Treasure of life 40 | 瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

大野君に魅せられ、重症サトシックのおばさんです。
年甲斐もなく智愛叫んでます。
お名前をお借りして腐小説を書いています。
ご理解いただける方のみお入り下さい。

男性の方のご入室はご遠慮下さい。

閑静な住宅街にひっそりと佇む古い洋館

大正時代後半に建てられた

日本では数少ないアール・デコ様式の建物

外観は建てられた時のまま、石積み風となっていて

玄関は堅牢なアーチ状の車寄せを備えている

 

解放的な1階はフレンチレストラン

玄関に入ると、直ぐのところに螺旋階段があり

階段には光を取り込む窓が階段に沿って設えてある

手すりがまたレトロ

 

2階は会員制のラウンジで会員以外は入れない

智君の言葉を借りれば

我々のような庶民が入れる場所ではない

 

ラウンジのコンシェルジュが仰々しくお辞儀をして

 

「申し訳ありませんが、二階は会員制でございます」

 

レストランなら1階ですよって、手で促す

確かに、どう見てもセレブリティではないけど ・・・

 

「会員制なのは存じ上げております

 私、櫻井と申します

 本日、鮫島様とお会いする約束をしているのですが」

 

俺だって、こんな高級な店には来ない

身の程は弁えてるつもり

 

「大変失礼いたしました

 鮫島様からお伺いしております

 ご案内いたします」

 

そう言って、俺を案内するようにゆっくり螺旋階段を上っていく

案内されたのは1階の中庭が見下ろせる個室

 

「失礼いたします、櫻井様をご案内いたしました」

コンシェルジュが声を掛けると

鮫島さんが席を立って一礼した

 

「お呼び立てをして申し訳ありません

 どうぞお座りください」

 

コンシェルジュが椅子を引いて座るように促し

座ったのを確認すると

「それではお茶をお持ちいたします」

そう言って部屋を出て行った

 

都会の喧騒からかけ離れた空間

一般人には縁のない場所 ・・・

 

「場所はすぐにわかりましたか?」

 

笑みを浮かべた顔で訊ねられた

 

「ええ、名前だけは存じ上げていたので

 すぐにわかりました ・・・ 入った事はないですけど」

 

「私もあまり使わない場所なのですが

 あの子の迷惑になるようなことは

 避けたい思いまして ・・・」

 

そう言って、ハンカチで額の汗を拭う

相当、緊張されているように見える 

 

「ええ、分かります ・・・ 誰が見てるか分かりませんので

 それで、今日はどのようなご用件でしょうか?」

 

鮫島さんは居住まいを正して

 

「実は、櫻井さんのご判断を仰ぎたいと思いまして」

そう言って真っ直ぐ俺を見た

 

「僕のような若輩者に判断を委ねたいって事でしょうか?」

訝しげに訊ねると

 

「恥を忍んでお願いに上りました

 私と父を ・・・ あの子に会わせて頂けないでしょうか?」

鮫島さんの本気を裏打ちするな真剣な眼差し

 

想像通りの言葉が返って来たので

左程、驚きはしなかった

黙ったまま瞳を見返して頷いた

 

「二度とあの子の邪魔はしない

 遠くから見守るつもりです ・・・

 先日、そうお話したばかりなのに ・・・

 舌の根も乾かないうちに

 このようなお願いをするのは非常識だと思っています

 ですが ・・・ どうしても会って ・・・ あの子に謝りたい

 許して貰えないかもしれない ・・・ それでも ・・・

 私が父があの子を心から愛してる事を伝えたいんです 」

 

父がという言葉を聞いて

この人は父親と和解したんだと理解した

 

「お爺様と話し合われたのですね?」

 

「父はめっきり老け込みました ・・・

 毎朝あの子に会えることが、生き甲斐になってましたから

 最近はほとんど外に出掛けることも無くなりました

 朝の散歩は行かないのかと、それとなく聞きましたところ

 暑い時期は休むんだと言ったきり ・・・ 黙り込んでしまって」

 

「舞台の稽古が本格的になってきたため

 公園での稽古は休んでいるんです

 それが終わったら、また始めるとは思うのですが ・・・

 次の仕事が入ればまた変わります」

 

前の劇団からのオファーはまだ流れていない

多分、智君は受けると思う

 

「そうでしたか ・・・ その事は全く話さないので ・・・」

 

「あの ・・・ では何故二人で会いたいと?

 何も話し合っていないと言う事ですよね?」

 

「父は私に謝罪してくれました

 私の私たちの人生を捻じ曲げてしまって

 本当に申し訳なかったと ・・・

 謝って貰っても時間は巻き戻せませんが

 父が涙を流してる姿を見てハッとしました

 やり方は間違っていたけど

 父は私の為に、必死に立ちまわってくれてたと

 愛されていた事を思い出したんです 

 逃げたのは私でした ・・・ 諦めてシャットアウトした ・・・

 息子を取りあげたのが父なら

 孫を取りあげたのは私でした

 私は全ての責任を父に押し付けていただけ ・・・」

 

貴方はどんな魔法をお爺さんに掛けたんだろう

 

「何をやっても裏目に出ることがあります ・・・

 すみません、口幅ったいことを申し上げました

 あの人は、凄く優しい人です ・・・ 

 人の痛みに敏感で ・・・ その痛みに泣いて

 とても思いやりのある人なんです

 正直に申し上げます

 あの人は気が付いています

 会っていた人が、自分の祖父であることを ・・・

 その事、お爺様は話していませんでしたか?」

 

鮫島さんは目頭を拭いながら

 

「やはりそうでしたか ・・・ 父は何も言いませんでした

 ただ、私にあの子に会ってきなさいと申しました

 勇気を出して、どんな事でも遅いことはない

 やり直す気持ちこそが大切なんだと

 あの子に謝って、何どでも誤って、許して貰いなさいと ・・・

 優しい子だから ・・・大丈夫だと ・・・」

 

『自分からは会いに行かない』

裏を返せば、会いに来て欲しいって事

貴方の想いはちゃんと伝わってた

 

「鮫島さん、僕の判断は必要ないです

 あの人は受け止める準備は出来ています

 長い時間待っていた言葉です

 『会いたい』この一言は

 『ずっと愛しているよ』の言葉と同じ意味を持っています

 どうか、お二人で会いに行ってあげてください

 二人に吐き出す言葉は厳しい言葉かも知れません

 ですが、それを吐き出してこそ

 初めて親子になれるんじゃないでしょうか」

 

鮫島さんはポロポロと涙を流しながら

 

「あの子が吐き出す言葉全てを受け止めます

 それが親である私の役目 ・・・

 父も連れて行きます ・・・

 何時ならいいでしょうか?

 舞台前は控えた方が良いでしょうか?」

 

「昔のあの人なら揺れたと思います

 ですが、今のあの人は逞しくなりました

 どうか、先ずは連絡をしてください

 会う時期を決めるのは智君です」

 

「分かりました ・・・ 

 そのようにさせて頂きます

 どうか、あの子の事をよろしくお願いいたします」

 

鮫島さんは深々と頭を下げて

ひとしきり泣いてた 

 

 

貴方って凄い人だね

頑固な石頭の爺さんも形無し

あんな可愛い孫に会ったら

そうなるのも仕方ないけど

 

すぐに良好な親子関係は無理かもしれない

だけど、少しずつで良いんだ

お互いが歩み寄れば

誰にだって間違いはある

許せない間違いもあるけど

時間は巻き戻せない

だったら、前を向いて歩き出すしかない

 

 

貴方の声が聴こえた気がした

  

 

 

 

 

<続きます>