夢を見た。
息子などいないはずなのに、彼を連れ、小学校へ向かった。
まだ就学前なのに、教室に入り、勝手に後席真ん中に座らせた。
教壇には、私より少し上の50代半ばの男性教員が、ホームルームで生活指導をしていた。

私は息子を置いたまま、黙って教室を出て行った 。
すると、後ろから先ほどの教員がついて来て、中庭で私を呼び止めた。
「何故、この学校に?」
「校舎が旧くて味があり、懐かしかったからです」
教員は静かに笑い、頷いた。
「あの校門を潜りましたか?」
朽ちかけ、学校名も読み取れない木柱を指差し、首を傾げた。
そしてその指先をスーと私に向けた。
すると、地面から木柱がスポッと抜け、宙に浮き、こちらを目指して 飛んで来た。
たちまち私の身体をさらい、空に舞い上がり、猛スピードで飛び立った。

気が付くと、伊吹山の崖の僅かに出来た窪みに倒れ込んでいた。
大分長い時間、気を失ってしまっていたようだ。
……早く息子を迎えに行かなくちゃ。
薄暗い空から今にも雨が零れ落ちそうだ。
切り立った岩肌は容赦なく立ちはだかり、登板する気力さえ萎える急斜面。
下界は見渡す限り樹木に覆われ、霧が立ち込めている。
身動きが取れず、焦燥感に苛まれていると、再び意識が遠退いた。

場面は変わる。
広場に4、5人掛けのテーブルが無造作に並べられていて、所々まばらに人が腰掛けている。
その一角に座った。
目の前の男に見覚えがある。
男の周りの3人の青年が男のことを先生と呼んでいるから、司法書士か弁護士のように見える。
その先生が私に憐憫の眼差しを向けている。
「大体が飲食業は荒稼ぎし過ぎなんだよ」
隣の頬のこけたまだ20代そこそこの男性が立ち上がり、見下ろして言い放った。
私は急に腹が立ち、彼を睨み上げながら言った。
「飲食店ほど、働いた分しか儲からない商売はない。

昔、会社が大成功し、何不自由のなくなった社長がその職を去り、あえて飲食店をはじめた。

その理由は、自分が何もしないでも、会社が勝手に儲けてくれる仕事が嫌になり、自分が働いた分だけで余計な収入がない職業に、生きる意味を見い出したからだ。

また裸一貫から居酒屋を始めた社長の場合は、大繁盛の結果、チェーン展開、社員も増え、自分は管理職に収まった。だが、日々虚しさが募るばかり。

その訳は、厨房に立てなくなったからだった。

厨房で包丁を握り、心を込めて料理を作る。

それを幸せそうに食べているお客様を眺めるのが彼の真実の喜びだったんだ。
ふかふかの社長椅子に座り、パソコンの各店舗の管理画面を眺めることは、彼の生き甲斐とは決してならなかった」
一気にまくし立てた。
それをじっと聞いていた先生が、私の顔を見て言った。
「そうかも知れない。だが、世の中そんなに甘くはない。今の話は、成功者だから言えるのだよ。貴方にはまだ、そんな資格はない」
冷めた表情に、少しだけ 熱が込もっていた。
……ようやく気が付いた。
この男、私の同級生だ。
出世頭のHだった。

そこで目が覚めた。
曇るのか晴れるのか迷った朝に見た私の気の迷いをよく表している。
教室に置き去りにした息子は、多分私の中の少年であろう。


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