過去問ひとり答練 ~司試平成29年公法系第2問 ※2021/04/12改訂 | ついたてのブログ

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第1 設問1

1 (1)について

Aに対する本件フェンスの撤去命令をY市長がすべき旨を命ずることを求める非申請型義務付けの訴え(行訴法3条6項1号)

(1) 上記訴えは、義務付けの対象が、法71条1項1号に基づく上記撤去命令として、裁判所の判断が可能な程度に特定されている。よって、「一定の処分」(行訴法37条の2第1項)に当たる。

(2) 「法律上の利益を有する者」(同条3項)とは、当該処分を定めた行政法規が個々人の個別的利益として保護する利益を、当該処分がなされないことにより侵害されまたは必然的に侵害されるおそれのある者をいう。処分の名宛人でないXらについては、同条4項が準用する9条2項に従う。

ア 上記撤去命令の根拠規定は法71条1項1号である。そして、同号の「法律」に、法43条2号が当たる。法43条2号は、交通の利益を保護する。そして、交通は日常生活に不可欠であるから、交通の支障は近隣住民に重大なものである。そこで、法71条1項1号は、撤去命令がされないことにより、日常生活上重大な支障を被るおそれのある近隣住民について、交通の利益を個々人の個別的利益としても保護する。

イ Xらは、本件土地の住宅に居住しており、近隣住民に当たる。

X2が本件市道をCまでの通学路として利用する利益は、日常生活上の利益といえる。そして、X2は、本件フェンスの設置により、400m長い距離を歩いて登校しなければならなくなる。しかし、この支障は、歩行が健康に良いから、生命・身体に悪影響を及ぼさず、上記重大な支障に当たらない。

本件市道を災害時の緊急避難路として利用する利益は、災害が日常生活に潜むリスクである以上、そのリスクに対処できる点で、日常生活上の利益といえる。そして、一刻を争う災害時において本件市道を利用できないことは、生命・身体に関わるので重大な支障といえる。

よって、Xらは上記おそれのある近隣住民に当たり、原告適格がある。

(3) 生命・身体は、侵害されると回復が不可能ないし困難である。よって、Xらの被る支障は「重大な損害」(行訴法37条の2第1項)に当たる。

(4) Xらは、Aに対して通行の自由(民法710条)に基づく妨害排除請求が可能である。しかし、当該民事訴訟と上記義務付け訴訟とは争点が異なる。よって、どちらがより適切な方法かの選択は私人に委ねるべきである。したがって、当該民事訴訟は、「他に適当な方法」(行訴法37条の2第1項)に当たらない。

(5) 以上より、上記訴えは訴訟要件を充たす。

2 (2)について

(1)ア 法43条2号は、「その他道路の」「交通に支障を及ぼす虞のある行為」を禁止する。同号は、道路に物件をたい積することを例示しているから、物理的に交通に支障を及ぼす行為を禁止すると解する。

イ 本件市道の北端と南端に簡易フェンスを設置し、一般通行者が本件市道に立ち入ることができないのであるから、本件フェンスの設置が物理的に交通に支障を及ぼす行為であることは明らかである。よって、同設置は同号に違反する。

(2)ア 法71条1項1号は各種の監督処分を規定したうえで「できる」と規定する。その趣旨は、日頃から道路を管理して実情に通ずる道路管理者たる市町村(法16条1項)の効果裁量を認める点にある。

ただし、判断過程が不合理である結果、社会通念上著しく妥当性を欠く判断といえる場合は、裁量権の逸脱濫用として違法となる。

イ 法43条2号は上述のように交通の利益を考慮している。本件フェンスの設置によりXらの交通の利益が害されている。(ア)は、Xらの利益を軽視している。また、(ア)は、Aからの相談内容のみを踏まえたものであるが、本件フェンス設置以前の本件市道の利用状況が明らかにならないと(ア)の判断ができないはずである。そうすると、必要な調査が行われておらず、(ア)は、本件市道の利用の必要性を考慮する仕方に不合理がある。

園児の事故は原動機付自転車との接触によるものであるから、事故を防ぐには同自転車の通行のみを禁止すれば足りる。(イ)は、交通の支障がより少ない代替処分を考慮しておらず、考慮不尽である。

路線の廃止には一般交通の用に供する必要がなくなったと認められることが要件である(法10条1項)。(ウ)は、Aの要望があることから同要件充足が見込まれると判断しているが、Aの要望の存在自体と一般交通の用に供する必要とは無関係である。よって、(ウ)は他事考慮である。

したがって、Y市長の判断過程が不合理であり、その結果、監督処分の措置を執らないという社会通念上著しく妥当性を欠く判断がされており、違法である。

第2 設問2

1 (1)について

(1) 「処分」(行訴法3条2項)とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。

(2) 道路の区域の決定により、道路敷地の所有者は私権が制限される(法91条2項、4条)。また、供用の開始により、通行者は道路を通行できることになる。よって、道路の区域の決定及び供用の開始は、道路敷地の所有者及び通行者の法的地位に直接影響を及ぼすので、直接的法効果性がある。本件市道の路線の廃止の根拠規定である法10条1項は、同廃止により、上記法的地位を消滅させるという直接的法効果性を有する。よって、同廃止は「処分」に当たる。

2 (2)について

(1)ア 「一般交通の用に供する必要がなくなったと認める場合」(法10条1項)に当たるか否かについては、諸般の事情を総合考慮することを要する。そこで、実情に通じる市町村長の判断に委ねるのが適切である。よって、市町村長の要件裁量が認められる。

ただし、判断過程が不合理である結果、社会通念上著しく妥当性を欠く判断といえる場合は、裁量権の逸脱濫用として処分が違法となる。

イ 自動車は重要な交通手段であるから、①自動車による通行不能性は考慮すべきである。しかし、交通手段は自動車に限られない。本件市道は歩行や自転車によって通行しうるので、歩行者や自転車通行者の存在も考慮すべきである。①は同存在を考慮しておらず、考慮遺脱である。

Y市はAに対してのみ聞き取り調査をし、同調査に専ら依拠して②の判断に至った。近隣住民にも同調査をすれば、本件市道の必要性を主張する者がXら以外にも出てくる可能性がある。よって、近隣住民にも同調査をする必要があるのになされていない。したがって、②は、本件市道の必要性を考慮する仕方に不合理がある。

本件市道の必要性は、Bの危険性が高いほど高まる。そこで、Bの危険性を考慮すべきである。しかし、③は、Bの危険性を考慮しておらず、考慮遺脱である。

よって、判断過程が不合理である結果、本件市道の路線の廃止という社会通念上著しく妥当性を欠く判断がされており、処分が違法となる。

(2)ア 法10条1項が「できる」と規定した趣旨は、実情に通じた市町村長の効果裁量を認める点にある。

イ 本件内部基準は、法の委任を受けておらず、行政規則であるから、法的拘束力がない。

ウ(ア) もっとも、本件内部基準は、上記効果裁量を前提とした裁量基準である。そして、本件内部基準はウェブサイトで公表されている。

裁量基準が存在する場合には、裁量権行使における公正の確保・平等取扱いの要請がある。また、公表されている裁量基準の内容に対する相手方の信頼保護の要請もある。そこで、裁量基準と異なる取扱いをすべき特段の事情がない限り、裁量基準に従わない処分は裁量権逸脱・濫用として違法である。

(イ) 本件内部基準は、Y市が市道の路線を廃止するには当該市道に隣接する全ての土地の所有者の同意を必要とする旨定めているにもかかわらず、Y市長はX1の同意を欠いたまま本件市道の路線を廃止しており、同廃止は本件内部基準に違反する。

本件内部基準は、画一的基準と解すれば、一人でも反対すれば行政目的を達成できない点で不合理であるが、個別事情を考慮し得る基準と解すれば、合理的である。

そして、本件内部基準と異なる取扱いをすべき個別事情はない。

よって、上記特段の事情はなく、本件市道の路線の廃止は違法である。

(3347字)

 

※第1.1(2):普通乗用自動車が通行できず交通量が少ない点で,B通りよりも本件市道のほうがX2にとって安全であるとX1が考えているという点については,X1(親)の精神的な利益の問題といえる。また,仮にX2の生命・身体の安全が問題となっているとしても,直接的かつ重大な被害を受けるおそれを推察させる事情は本問には出てきていないと思われる。

したがって、この利益は,配点が低い。

なお,会話文の冒頭部分(問題文4頁・弁護士D第1発言)からすると,この利益については論じなくてもOKといえるかもしれない(平裕介先生)。