取りあえず乾杯しようか 4 | 瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

大野君に魅せられ、重症サトシックのおばさんです。
年甲斐もなく智愛叫んでます。
お名前をお借りして腐小説を書いています。
ご理解いただける方のみお入り下さい。

男性の方のご入室はご遠慮下さい。

考え過ぎかな?いや違うような気がする

あおのニヤニヤした顔、絶対何か企んでる

馬鹿みたいに高い時計、買うつもりなのは理解した

そこは問題じゃない(私物は好きにしてくれ)

あのカタログに印が付いてた時計

300万に手が届きそうなものだった

彼奴が普段してるブランドの時計(パテック なんちゃら)と同じくらい

時計収集が趣味なのか

その辺りの腕時計が何本もケースに入ってる

腕は一本なのに(笑)

まあ、それがセレブのステータスなんだろう

 

ただし、あの時計をペアで買うと言い出したら話は違う

背伸びしながら歩けば疲れて足は止まる

一緒に歩いていけなくなる

 

 

「何を考えてるんですか?」

 

ふんわりとした笑みを浮かべた綾野君が

テーブルに珈琲を置いて、俺の前に座った

 

「何も考えてないよ ・・・」

 

「そうですか? ・・・ なら良いです

 冷めないうちにどうぞ」

 

それ以上は踏み込んでこない

彼の距離の取り方は絶妙

希少豆が入ったから

珈琲を飲みに来ませんかと、連絡が有って

少し長めの昼休みを過ごしてる

 

淹れたての珈琲の匂いが鼻を擽る

 

「いい香り ・・・ この珈琲美味いな ・・・」

 

「カぺ・アラミド って言います」

 

何となく、ジャコウネコちゃんに似てるんだけど ・・・

 

「これって ・・・ コピなんちゃら?」

彼が嬉しそうに笑って

 

「似てますか?」

 

「似てる ・・・ 違うの?」

 

フルーティーで優しい味

 

「ジャコウネコの珈琲です

 違うのは産地です、これはフィリピン産です

 フィリピン産の方が貴重なんです

 何故ならオーガニックです」

 

「って事は、こっちの方が高いって事?」

 

「平たく言えばそうなります

 インドネシア産の中には、ジャコウネコを飼育して

 採取してる豆があるので、比較的手に入りやすい

 その点フィリピンのは」

 

「天然素材って事だ ・・・」

値段は怖いから聞かない事にする

珈琲に関してはご馳走になるって決めた

(そうそう、ここには来ないから)

 

庭先に目をやると

イロハモミジの葉が、さわさわと風に揺れてる

穏やかに時間が流れてる場所 

 

「素敵な店になったな ・・・

 庭のモミジが色付いて綺麗だ」

 

彼も庭先にモミジを見つめる

 

「このモミジを生かしたかったんです

 どの席からも見えるよう工夫するのが大変でした」

 

「庭も建物も昔のままでって ・・・拘ってたもんな 

 だからかな、庭を見てるとホッとできる

 俺はこの席から見る、モミジが好きかな」

 

古民家を改装したとばかり思ってた店は

大正時代に建てられた古い洋館で、とてもお洒落

その中に和の要素が入った庭先

アンバランスに思えるけど、意外にしっくりくる

 

「そう言って頂けると

 手間をかけた甲斐が有りました

 お客様によって、拘りの席があるようです」

 

「だろうな ・・・ 角度によっ見える景色が違う ・・・

 常連さんも増えたって聞いたけど」

 

京都は新参者には厳しい土地柄

その中で、この店は予約を取るのが難しい店になってる

 

「ええ、小栗がお客様を連れて来てくれるので

 いつの間にか常連さんが増えました」

 

「繁盛して何より(笑) ・・・」

 

「お仕事は順調ですか?」

 

「ああ ・・・ 文化財に触れると

 自分が今どこに居るのかわからなくなる

 その絵と一緒に時間を遡るのかもな(笑)」

 

その絵を描いている風景が見える気がするんだ

 

「大野さん、時計に興味が有るんですか?」

 

テーブルに置いたままのカタログを、指さして訊ねる

置いとくと注文しそうで持ち出したカタログ

 

「家に置いてあった

 俺が興味がある訳じゃなくて ・・・」

 

説明する前に名前を出された

 

「櫻井さんですね

 あの方は時計がお好きですもんね」

 

「ああ、いっぱい持ってる 

 どれも俺には手出しできない代物ばかり

 何となく、俺にも着けろって言いそうで

 家に置いておくのは拙いって思って(笑)」

 

「時計に込めた想い ・・・ かな」

 

「一緒に時を刻むって事?」

 

「ええ ・・・ 貴方と二人で紡いでいく時間

 意思表明ですね」

 

きっとそうだな、お前ロマンチストだもん 

 

「そうだとしても、これは高すぎる

 ゼロ一つとっても手が出ないよ

 いつか自分で買えるようにならなきゃ

 その時、初めてその時計に認めて貰える気がする」

 

彼が可笑しそうに笑って

 

「貴方らしい ・・・ 

 それは時計の価値ではなく

 心の問題ですね ・・・」

 

「そうかも知れないな」

 

「例えば、それをプレゼントされたらどうしますか?」

 

「プレゼント?考えたこともなかった ・・・

 そうだな ・・・ 受け取らない ・・・ 

 これは頂く類の物じゃない

 自分で買うものだって思ってるから」

 

「そう言うと思いました」

彼が可笑しそうに笑う

 

「可笑しいか?」

 

「いえ ・・・ ただ苦労するなって思って ・・・」

苦笑交じりに呟く

 

「誰が?」

 

黙ったまま頭を振って

冷めかけた珈琲を口にした

 

 

 

 

 <続きます>