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僕は自分の運動能力において自信があるわけではなく、他の人と比べても特殊能力があるわけでもありません。

それでもスケートを上達しないわけにはいかない家庭環境の中、自分の運動能力の低さに小学生の頃から苦しみはじめます…。ハーフパイプを本格的に滑るようになった頃には弟・タケシとの上達速度の違いが目立つようになり、自分の不器用さも恨むようになりました。

小学6年生(12歳)の時。悩みに悩んだ末に、ある事をキッカケに僕は自分自身に合った新しい練習方法を発見することになります。この切り替えがなければ今頃僕はスケートをしていなかったと断言します…。あれ程までに追い込まれた状態だったからこそ閃いたことかもしれません。

それが、《目指すゴールは同じでもルートは自分で選べる》かもしれない、というものです。

僕はまず最初に【自分が不器用であることを認める】ということをしました。
これは他の人の上達の速度を基準にするのをやめて、自分にとって無理のない速度を作るという意味です。一言でいうと「マイペース」となりますが、これによって頭の中に前提としてあり続けた「自分はなんて不器用なんだろう…」というマイナス意識を捨てることができました。さらにそれは独自の楽しみ方を見つけ出すきっかけともなったのです。

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次に僕は父の指導から離れ、弟と一緒にしていた練習をやめました。
現在でも続けている「一人で練習するスタイル」はこの時にできたものです。スケートを履いている時は自分自身と向き合う時間と考え、【マイペースな速度の中で僕なりの上達を目指す】ことにしました。そしてそれがとても楽しかったのです。

最も多く繰り返し行った練習方法は、自分の動きを想像して頭の中で「巻き戻し」と「再生」を1日中繰り返すことでした。

新しいトリック(動き)に挑戦する時は、転倒したその形から逆算して動きのイメージを作りました。イメージから「トリックを組み立てる作業」はそれまでとは全く違う独自の練習方法となりました。この方法は今でも続けていることの1つであり、もはや特技となりました。(スケートスクールを担当する際にもよく用います)

そして僕は「試合で勝つための練習」をやめることにします。
きっとこれは持って生まれた性格なのでしょう…、いくら「勝つために頑張れ!」といわれてもモチベーションが上がらないことを自覚していました。それならば「自分の人生を極めるための練習」に切り替えてみてはどうだろうか?

この【モチベーションに合わせた目標設定】が僕の中でぴったり組み合わさりました。
学校の授業中でもスケートノートをとるまでに積極的になっていきます。試合のために滑るのではなく、飽くまで自分のための滑りであります。こうして今現在も続く僕のモチベーションが生まれました。「己のスケーティングを極めることは己の人生を極めることと同じ」という考え方です。

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しかし、決められた締め切りがあるのはどの仕事も同じです。
いくら【マイペースな速度の中で僕なりの上達を目指す】といっても、毎年夏休みを利用して1ヶ月間行かせていただいていたアメリカ遠征までには何か形にしておかなければいけません。

そこで必要になったのは【モチベーションの転用】です。
ここまでに編み出してきた独自の滑り方を「世界の頂点」というゴールに向ける必要がありました。そこで僕は「世界に存在する全てのトリック(技)をできるようにする」ことを決意します。己のスケーティングを極める前にまず世界を極めようということです。こうしてこれまでに見てきた他の選手のトリックを1つ1つ真似していきました。もちろんその過程の中では怪我もたくさん経験しましたが、この頃には探究心の方が勝っていました。

今思えば無謀なこの挑戦も、僕の知識と記憶が正しければ5年程かけて達成できたと思います。その頃にはあの「X Games」(1999)で初優勝を経験していました。(このX Gamesの優勝に隠れた話もありますが、それはまたいずれお話します) 

全てのトリックを真似し尽くしたら次は何がありますか?

そうです、「オリジナルトリック」です。

数あるトリックのノウハウを組み合わせて生まれたのが僕のシグネチャートリック「1080 Flat Spin 」(通称:California Roll 1080)なのです。己のスケーティングを極めるために必要だった最初のオリジナルです。1999年に成功させてから今日までまだ誰も成功していません。

そして僕もまだ己のスケーティングを極めてはいません。

これが僕が今日もショーという「実践」の中で滑り続ける理由です。