ロシアのプーチン大統領は、ウクライナに関する「平和サミット」に先立ち、両国間の和平協議に臨むための条件を提示していた。ウクライナ東部のドンバスおよびへルソン、ザポリージャ地域からウクライナ軍が撤退すればただちに協議を開始する用意があるほか、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟しないことを求めた。へルソン、ザポリージャは2022年9月末にロシアが併合したため、米英、欧州連合(EU)はロシアに経済制裁を行った。ウクライナのゼレンスキー大統領、NATOらはロシアの提案をただちに拒否した。

 

 その後スイスのビュルゲンシュトックで15-16日開かれたウクライナに関する「平和サミット」には、日本の岸田首相など100カ国弱の首脳が集まったが、当事者のロシアは招待されなかった。

 

 

 ゼレンスキー氏がスイスの「平和サミット」で提示した最終コミュニケを巡っては、参加国のうちアラブ首長国連邦(UAE)、インド、サウジアラビア、ブラジルがこれに調印しなかった。中国はサミット自体に参加していない。

 

 イーロン・マスク氏のSNS、Xに地政学に関する投稿を頻繁に行う実業家、アルノー・バートラン氏は、ゼレンスキー氏の最終コミュニケについて、中国が昨年2月に示した和平案の12項目のうち、停戦に関する6項目を除いて取り込んでいる、と指摘した。中国の和平案はその内容が「あいまい(vague)」だとして米国らに退けられたものだ。ちなみにゼレンスキー大統領の任期は5月20日に切れている。ウクライナが戒厳令下にあることを理由に選挙を行わなかったためだ。

 

 

 ロシアのペスコフ報道官は「陸上戦の前線の現状を見ると、今後も時間が経つにつれてウクライナがさらに窮地に陥ることは明らかだ」とジャーナリストとのインタビューで述べた。

 

 「平和サミット」に先立ち、ウクライナは5月中旬に米国製兵器を用いたロシア領への攻撃禁止令の解除を求め、米国は同月末にこれを容認した。これを受けてウクライナ軍はロシア領内攻撃を開始した、とニューヨーク・タイムズは4日伝えた。

 

 また5月末には、フランスのマクロン大統領がウクライナ軍による支援国供給の兵器を用いたロシア領内の軍事目標への攻撃を認めるよう、ドイツのシュルツ首相との共同記者会見で求めた。

 

 

 ウクライナ支援国のこうした動きは、戦闘の構図がロシア対ウクライナからロシア対米英NATO連合へと変わるきっかけとなりうる。世界の二大核保有国である米国とロシアによる直接対決に一歩近づくことを意味する。

 

 ウクライナ侵攻は、ロシアによる「挑発されることのない(unprovoked)」攻撃に対する資産凍結を含む経済的な制裁措置へとつながった。この結果、何らかの理由で自国が一方的な制裁の対象になりうるとの懸念が世界で深まるとともに、米ドルの世界の基軸通貨としての圧倒的なステータスに伴うリスクが浮き彫りとなった。このため、2022年以降の石油・ガスなどの国際貿易では、中国人民元など米ドル以外の通貨を用いる比率が上昇している。

 

 

 また、米国外交の重鎮の一人としてその後の政権にも影響力を保っていたキッシンジャー氏が亡くなる直前に指摘したように、ウクライナ戦争開始後の米欧の対応を受けて中国とロシアの関係が一気に深まったことは、米国外交において地政学上の重大な変化となった。

 

 その後BRICSへの参加を希望する国はグローバルサウスを中心に急増している。今年に入ってエジプト、エチオピア、イラン、UAEが加盟した後、パキスタン、タイなどアジアからも加盟申請が行われている。また、NATO加盟国であるトルコも今月に入ってBRICS入りの意向を示している。

 

 

 世界の金融システムの現状を踏まえると、米ドルの基軸通貨としての位置づけがただちに大きく変わることは考えにくい、との見方が依然として大勢を占める。しかしBRICSを中心に各国の中央銀行は金を大量に備蓄しており、米ドルに代わる通貨の使用拡大を盛り込んだ金融システムの構築に向けた準備は進められている。

 

 6月上旬、ロシアのサンクトペテルブルグで開かれた国際経済フォーラムでは、プーチン大統領がBRICS新開発銀行のルセフ総裁と、特に現在開発中の金本位制およびBRICSプラス諸国の通貨バスケットに基づく国際準備通貨の詳細について協議した、とスプートニクは伝えた。

 

 

 同月、イタリアで開かれたG7サミットでは、ウクライナに対する追加融資にロシアの中央銀行の凍結資産を用いる方向で議論が進められた。しかし、その内容を巡って米国と欧州の間に対立があるようだ。ポリティコEUによると「ワシントンの提案は、われわれ(米国)が融資し、欧州が全てのリスクを負い、われわれ(米国)が資金を米国ウクライナファンドに充てる、というものだ」と欧州のある上級外交官が述べた。

 

 欧州はウクライナ戦争を契機に経済的に甚大な打撃を被っている。特にドイツはロシア産ガスという重大なエネルギー供給源を失った上に、製造業の大半の海外移転を余儀なくされた。

 

 

 今月の欧州議会選挙においてフランスやドイツの与党が大敗し、右派の台頭が際立った背景には、こうした景気悪化やインフレがもたらす生活苦があるほか、長年にわたり覇権国家として君臨し、ロシアに負けることを受け入れることのない抑止力を欠いた暴走列車や欧州全体に広がっている移民問題に対する不満もある。

 

 今週、北朝鮮を24年ぶりに訪問したプーチン大統領は、同国との包括的な戦略パートナーシップの締結を発表した際、西側諸国がウクライナに高性能兵器を供給し、ロシア領内への攻撃にゴーサインを出した状況下において、「ロシアは北朝鮮と今日合意した文書の下で軍事協力を発展させる可能性を否定しない」と述べた、とRTは伝えた。

 

 

 バイデン政権は、従来の政権と比較して外交上の抑止力の欠如において際立っている。プーチン氏との和平交渉の可能性について、コロンビア大学のジェフリー・サックス教授は、バイデン政権がこれまで一度もプーチン大統領との交渉に臨んでいないことを最近のインタビューで述べている。サックス氏は開発経済学の専門家として旧ソ連崩壊後のロシアに深く関わった経緯がある。

 

 また米ロ間の対立について、サックス氏は、旧ソ連崩壊当時の「NATOは1インチたりとも動かない(加盟国は増えない)」とのロシアと西側との約束がその後守られていないことに根源がある、と再三述べている。

 

参照:

Full Speech: Putin, Lavrov, and Conditions for Peace in Ukraine. June 14, 2024 (youtube.com)

Pepe Escobar: The Three Key Messages From St. Petersburg to the Global Majority (sputnikglobe.com)

US-EU spat derails push for $50B Ukraine loan using Russian assets – POLITICO

SPECIAL: Prof. Jeffrey Sachs: Putin's Offer of Peace (youtube.com

RT World News

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