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キモカワイイと同じ!?妬み予防のカギには言葉の質と量

組織心理学~「妬み」との上手な付き合い方(2)リーダーの采配とコミュニケーション

 

山浦一保

山浦一保 立命館大学スポーツ健康科学部・研究科 教授/博士(学術:広島大学)

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テキスト

チームの状況を左右する「妬み」において、カギになるのはリーダーの采配である。妬みを生みにくい風土づくり、あるいは妬みの予防は、メンバー間のコミュニケーションにかかっている。一方で、やりすぎると「くどい」という感情を引き起こすことになる。質と量のバランスを考えるうえで取るべき方策にはどのようなものがあるのか。(全3話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)

時間:13:24
収録日:2023/06/21
追加日:2023/11/10

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●全体像と役割の提示――「妬み」を生みにくいリーダーの采配


―― (前回のお話にあった「妬み」によるネガティブな雰囲気がチーム内に出てきた場合に、)組織としてはどう取り組めばいいのかというのが、山浦先生のご専門である組織心理学の大きなテーマになると思います。

山浦 そうですね。

―― 前回のお話で、「いい嫉妬・悪い嫉妬がある」というようにもお聞きしました。組織を運営していく中で、どのように「妬み」という要素に向き合い、悪い嫉妬であれば、それを(どう)良くしていくようにするのか。これについては、どういう工夫をするとよろしいのでしょうか。

山浦 そこがまさに今の研究テーマです。前回申し上げましたように、「あの人がひいきされている」ということを感じると、「私にはつれないあの上司は、あるいは仲間は一体なんなの」というようなことで、妬みが生まれてしまいます。

 ですから、リーダーを中心にした人付き合い、社員やメンバーたちとのお付き合いの中で、どれだけ公平さ・公正さを担保するかというのが、非常に重要な問題になってくると思います。

 できる方にどうしてもたくさん仕事を頼みたくなるということも、リーダーであれば当然の采配だと思われます。そこでぜひ、「こういう理由で、この仕事はこの人に任せる」「この分量でお願いしようと思う」という言葉を、皆さんが納得される形で出していただきたい。そうすると、だいぶ緩和されると思います。

―― 実際に言うほうの立場からすると、そのように言ってしまうと、かえってえこひいきのようになってしまうのではなかろうか、といった心が働くようにも思います。それは、チームの人にはどのように伝えればいいのですか。

山浦 なかなか難しいですね。でも、普段の会話があれば、そういう一言は言えると思うのですが。難しいでしょうかね。

―― これは、意識し過ぎなのでしょうか。今回は大事な仕事だから、「これはあいつしかできないだろう」というようなことを言ってしまうと、いかにもえこひいきをしているようになってしまうかな、と思ったりします。

山浦 そうですね。それはなかなかのえこひいきですね。

―― これは当然、言い方も難しいわけですよね。

山浦 そうですね。例えば企画の仕事だとして、「こういう部分の構想を練るのが上手だから、あなたがやってみて」「次は、こういう部分の仕事が来るはずだから、そのときの準備をしておいて」というような形で、各自の強みをちゃんと生かした上で、また予告も含めて(伝えて)おけば、準備もしやすくスムーズに入っていける。そのような会話ができるとよろしいのではないかと思います。

―― なるほど。今のお話を伺うと、まず全体像を見せてあげて、その中のパーツとして、AパーツからCパーツまであったときに、「Aはこの人が得意そうだからやらせるけれど、君はCが得意そうだから、Cを担当してほしい」と。そのようにうまく全体像を見せた上でやっていくことが大事だという感じでしょうか。

山浦 仕事というのは、多分そうだと思います。そういう青写真を描いた中で、「強み」「弱み」「カバーし合う」という役割が出てきます。それから、同じ役割に2人、3人と置くから競争が始まってしまう。そうすると「あの人が」「この人が」という感情にもなりやすいのです。

 同じ土俵でありながら、強みを生かして担当する役割は違う。そのようにすみ分けさせることによって、余計な妬みの感情を沸き起こさせなくて済むのかと思います。
 

●「組み合わせ」と「予防」――妬みを生まない風土づくり


―― 具体的に想定できる例でいいますと、年齢差がある場合。例えば年下の人のほうがどうもできそうな感じもあり、上から見た場合にはその彼を成長させるためにもやや大きめの仕事を任せてみようか、というような場合、「なんで、あいつが」というような嫉妬を買ってしまうケースも多いように思います。その場合のコントロールは、どういう感じになるのですか。

山浦 そのあたりはチームの状況にもよるので、一概には言えないかなと思います。ただ、一人だけで仕事をすることはあり得ない話なので、そこに経験豊富な、ちょっと年輩の方をサポート役やフォロー役、あるいは指南役のような方とペアを組ませる、バディ(仲間)として組んでみるということもあるでしょう。そのあたりはチームの状況、あるいはどういう年齢構成か、どんな多様性があるかとの相談かなと思います。

―― より具体的にお聞きすると、よく聞く例で、一概にこう言ってしまうと問題になるかもしれませんが、男性ばかりのチームと女性ばかりのチームといった場合です。こうしたときに、例えば男性の上司からすると、女性ばかりのチームを指導する難しさがあることもあるでしょうし、おそらく逆の場合もあるだろうと思うのです。そういうときに、はたから見ていると、明らかに悪い妬みがあちこちで起きてしまっているケースも、ままあろうかと思います。

山浦 あるかもしれませんね。

―― 思うのですが、そういうときは、どうすればそれを良い妬みにうまく転換していけるものなのですか。

山浦 難しいですね。まず予防していただきたいと思います。

―― まずは予防なのですね。

山浦 妬みの感情がそこまではびこらないような風土づくりをしていくのは、やはりリーダーの役割かと思います。でも、生じさせたくないけれども生じてしまうのが感情であり、人の心の揺らぎです。ですから、そうなったとき、一つは先ほど申し上げたように評価をどうしていくか。一人ひとりをちゃんと見ているのだということを伝えていく作業だけは、手を抜かずにやっていただかないといけないことではないかと思います。

 これがとても難しいことなのは、私も現場で学生と付き合っていて百も承知です。でも、そこで手を抜かず、自分のできるだけ精一杯やったときには本当にいいチームができる。そこは、皆さんと一緒に苦労を共有しながらやりたいと思います。
 

●コミュニケーションにおける量と質のバランス


―― 先生がこのご本にお書きになったことで印象深いところでもあったのですが、いわゆるコミュニケーションや意思疎通の部分で、何というのでしょうか、ついつい「面倒くさくてやらない」、あるいは、ついつい機を逸してしまってやらない、あまり言うとくどくてまずいかと思っていわないなど、いろいろなケースがあると思います。でも、それが悪いことになってしまうケースも多い。そういうご指摘があったと思うのですが、やはりそういうものなのですか。

山浦 そうですね。そうだと思います。基本的にコミュニケーションというのは、かなりのエネルギーを使うと思います(今も一生懸命しゃべっています)。それから、第1話でお話しさせていただいたように、多様な相手を個々に見ていこうとすると、一人ひとりに向けるエネルギーはかなり膨大になっていく。それを考えても、やはり面倒くさいことです。単純に面倒くさい活動だと思います。

 でも、私たちがなぜ言葉を持って生活をし、人生を送っていくかを考えたときに、言葉には大きな力があり、与えられたものだと思うと、やはりそれを使わない手はないということです。

 ですので、どういう情報を渡すかというところには、やはり細心の、かつ最大のエネルギーを使いたいと思います。

―― くどいことと、意思疎通が足りずにうまくいっていないこと。その間の差というか違いというか(、それを考えるとき)、なるべくコミュニケーションをしたほうがいいということであれば、「そうしたい」というリーダーの方も多いと思います。その反面、「いつもうるさい、くどいとは思われたくない」ということもあるかもしれません。しかし、名経営者は同じことを繰り返し言うのが大事なのだというエピソードもあります。これらを自分の覚悟として、どう持っていけばいいのかというところですが、これはどういう感じでしょうか。

山浦 難しいですね。量と質のバランスだと思います。

―― 量と質ですか。

山浦 はい。量はやはり一定数必要だと思います。「いけすかん人だな」と思っても、接触頻度を増やせば増やすほど見慣れてくるし、聞き慣れてくるということは、人間の心理の基本原則にあります。「キモカワイイ」というような感情は、気持ち悪いと思っていたのにだんだんかわいくなる、というのと同じで、一定の量は必要になるということです。

 ただ、その量が、全ての会話において、全ての情報伝達において毎回毎回言ってくると、「また」という話になります。基本的には、人間、3回程度が一番受け入れがよくなります。

―― 3回なのですね。

山浦 説得をするときも3回をピークに、だんだん後は反発心が起きてくるケースがあることが多いともいわれています。2、3回を目安に、というのは、私自身が考えている分量ということになります。

―― なるほど。2、3回であれば、多分「うん、まだ聞いていない」と捉えるケースも多いのではないかと思います。そういうときに先生はどうされるのですか。

山浦 そういうときは、周りから言ってもらうようにします。

―― なるほど。自分で言うのではなくて。

山浦 組織ですから、全てをリーダーがやる必要はないと思います。誰か1人がやる必要もないと思っています。他の人の力を借りるという手もありますから。「ふん、ふん」と分かっているのみ込みの速いメンバーもいるはずですから、その人をそそのかす。そういう人をたきつけて、「あなたからちょっと言ってみて。あなたからのほうが、みんな聞く耳を持ちそうだから」という形で、だんだん裾野を広げていくということは時折やっています。

―― でも、組織ないしチーム全体を同じ価値観にしていくためには、多面的にやっていく。表の門がダメなら裏の門から攻めるやり方に近いところもあると思うのですが、そういうことが大事なわけですね。

山浦 そうだと思います。私は(全部)一人でやれるとは思っていませんので、例えばゼミの学生やチームの選手たちといろいろな話をしながら、「あっ、それはすごくいいから、あなたから言えばいいのに」というような形で(促してみる)。そうすると、意外に気づいていないこともあります。「それほど『いい』と言われるような話を、私が今したんだ」と改めて気づいてくれれば、その人も自信が持てるようになるのかなと思います。(そうなると、)私も「言ってよかった」と思えるので、なかなかハッピーな状態になるかなと思っています。

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