されません。仮に行われたとすれば、労働者は損害賠償を求めることが可能です。

 

一方、「均衡」は文字通り「バランス」です。「処遇の違いが合理的な程度及び範囲にとどまればいい」という考え方で、「年齢が上」「責任がある」「経験がある」「異動がある」「転勤がある」といった理由をつければ差別にはなりません。



もし、経団連が、あるいは政府が、本気で非正規の低賃金問題を解決したければ「均衡」を排除し、「均等」にすればいいだけです。コロナ禍で散々「ジョブ型にする」と言っていたのですから、非正規はジョブ型のプロとして育成し、雇用すればいい。学び直しだ、リスキリングだ、労働の流動性だ、などとことあるごとに言ってるですから、非正規をジョブ型のプロとして成長産業に集中させれば、企業は非正規の賃金アップを迫られるはずです。

これまで日本は「低賃金労働者」を生み出すことで、企業の生産性を高めてきました。女性をパートで雇い、若者をアルバイトで雇い、技能実習生などの外国人労働者に日本人が嫌がる仕事を安い賃金でさせ、高齢者を正社員から非正規に転換させてきました。

日本では当たり前になっているこれらの働き方は、世界では当たり前ではありません。どの国も同一労働同一賃金のルールのもと賃金を上げる構造をつくり、外から労働力を入れる政策を進め、いくつになってもきちんと稼げるように年齢差別の禁止を徹底し、クオーター制で意思決定の場に女性を増やす努力をしてきました。



今になって、「日本経済の未来がかかっている」と躍起になっていますが、だったら低賃金労働者ありきの経営をやめればいい。非正規の賃金を大幅にアップした一部の大企業もあるのですから、それを徹底すればいいだけです。低賃金ありきの経営を改めれば、安易に安い賃金で「人」に任せていた仕事の効率化・合理化が必然的に進みます。

なのに「そういった構造に変えよう」という強いインテンションがない。だから「変わらない」のです。

東大の卒業生に価値観の調査を行った本田由紀教授によると、年配の男性ほど「生活に苦しんでいる人は、努力が足りないせいだ」「社会に出てからは人と競争していくのが当然だ」と思う傾向にあったそうです。

このような結果をみるにつけ、日本の経営者や政治家などの社会のリーダー層にはノブレス・オブリージュが欠落していると強く感じます。

ちなみに、日本企業の正社員の数は、80年代以降、一貫して3,500万人前後です。既得権益という言葉と正社員を結びつけるのは、あまり好きではないのですが、正社員の待遇を維持するために、非正規労働者を増やしてきたように思えてなりません。