一次産業+再生可能エネルギーで承継問題・過疎問題解消へ

日本の「新しい成長」実現のために(2)農林水産業を魅力ある産業へ

 

小宮山宏

小宮山宏 東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長

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食糧安保の強化が叫ばれる一方、一次産業は後継者不足と高齢化にあえいでいる。その現状を一変するのが再生可能エネルギーとの組み合わせだと小宮山氏は言う。太陽光や風力発電の導入で、農林水産業が「儲かる」魅力的な産業になれば、後継者問題も解決し、地方再生が果たされるのではないだろうか。(全4話中第2話)

時間:12:14
収録日:2023/01/31
追加日:2023/05/22

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●再生可能エネルギーの積極導入で農林水産業の収入を上げる


 どのようにして食糧安保を確保していくのか。さまざまな目標のためにどうやって一次産業を強くして、再生可能エネルギーをどのようにしていくのか。このとき、一次産業と再生可能エネルギーを組み合わせることが極めて有力だろうと、私は思っています。



 土地当たりの収入ということを考えてみると、それがご理解いただけるのではないかと思います。

 例えば林業ですね。林業というのは、山に生えている木を毎年の成長分だけ切っていくのが持続可能な林業になるわけです。もちろん大きくなった木を切ってもいいのですが、そうすると、また30年、40年、50年と、大きくなるまで待たなくてはなりませんから、結局は毎年成長する分を切っていくことになります。そうすると、だいたい1ヘクタールで採れるのは5~10トンぐらいです。1トン当たりの売値は1万円から2万円ですから、1ヘクタール当たり10万円ぐらいが森林、すなわち林業から上がる収入となります。

 同じようなことを、例えばお米をつくる農業で考えますと、採れるのはやはり1ヘクタール当たり5トンぐらいです。しかし、お米は1トンで20万円しますから、だいたい100万円が1ヘクタール当たりの田んぼの生産量になってきます。ですから、林業を行うためには非常に広い面積でビジネスを行うことになります。

 それと比べて発電ですが、太陽電池では、同じ1ヘクタール当たりで100万キロワットアワーという単位の電気が1年間に取れます。例えば、1キロワットアワー当たり20円ぐらいと考えますと、2000万円の収入になります。

 風力では、さらに再生可能エネルギーが集中しているということがあるので、換算の仕方として、どこまでを風力発電の面積と取るかによりますが、おおむねの電力費は太陽光の10倍ぐらいの売上げになります。
 

●農・林・水産のそれぞれに再生可能エネルギーをプラス


 今、日本の森林には利用されていない面がたくさんありますが、これから世界においてバイオマスというものが非常に重要になってくるのは、ほぼ確実です。例えば、ジェット燃料を石油からつくることができなくなると、バイオマスからつくります。それから、今は石油化学でいろいろなプラスチックをつくっていますが、その石油が使えなくなるのが「脱炭素」ということですから、これもおそらくバイオマスからつくることになるのは、ほぼ間違いありません。

 (このように)さまざまに林業の需要が高まってきますので、日本にとっても非常に大事な資源になるのです。だから、日本の山を開発するのですが、そのときに100分の1でいい、つまり1パーセントの土地に太陽電池を置く。そうすると、単位当たり100倍の収入が得られますから、同じ1ヘクタールから(の収入)は2倍になる。林業収入はほとんど同じだけれども、太陽電池での発電を加えると、経済性は2倍になる。そうすると、今まで儲からないと思われ、若い人も跡を継がない状況だったのが、魅力ある産業になってくると思うのです。

 同じようなことが農地でも起こります。例えば、下にジャガイモやタマネギなどをつくっている畑ですと、そこにソーラーシェアリングという3メートルぐらいの高さの支えをつくり、その上に太陽電池を置きます。(畑地の)30パーセントぐらいまで長方形の太陽電池を置いて、隙間が7割ということになるわけです。30パーセントぐらいの太陽電池を設置しても、(作物に)まったく影響がないことは、いろいろと実験されて分かってきています。

 田んぼでも同じです。最初は、お米は無理だろうという人も多かったのですが、いくつかのベンチャーや大企業などがいろいろ実験をしてみて、30パーセントまではまったくお米の生産に影響しない、量も味も変わらないというデータが、あちこちから出てきています。

 30パーセントの太陽光が取れて、お米はまったく影響を受けないとすると、太陽光はお米の農地に比べて10倍の収入がありますから、(経済性は)約3倍になる。これにお米を合わせると、4倍の経済性ということになってくる。これはもう実験されています。人によっては2倍ともいいますし、5倍というデータもベンチャー等が出していますので、すでに実験されているのです。

 それから、風力に関していうと、漁業と組むべきだろうと思っています。今は漁業権の問題があるので、風力発電を海に置くようなことは進まないとか、そこを突破するのが大変だといわれます。しかし、そんなことはありません。海に何かを置くと、その周りにはほぼ確実に魚礁ができます。実験でもそのような結果が得られています。そして、風力からの電力というのは極めて集中して出てくるので、量が多いのです。ですから、漁業者が風力発電の業者と一緒に出資をすればいいのです。

 そうすれば、農林水産業というものの生産性が、再生可能エネルギーと一体化することで何倍にも増えるということになってくるのです。
 

●一次産業の枠組みが変わり、承継問題・過疎問題を解消


 今さまざまな問題があります。農林水産業のいずれも若い人が継がず、高齢化しているので、このままではもはや続かないことは目に見えています。しかし、今言ったように「儲かる産業」ということになれば、若い人も継ぎますし、それらの周辺に膨大な産業が生まれてきます。

 さらにいうと、石油・石炭・天然ガスから脱却しようというのが脱炭素になるわけですが、その中でエネルギーは極めて大きな影響を受けます。逆にいうと、再生可能エネルギーになるということは、各国の消費するところに資源が移るということですから、再生可能エネルギーというのは実は一次産業だということです。

 今、日本は20兆円から30兆円ほど石油・石炭・天然ガスを輸入しています。しかし、この膨大なものが日本各地に広がる、ということになるので、それが農林水産業の収入増になる。そうなると、おそらく20兆円から30兆円という、同じオーダーになるだろうと思います。

 今、地球温暖化という大きな転換期にあたり、エネルギーの元を変えていかなくてはいけないというときです。

 世界各国がそうですが、特に日本は雨が適度に多く、温暖で、光合成の速度が非常に早く、おそらくヨーロッパの寒いところに比べると、2倍近い光合成速度がある。これは農林水産業にとって極めて有利であり、周囲は海に囲まれて漁業資源も豊富です。その生産性を上げることによって、承継問題や地域の過疎のような問題などを総合的に解決していく。 そのような重要なものになるのではないかと考えます。

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