臥薪

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「なるほどこれは面妖な話じゃ。昔はあの猿沢池にも竜が棲んで居ったと見えるな。何、昔もいたかどうか分らぬ。いや、昔は棲んで居ったに相違あるまい。昔は天が下の人間も皆心から水底には竜が住むと思うて居った。さすれば竜もおのずから天地の間に飛行して、神のごとく折々は不思議な姿を現した筈じゃ」

 

 

 まるで夢枕獏さんの『陰陽師』の書き出しに感じるが、これは芥川龍之介作『竜』という話の後半部分。この作品の発表が大正八年4月とあった。

 なぜこのような書き出しになったのかと言うと、私はいま藤沢宿花沢町にある8ホテルにいて、大正文学つながりで東屋のことを調べていた。東屋があった場所までは8ホテルから近く、グーグルマップで計ってみると、記念碑まで2.9km、徒歩36分とあった。

 

 

 

 

 『竜』は、東屋に滞在していた谷崎潤一郎のもとに作者芥川が訪ねて数日泊まった後の作品となる。すると芥川はこの藤沢の海で、竜にインスパイアされてこれを書いたのだろうか?

 

 

  

 

 

 竜は竜神、竜王、竜宮の神、竜宮さまとも呼ばれ、水を司る水神として日本各地で祀られている。芥川はこの藤沢の大量の水、そう、海で竜を感じたのだと推測すると合点がいった。 

 東屋は、当時——明治、大正、昭和時代に鵠沼(くげぬま)海岸にあった文士宿の旅館東屋(りょかんあずまや)のことであり、川端康成が滞在中に『花のワルツ』を執筆し、武者小路実篤、谷崎潤一郎、志賀直哉たちが滞在、または住んだ人気旅館&別荘地。芥川は数年後、東屋の離れ、イ-4号室を借り、やがて家族で移住してきたほどここを好んでいた。

 さきほどまで台風21号の波に乗っていた私は、7階の部屋で「竜」を読み終え、窓のそとを見ると、東屋があった方向に海のかけらが見えた。芥川は、鵠沼の浜から竜の息吹をどのように感じたのだろうか。

 

 

 

 

 陽が暮れてきた。

 ヘア・カリフォルニアの予約時間があった。

 

 

 ヘア・カリフォルニアは、ホテル玄関に置いてあるキャンパー・トレイラーがそれで、詳しい人は『エアストリーム』と言えば、どんなものかが伝わるだろう。

 

 カットをしているときに、「ガシン、おいしいらしいですよ」そう事情通のヘア・アーティストが言う。この事情通はグレイトサーファーのひとりで、シングルフィンやツインフィンを見事に操り、ログなどに乗らせると、タイラー・ウォーレンが浮かぶほど上手。常に興味津々。自身の好きな方面のみならず、さまざまな方面にアンテナを立てている聖式カルちゃんと言います。(ヘア・カリフォルニアではカルベさん)そんな彼の表現を私の髪に施していただき、カット中の黄金情報をたっぷりといただいて外に出ると、すっかり真っ暗となっていた。

 

 お腹は空いて、お酒も飲みたいので、そのガシンに行ってみようと、マップで調べてみると、ここから50mとあった。ホテル滞在中の楽しみは、こうして外食が楽しめること。軽く歩ける範囲に名店を探す。探したものをレポートガイドとして、みなさんに読んでいただけるのがうれしい。ただ、名店もありそうでそうでなく、こちらにレポートする確率は、今のところ9軒に1軒。1割一分一厘程度の名店存在率となっている。お店でかかるBGMやトイレの清潔さが気になる私であります。もちろん内装も外装、そしてサービスと値段の公正さも。

 

 

 

 

 ヘア・カリフォルニアを出て、たったったったっと、八十八歩歩くと、ガシンの入り口を見つけた。小さな看板には漢字で表記されていて、『臥薪』とあった。するとこれは、臥薪嘗胆であったと知り、一昨日まで1ヶ月滞在していた四国お遍路八十八箇所に思いが直結した。

 

 臥薪嘗胆(がしんしょうたん)という言葉を調べてみると、

「目的を遂げるために苦心し、努力を重ねること[コトバンク]」

「復讐を成功するために苦労に耐える[Wikipedia]」

という意味の、故事成語(中国)だとあった。

 

 また、明治時代は、日本に向けて不利な『三国干渉(フランス、ドイツ、ロシアが関与した勧告)』があり、”ロシアに復讐するまで耐える”(実際にはドイツが日本を裏切ったのだが)というスローガンとして広く使われたとあるので、お店の名前としてはおもしろいというか、ヒネっていると感じている。または何か、大きな目標を狙っているのであろうか。

 

 2階まで外階段でストストスットンと上り、ドアを開ける。初めてのお店は、ちょっと怖いようでいて、そして昂揚するような感覚となる。

 お店に入った感じも照明が臥薪というお店の雰囲気を表現をしていて、暖かく、気持ちの良い感じである。メニューもクラシックでいい。クラシックについて説明しようと思ったが、字数の関係であきらめる。それはまたいつか。

 

 さて、私はいつかのサジスタンド(#2 立ち呑みサジスタンドで29連勝)でもそうなのだが、ポテトサラダが好きだ。それはスーパー総菜の50%引きパックが買い物カゴに入るくらいの頻度で好きなのだが、たまに目をみはるほどの美味に出くわす。今日はちょうどそんな日だった。

 様子見で、つまりメジャーリーグで言うところの大谷翔平のスプリットを見極める風でポテトサラダを注文したが、良い意味で期待を裏切るほどの鋭い味だった。「むむ、士郎め」と美味しんぼのフレーズを浮かべながら、これならば財布の紐を緩める価値があると、刺身を注文するのは、食業界では下記するほどの意味があることなのだ。(話逸れます)

 

 

 このフーディガイドの記念すべき連載第1回記念の名店老舗『久昇』(#1パクグビーの久昇)が閉店してしまった。オーナーがご老齢によるリタイアメントであり、久昇ファンは、「あの刺身がもう食べられない」と嘆いた。名店=(イコール)プロの料理人ならば、コストパフォーマンスの高い逸魚を見つけ提供する。野菜も肉も、穀物も全て同じ。そうするとお店は繁盛する。繁盛すると、活気が出るので人気店となった。これが久昇だった。

 

 

 

 

 話はその大切なお刺身に戻ります。メニューを見ると、リャンメン(2種盛り)だとかいろいろあるが、くだんのポテトサラダの件もあるので、景気良く五種盛りを注文すると、奥からキリリとした青年が板場に出てきた。それが松井さんであった。

 

 

 

 

 「オープンキッチンなので、さまざまなチャレンジがあります」

 

 調理長兼店長の松井さんはそう言った。

 メニューを褒めると、「自分がこれらメニューを考えています。それは全店統一のときもありますし、茅ヶ崎店と共有するときもありますし、この店だけのときもあります」

 

 ぶれない目線でそう語る松井さんには、食で生きるプロフェッショナルの流儀を感じた。

 

 

 

 

 やってきた刺身は、キリリとした身に味が凝縮されていて、プロの味が江の島の向こうまで拡がっているようで、芥川さんもさぞかしこのカンパチやアジを食べたかっただろうと偲ぶ。生ワサビもいちいち良く、それぞれの魚を引き立て、さらにはこのお店の料理の土台を引き受けたような誠実さのワサビでありました。

 

 

 私は勝手に松井さんを料理界のイチローさんだと信じてみた。その広角(多味)打法が、食べる者の心をつかむのは、「首位打者9回(NPB7回、MLB2回)」であると、彼に対して与え、前足荷重になった。前足荷重というのは、ヨコノリ言葉であり、簡単に言うと、気が逸るということである。

 

  

 

 そんな料理と酒を楽しんだ夜は、藤沢の夜がさらに彩られ、芥川龍之介時代の鵠沼を思い浮かべると、東屋から北東にある龍口寺が浮かんだ。龍つながりであります。

 龍、竜は、神の使いであり、そして正義のみに忠信する生きものだとある。その龍を浮かばせた臥薪での夜。料理を真剣に考える松井さんの目の輝き、そして食に対しての想いにイチローとか大谷翔平、さらには芥川龍之介が浮かんだので、ここに記録するように書いてみました。

Happy Surfing & Happy Life!

 

 

ABSOLUTELY INCREDIBLE. Fun atmosphere that is unique. This is a great environment for friends and “Robata” exprience.  You sit in a chair around a grill.

Don't hold back when it comes to trying a little of everything because everything here is delicious! The Sashimi Plate was a real standout, The Kanpachi melts in your mouth. If you happen to come across this place on your travels, don't pass it up! It's true what my friend Karu said... I'd probably give this place 4 stars for the quality of the food and the value you'd get. It's really good for what it is, but it's not quite some gastronomical temple.Definitely a must go when visiting Fujisawa! Gashin!!

 

久昇は経営者の引退に伴い、2017年10月末日、惜しまれて閉店しました。

リスペクト藤永光郎さん&旦那さん

 

by NAKI

 

※Foodie Guide Around 8hotel by NAKIでの「#1パクグビーの久昇 」をぜひお読みください。

 

 

臥新 -------------------------------------------------------------------

 

 

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