「ってか、誰か居るのか?翔太?」
「いやいや、こんな丑三つ時に誰が居るんだよ…」
なんだ、この圭介の女の子みたいな第六感は……
「浮気は許さないんだから!」
…………………妻が居る人に言われるのも合点がいかないし、気持ち悪いし、そもそも、あなたが浮気性だし。
「まあ、直ぐ帰るわ、今日は良い魚が売れ残ったから。ついてるな、圭介。」
「やったあ!今日は祭りだな!」
……さて、後は、萌子のお姉さんだ。
「あの……なんて呼んだら……萌子の……」
「沙羅って言います。……片山沙羅です。」
「沙羅さん、私は帰りますから、鍵を渡しますね。んで、帰るとき鍵はポストに入れて下さい。戸締まりだけはお願いしますよ。」
「分かりました。」
こんな事は絶対にしないのだが、萌子が同級生と騒ぎたいときは、時々そうしていたんだ。
場所貸ししても、萌子はきっちり片付けまでやって帰ってたから。
「あの……翔太さん…私、しばらくこの町で過ごすつもりなんです。」
「えっ?なんでです?」
「萌子を探しに来たんで、職探しもしたいし……」
酔っ払いで行き当たりばったりで、有る意味妹より有り得ないんですけど……片山沙羅さん。
ウチには関西系のうるさい女の子がバイトで居るし……心当たりとなると圭介のホステスになる。
「ハローワークに行ったら?私の伝手ではろくな仕事はないし……」
「分かりました。来週探してみます。」
圭介は極上の刺身で上機嫌だった、モモは相変わらずミミガーで喜ぶ豚好きだ。
「そういやさ、すんげえ美人が面接に来たんだよね……翔太、こんな田舎町で暮らしてみたいって可笑しくないか?」
もしかして……とは思ったけど、こんな狭い町だ、彼女が圭介の所へ来たのは想像に難くなかった。
「ふーん…そう……。」
「ってかさ、翔太、お前、なんでいつもそうなんだよ?欲がないというかさ、世捨て人みたいに……」
「圭介、俺は……解ってるだろ?」
「お前さ、そんなに萌子のことが良いのかよ?もうどこにいるかも解らないのに?」
「俺はバカだから……萌子しか待ちたくないんだ。待って欲しくなくても待ってたいんだ。」
圭介もさすがに諦めた。
「好きにしろ……萌子も有る意味罪な女だな……。」
後日、沙羅って子が圭介の店で働き始めた。
彼女だった。