私の心境を歌うかのような曲が流れてきた
弦の音色があまりに美しくて
何度も聴き入ってしまう
鳴呼 唄うことは難しいことじゃない
ただ声に身をまかせ 頭の中をからっぽにするだけ
嗚呼 目を閉じれば 胸の中に映る
懐かしい思い出や あなたとの毎日
本当のことは歌のなかにある
いつもなら照れくさくて言えないことも
今日だってあなたを思いながら 歌うたいは唄うよ
ずっと言えなかった言葉がある 短いから聞いておくれ
「愛してる」
斉藤和義
先日、書類を整理中のこと
一通の封筒に片づけをする手は止まった
赤茶けた封筒の中から出てきたのは
私の息子(幼い頃)に宛てられたおこづかいを包んだ
父からの手紙だった
便箋の折り目に沿って手を這わせながら
そっと開いてみる
あぁ・・何て懐かしいんだろう
書体も、父らしい文面も、
そして優しい気遣いも
全てがとても懐かしい
そう言えば
いつからだろう 父の夢をみなくなった
いつも夢に満面の笑みで現れる父
何故か夢の中では会話をすることは出来ないけれど
父の存在をすぐそこに感じられた
そんな父を時の流れは次第に
「懐かしい人」へとすり替えてしまうのだろうか
ふと、そんな哀しい思いにかられた
ちょっと力を入れようものなら
すぐに破れてしまいそうな封筒に
手紙を静かにそおっと戻した
懐かしさも一緒に封じ込めよう
私の心の中で父はずっと色褪せることはないから
優しく微笑みかける父への想いに
人知れず グラスを傾ける
三月三日
桃の節句
今は亡き父の命日でもある