国民的な童話作家・詩人である宮沢

賢治の晩年に発表された短編童話の

傑作。その構想は早い時期からあり、

長い病床生活の中で推敲を重ね完成

に至ったようだ。1932年刊行の雑

誌「児童文学」で発表。


貧しいながら楽しく家族とともに森

の中で暮らしていた少年ブドリは、

天候異変による飢饉で父母と別れ孤

児となり、山師に連れ去られた妹と

も生き別れになる。騙されて労働に

酷使されるが、やがて偉大な学者に

師事して学び、農家が天候に左右さ

れて辛い思いをせず、日照りや寒さ

を除く工夫をしたいと火山局に勤め

始める。妹とも再会し、5年間を幸

せに過ごすが、天候異変による人々

の不幸を救うため、27才にしてそ

の身を犠牲にする決心をする…。

 

物語は大まかに、ブドリの少年期か

ら赤髭の男の下で働く10代後半ま

での前半と、火山局で学び始め技師

として活躍する後半に分かれる。


前半は家族との離別に始まる不幸と

苦難の連鎖が主だが、その中で、噴

火による灰被害やオリザ(米)の病気

など農家の厳しい受難や、本を読み

学んだ知識でオリザの病気を食いと

めて農民を救う手柄を立てる喜びな

どを経験する。

木こりの父と母、7才の妹とともに

イーハトーブの森で楽しく暮らして

いた10才のブドリが冷害による飢

饉のため家族と離別する序盤は子ど

もにはとても耐え難い辛い悲劇。ブ

ドリの家を乗っ取り “てぐす工場”に

した男の下で酷使されるが、やがて

そこには噴火で白い灰が積もり、引

き揚げざるを得なくなる。町に向か

って歩くうち、沼ばたけでオリザを

栽培する赤髭の男と出会い、その下

で働くことになる。日照りと旱魃に

よる被害の影響でヒマを出されるま

での6年間、ブドリはそこで酷使さ

れながらもオリザの病気やその対策

で畑に石油を流す経験や、男にもら

って読んだ本で学び、オリザの病気

を木の灰と食塩を使って食いとめる

手柄を立てるなど喜びも味わう。読

んだ本の中でクーボーという先生の

本に感銘を受ける。


後半は、汽車に乗ってイートハーブ

の市に着き、学校でクーボー大博士

に出会うところから始まる。

たくさんの学生の中からすぐに出来

良さを見込まれたブドリは、クーボ

ー大博士からイートハーブ火山局を

紹介され、働き始める。火山の観測

の仕方、器械の扱い方…。2年経つ

とブドリはイートハーブの三百幾つ

の火山の工合が掌の平の中にあるよ

うに分かってくる。ある日サンムト

リという火山が噴火寸前と分かり、

ブドリはペンネン老技師とともに市

とは逆方向の海側に数日かけて電線

を敷き、電流を流して爆発させるこ

とで溶岩を海に流して市側への被害

を未然に防ぐことに成功。その次は

クーボー大博士の計画通り潮汐発電

所をイートハーブの海岸に沿って二

百も配置し、雨と一緒に窒素飼料を

降らせる。その年の農作物の収穫は

十年に一度の豊作。火山局には感謝

状が多く届き、ブドリはこれまでに

無い生き甲斐を感じる。更に生き別

れていた妹のネリと再会を果たし、

そらからの5年間は楽しく過ごす。

ネリには男の子も生まれた。しかし

ブドリが27才の年、恐ろしく寒い

気候がやって来る。ブドリは今度は

カルボナード島の火山を爆発させる

ことで炭酸瓦斯を空気中に増やして

温暖化させることを思いつく。しか

しその仕事を担う人間は生きて戻っ

ては来れない。イートハーブの人々

の収穫や暖かい暮らしを願い、ブド

りは自らが犠牲になることを選ぶ…。


この作品は、厳しい生活を強いられ

る東北農村の光景と、その農民を救

うために心身を燃やし続けた賢治自

身の精神的自画像と考えられている。

特に最後の場面はジーンと熱い感動

を覚え、涙なしには読めない。純朴

に綴った文章は飾り気がなくて素直

に心に届く。そんな中でごく一部で

あるが、クーボー大博士が玩具のよ

うな小さな飛行船に乗って空を飛ぶ

など幻想的というかメルヘンチック

な描写がある。この優しくも不思議

な側面も賢治の魅力と言える。