2024年米大統領選に弁護士、環境活動家、作家のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏が民主党候補として出馬する。バイデン大統領の2期目出馬に先行してジョン・F・ケネディ大統領の甥、ロバート・F・ケネディ上院議員の息子が大統領の座に挑む意向を宣言したことは、支持者からの厚い期待に手ごたえを感じたためと考えられる。

 

USAトゥディ/サフォーク大の4月の調査によると、ケネディ氏はすでにバイデン支持者の14%から支持を得ている。一方、バイデン大統領とトランプ前大統領の再選というシナリオに関して、NBCニュースの世論調査では、バイデン氏は再選を目指すべきでないと70%が回答し、目指すべきは26%にとどまった一方、トランプ氏の出馬を望む人が35%、辞退すべきは60%となった。

 

 

しかし、ケネディ出馬を受けた大手メディアの反応は冷ややかだ。CBSニュースは、ケネディ氏が反ワクチン運動関連の「ミスインフォメーション」を広めたとしてインスタグラムなどからブロックされたことや、トランプ氏の元アドバイザー、スティーブ・バノン氏が数カ月にわたりケネディ氏に出馬を勧めたことを取り上げた上で、ケネディ氏のバイデン氏への挑戦が成功するチャンスはゼロまたは小さく、そのワクチン接種反対の方針は圧倒的大半の民主党員とは異なるものだと伝えた。

 

世襲制が政界をまん延する点では日本と変わりはない米国において、大統領を叔父、上院議員を父に持つ候補が選挙の本命にならない状況は異例とも言えるだろう。ケネディ候補にとってさらに異例なのはこの2人がいずれも1960年代に暗殺され、その背景を巡って今なおさまざまな説が取りざたされていることで、これは映画監督のオリバー・ストーン氏がジョン・F・ケネディ大統領の暗殺に関して1991年、2021年に2度映画を公開したことにも象徴されている。

 

 

出馬表明直後に大手メディアへの唯一の出演となったFOXニュースのタッカー・カールソン氏とのインタビューでは、ケネディ氏は「国家と企業権力の腐敗した合併によって国は企業による泥棒政治(クレプトクラシ―)へと変化し、富裕層のための社会主義、貧困層のための厳しく容赦のない資本主義のシステムが広まった」と語った。

 

また、ウクライナ情勢については、ロシアによる侵攻を受けて米国が人道的な観点からウクライナを支援することには賛成だが、オースティン米国防長官の「ロシアを消耗させるため」、バイデン氏の「プーチン氏の退陣のため」などの発言が示すように、バイデン政権の目的はウクライナ人を歩兵とする代理戦争であるのではないかと疑問を呈したほか、ウクライナ側の死者数がロシア側よりも7、8倍多いことを誰も取り上げていないと指摘するなど、政界に長年身を置く他の候補とは一線を画す率直さを持って出馬する意義を印象付けた。

 

 

ケネディ氏のアジェンダは、民主党の進歩派だけでなく共和党の支持者や無党派層から幅広い支持を集める可能性があり、出馬表明の取材でも参加者の多様さが取り上げられた。バイデン氏もその後出馬意向を発表したが、予備選を取り仕切る民主党全国委員会(DNC)は、候補選において候補による討論を主催しない方針を早々に打ち出した。

 

景気後退懸念に加えてロシアに対する経済制裁が高インフレ、エネルギーの不足や価格高騰を通じて今や当事国よりもむしろ欧米に打撃を及ぼしたことや、ロシア関連の資産凍結措置という脅威をにらんで対外貿易に米ドルを使用しないと宣言する国が相次ぎ、基軸通貨としての脱ドル化が加速していること、情報流出によってバイデン政権が実際にはウクライナ情勢について表向きよりも悲観的に見ていることが明らかになるなど、難題が山積するバイデン政権にとって、大統領選の行方は予断を許さない様相を呈している。

 

 

一方、バイデン再選の路線をまい進する民主党主流派にとって2つの追い風は、大統領候補を選ぶ際の党幹部の影響力の大きさとメディアやSNSを用いた批判を寄せ付けないナレーティブの推進力にある。こうした状況をにらんで、ツイッターを買収した世界有数の富豪、イーロン・マスク氏は、プラットフォーム上で意見の異なる議論が交わされることをよしとすることを前面に押し出しつつ、独立系ジャーナリストにツイッターの膨大なデータへの一部アクセスを認めており、その成果はツイッター上に「Twitter Files」としてすでに数十件が投稿されている。

 

ツイッターのアルゴリズム、「ロシアゲート」や新型コロナ関連のコンテンツ・モデレーション、アカウント対応などを巡って多くの情報が明るみに出る中、1つの大きな発見は「検閲産業複合体」とその偏在性にある。こうした発見は、一見さまざまな情報が氾濫するSNSにおいて連邦、州政府機関、メディア、プラットフォームが密接かつ頻繁に連携することでナレーティブを左右してきたことを浮き彫りにしている。

 

 

しかし、大手メディアによる「Twitter Files」に関する報道は、その内容よりもむしろこれを推進する独立系ジャーナリストやマスク氏に対する批判や攻撃が目立っている。検閲産業複合体のこうした思惑を考慮すると、状況を判断するためには大手、独立系を問わず報道の内容を個別に吟味しなくてはならない現状は、真実を見極め、これに基づいて判断することを難しくしている。ウクライナなど各地での紛争はこうした複雑さに拍車をかけているとともに、この現象がグローバルなものであることを示すともいえるだろう。米大統領選の行方も有権者がSNSも含めたメディアのコントロールをどうとらえて判断するかが鍵となるだろう。

 

ケネディ氏は米ABCニュースのインタビューに出演したが、そのワクチン関連の発言は「ミスインフォメーション」として一部カットされたという。ケネディ氏は国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の所長を38年務めて昨年退任したアントニー・ファウチ氏に関する書籍を新型コロナの渦中に発売し、その研究開発関連の予算分配権に製薬大手などの利益を優先する手法を用いたなどとして批判している。一方、バイデン大統領はファウチ氏の退任にあたり、その「精神とエネルギー、科学的な誠実さ」に感謝すると述べた。