2022年にツイッターを買収したイーロン・マスク氏は先月中旬、23年世界経済フォーラム(WEF)の開催を控えて、「WEFは、選挙を経たわけでもないのに一段と世界政府になりつつあるが、人々はこれを求めても望んでもいない」とツイートした。

 

 

世界から著名な政治家、実業家、学者がスイスのダボスに集まり年次総会を行うWEFは、過去にはG7首脳が毎回勢ぞろいすることでも注目されたが、最近では創設者兼会長のクラウス・シュワブ氏がステークホルダー尊重主義や「グレート・リセット」を唱える場としてハイライトされるようになった。しかし、世界的に貧富の差がますます広がる中で「あなたは何も所有せず、幸せになる」とツイートするWEFに対しては反発が広がり、各国首脳のうち今年はドイツのシュルツ首相のみが参加した。

 

 

今年のWEFに参加したものの早々に撤退したビル・ゲイツ氏は、22年にはマスク氏率いる電気自動車(EV)メーカー、テスラの株式を空売りしたことでも注目された。ゲイツ氏によるテスラ株のショートは最大20億ドルにのぼったとマスク氏が述べたことをビジネスインサイダーは伝えた。

 

テスラ株は昨年の時価総額の減少幅が8000億ドル(約104兆円)を超えており、21年11月に1兆2400億ドルで最高値を付けたものの、22年末には3850億ドルにまで急減した。S&P500種株価指数も高インフレや金利上昇によって約20%安となった昨年に、テスラ株も全体相場の下げによる影響を免れることはなかった。

 

 

それでもマスク氏は、テスラ株の急落とツイッター買収による影響とを関連付けることをきらい、テスラだけでなくすべての株の魅力が薄れたと主張したが、資金面でツイッターを支えるためにマスク氏が売却したテスラ株は36億ドル相当にのぼった。株価下落の影響もあってマスク氏が失ったのは世界一の富豪の座とともに資産200億ドルで、個人として史上最高額にのぼった。

 

 

10月下旬にツイッターを440億ドルで買収したマスク氏は、11月上旬にはツイッターのスタッフの約半分をレイオフした。また、アカウントの有料サブスクリプションサービス「Twitter Blue」を開始したが、当初は多くの紛らわしいアカウントの登場もあって混乱が広がった。中でも医薬品メーカーを偽ったアカウントが「糖尿病の薬を無料にする」とツイートしたことは、その象徴となった。

 

 

こうした状況を受けて広告を控える企業が相次いだツイッターの収入は大きな打撃を受けている。サンフランシスコ本社やロンドンオフィスの賃料未払いが起きるなどさまざまな困難に直面しているマスク氏は、ツイッターの破産申し立ての可能性にも何度か言及している。

 

 

ツイッターのビジョンについて、マスク氏は「エブリシングアプリ」の構想を描いており、その具体的な例として中国の「微信(ウィーチャット)」を挙げている。メール、SNS、買い物、ゲーム、代金決済などのサービスを盛り込んだウィーチャットは中国の人々にとって多くの用途を網羅する必要不可欠なアプリとなっているものの、急成長した背景には多くの人に銀行やクレジットカードを利用する慣習がなかったことなど中国固有の要因もある。ツイッターにとっては、これを米国を始め世界各地で展開する上では技術面以上に政治、特に金融を始めとした業界の既得権益という障壁に直面することも考えられる。

 

 

ビジネス面以外で注目されるのは、マスク氏がツイッター買収後にマット・タイビ氏など調査報道を行う複数の独立系ジャーナリストに声をかけて12月に公開を開始した「Twitter Files(ツイッターファイル)」だ。これに参加するジャーナリストは、これまでの政府機関とツイッターとの関わりの経緯を示す社内文書などをツイッター上でシリーズとして公開している。

 

 

第1弾としてバイデン大統領の息子、ハンター氏のノートPCに関するニューヨーク・ポスト紙の暴露記事をツイッターがブロックするに至るまでのやり取りがツイートされ注目された後にも、Twitter Files関連の初期文書を精査していたツイッターの副法律顧問が米連邦捜査局(FBI)の元法律顧問、ジム・ベーカー氏だったこと、トランプ前大統領のアカウントが22年1月6日の議会議事堂襲撃事件を経て利用停止になった経緯などが明らかになっている。

 

 

タイビ氏は、ツイッターのコンテンツモデレーション(不特定ユーザーの投稿するコンテンツの監視、不適切なコンテンツの削除、閲覧禁止、ラベリング)における連邦、州政府機関との関係を通じた実質的な検閲や体制側による世論形成について明らかになっていることが重要と述べており、今後の公開もマスク氏の方針が変わらなければ続くとしている。

 

 

Twitter Filesの公開がもたらすインパクトの大きさは、これまでの主流メディア、特にリベラル系のCNN、MSNBC、ニューヨーク・タイムズ、ワシントンポストなどによる大企業、民主党、連邦機関のナレーティブを咀嚼することなく伝える状況が、特にトランプ政権が誕生した16年以降に顕著になったことの裏返しでもある。

 

 

Twitter Filesが公開されると、リベラル派メディアはその内容にはさほど触れずにこれを報じたタイビ氏を「保守系ジャーナリスト」と位置付けたほか、世界一の富豪と組んだことへの批判も急進左派系からあがった。トランプ政権時には、トランプ氏とロシア政府との関係を追求する「ロシアゲート」の論調の矛盾点を指摘していたタイビ氏ら独立系ジャーナリストは、「親ロシア派」などと揶揄されてこれらのメディアにほとんど登場しなくなった。最近ではこれらのジャーナリストや民主党を離れた元大統領候補、トルシー・ギャバード元下院議員らが登場する主要メディアは「保守系」のフォックスニュースが中心となっている。

 

 

核戦争の危機によって「地球最後の日」の時計が警鐘を鳴らし、光熱費、食品価格の高騰などが生活を脅かす中、Twitter Filesにおいて「ロシアゲート」を巡る民主党や政府機関による世論形成を取り上げたタイビ氏は、最近のコンソーシアムニュースのインタビューで、リベラル系主流メディアがこうした問題にいつまで沈黙し続けるのか疑問に感じている、と述べた。

 

 

Capsule Summaries of all Twitter Files Threads to Date, With Links and a Glossary (racket.news)

ツイッターファイル -The Twitter Files- まとめ|小島三太郎|note