(続)過去問ひとり答練~予備H28刑法 | ついたてのブログ

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弁護士一年目です。ついたての陰から近況をつづります。

第1 甲の罪責

1 Xを設定した行為に、①他人所有非現住建造物等放火未遂罪(112条、109条1項)が成立しないか。

(1) 甲宅にはBがいたので、甲宅は現在建造物(108条)に当たる。

(2) 「放火」とは、目的物の焼損を惹起させる行為をいう。

本件では、Xは、設定した時間に発火し、その火を周囲の物に燃え移らせる装置である。そして、Xが置かれたのは木製の床板という燃えやすい物の上である。よって、同行為は甲宅の焼損を惹起させる行為といえ、「放火」に当たる。

(3) 「焼損」とは、火が媒介物を離れ、目的物が独立に燃焼を継続しうる状態になったことをいう。

本件では、Xから出た火が床板に燃え移ったが、その火は自然に消えており、上記継続しうる状態になったとはいえず、「焼損」に当たらない。

(4) 甲はBが甲宅にいることに気付いておらず、火災保険を掛けた自己所有の一人暮らしの甲宅に放火するつもりであるから、他人所有非現住建造物等放火罪を犯す意思である(115条)。そして、上述のように現在建造物放火未遂罪(112条、108条)の客観的構成要件を実現した。この場合、重い後者の罪は成立しない(38条2項)。

もっとも、両罪は公共危険罪という保護法益及び放火という行為態様が共通するので構成要件が重なり合う。よって、軽い①の罪の限度で客観的構成要件該当性が認められる。そして、①の罪の故意がある。

(5) よって、①の罪が成立する。そして、後述のように、乙と共同正犯(60条)となる。

2 Yを設置した行為に、②現住建造物放火未遂罪(112条、108条)が成立しないか。

(1) Aは共犯者ではなく「人」に当たる。Aは同行為時には旅行中であるが、居住形態に変更はない。よって、乙宅は現住建造物に当たる。

物理的一体性が認められれば、建造物の1個性が肯定される。物理的一体性は、構造的一体性を前提とし、延焼可能性がない場合には物理的一体性が否定される。本件では、同行為の客体である乙物置自体は108条の客体ではない。しかし、乙物置は、乙宅と渡り廊下でつながっており、乙宅と構造的一体性がある。また、同廊下は木造であり、燃えやすく、3mしかないので、火が同廊下を伝って乙宅へ延焼する可能性がある。よって、乙物置は乙宅と1個の建造物といえる。

(2) 同行為は、上述の場合と同様に「放火」に当たる。

(3) 乙物置には火は燃え移らなかったので、「焼損」に当たらない。

(4) よって、②の罪が成立する。そして、後述のように乙と共同正犯となる。

3 以上より、甲には①と②の罪が成立する。そして、甲宅と乙宅は2km離れており、両行為は別個の公共の危険を生じさせたといえる。よって、両罪は併合罪(45条前段)となる。

第2 乙の罪責

1 Xを設定した行為に、③他人所有非現住建造物等放火未遂罪の共同正犯が成立しないか。

乙は、甲と同行為を行うことを共謀したうえ実行しており、現在建造物放火未遂罪の客観的構成要件を実現した。しかし、乙も甲宅にBがいることに気付いていないので、上述の場合と同様に③の罪が成立する。

2 Yを設定した行為に、④現住建造物放火未遂罪の共同正犯が成立しないか。

(1) 乙は、甲と同行為を行うことを共謀したうえ実行しており、上述の場合と同様に④の罪が成立する。そして、上述の場合と同様に③の罪と併合罪となる。

(2)                        中止犯(43条但書)の成否

ア 「自己の意思により」とは、主観的事情が経験上一般に犯罪遂行を妨げる事情にならない場合をいう。

本件では、乙は、Aや近所に迷惑を掛けたくないという心情から中止している。同心情は、経験上一般に犯罪遂行を妨げる事情にならない。よって、「自己の意思により」に当たる。

イ 乙が火を消すために乙物置内に入った時点ではYから出た火が本件段ボール箱に燃え移っており、放置すれば焼損結果が発生する危険性がある。この場合に「中止した」といえるためには、結果発生防止のための真摯な努力が必要である。

本件では、乙は消火器を使って消化しており、同努力をしたといえる。よって、「中止した」に当たる。

ウ したがって、中止犯が成立し、刑が必要的に減免される。

(1699字)