マンホール第9話(後半)セリフ+ストーリー紹介
後半
「手紙はどこだろう」
あちこち探し回るが見つからない。
「手紙、手紙」
発見。遂に見つけた。
薬剤師は、ジンスクの誕生日パーティーに出席するための衣装選びをするものの、スジンの手帳からくすねて来た写真が気になって仕方がなかった。
彼は、スジンの部分だけを破り取り壁に貼り付け、残りは握りつぶして捨てると部屋を出て行った。
薬剤師が出て行った部屋には、不思議なことに、破りとった写真以外にもスジンの写真が何枚も貼り付けられていた。
ポンポンカフェでは、誕生パーティーの準備中だったが、ピルの姿はまだ見えなかった。
「ダルスオッパ。ピルは来ないの?」
「ピルは勉強はできないが頭はいい。いつも本能的に一番楽な時と場所を見つけるんだ。」
噂をすれば・・・ピルがやって来た。
「ポンピル、準備ほとんど終わったのを見計らってきたの?」
「ダルスヒョン。スジンはまだ来てないか?」
こちらも噂をすればだ。
「ほら来たぞ。」
「スジン来たの。一緒にいらしたのね。」
スジンには連れがいた。
「わ~、すごいですね。」
薬剤師に対するピルの敵意を感じたグギルは、ピルに前もってくぎを刺した。
「今日はジンスクの誕生日パーティーだ。ぶち壊すなよ。準備するのに半日かかったんだぞ。」
だが、ピルにはそんな話は通じなかったようだ。
「今日はジンスクが生まれた日だよな?」
「そうだろう。誕生日だから。」
「だけど、その日、必ず一人は死ぬんだ。」
「誰?」一瞬ひるむグギル。
その時薬剤師に電話が入った。
「ちょっと待ってて」
薬剤師が外に出ると、ピルも電話を装い後を追った。
「お、ちょうど俺んとこにも電話が来た。電話してくる。」
「ハイ、ちょっと約束がありまして。はい。私が明日電話します。はい。」
電話を終えた薬剤師をピルが呼び止めた。
「お前と俺は、どんな悪縁なのか、どうして俺を苦しめるんだ?」
「何のことでしょうか?」
「俺が時空間を行ったり来たりしながら、お前を良く観察した結果、お前は善良な顔をして笑っているけれど悪魔に近い人間だという事実を既に知っている。スジンの傍から離れろ。酒の席で恥をかきたくなかったら。分かったか?」
しかし、ピル同様、悪魔に近い人間にはピルの脅しも通用しなかった。
パーティー会場に流れる不穏な空気。勿論その空気を作り出しているのはピルだ。
笑ってごまかそうとするファミリーだったが、効果は無かった。
「僕のせいで気まずいのでしたら帰ります。」
「いいえ、効き目の良い薬紹介してください。」
「いいえ。友達だけで楽しい時間を過ごしてください。」
「良い考えだ。気を付けて帰れよ。ものすご~く不快だ。」
「や、あんたが帰れば、私はあんたの方が不快だわ。」
「気にしないで、いてください。ピルも歓迎されるキャラクターではありませんから。」
「はははは」最後まで笑いでゴマかすしか手のないファミリーだった。
「いいえ、僕はこれで帰ります。」
慌てて後を追うスジン。
ファミリーはピルを責めるが、意に介すわけもない。
「俺が何?何も言ってないじゃないか。」
「すみません。居心地悪かったでしょ?」
「いいえ、友達の印象もよかったし、愉快で面白いです。」
「あの、もしかして、ピルが、ほかにもジェヨンさんに何か気に障るようなこと言っていませんよね?」
「いいえ、何も。」
「何かやった気がするのですが?」
「ほんとうに、そんなことありませんよ。僕が忙しくて帰るだけですから。」
「誕生日パーティー一緒に行っていいかと言っときながら、急に忙しいから帰らなきゃなんて話無いでしょう?」
「ほんとに違いますから。誤解しないでください。本当は、スジンさんの友達と仲良くなりたかったのですが、一気に欲を出したらまずいでしょ?今日は、挨拶したことで満足します。早く戻ってください。僕のせいで気まずくなったら良くないでしょう。」
「いずれにしても、今日はありがとうございました。」
「僕の方こそ。では帰ります。」
「気を付けて。」
スジンの前では、あくまでも好青年の薬剤師だった
今日の主賓ジンスクが到着した。
「いち。にい・・」パーティーを始めようとした時、グギルが気づいた。
「ソクテはケーキ作ってくる気か?どうして来ないんだ?」
「ケーキカットは食後のイベントにして、食前のイベントから始めよう。」
「happy birthday to you・・・愛するジンスク。ハッピーバースデートゥーユー♬」
「おめでとう。」
ソクテはケーキを手にパーティー会場に急いでした。
ファミリーは、それぞれにプレゼントを準備していた。
無いのはピルだけ。
しかし、ピルは準備したと言い張って譲ろうとはしない。
「俺のプレゼント。持ってきたんだけど?」
「お芝居なんてしちゃって」
「準備していないなら、座ってろ。埃が立つ。」
「お前が泥棒公務員試験準備生だというくらいジンスクも知っているから、芝居なんてしないで会話で解決してはどうだ?」
「違うったら。今日は間違いなく、プレゼント準備したんだけど。」
「座って。貰ったことにするから。」
その時、ダルスがピルの後ろポケットのに入っている封筒に気付いた。
「これじゃないのか?軍事郵便?ピルがスジンに送った手紙だな。」
「自分で送った手紙を自分で持ってるなんて。」
ジンスクの顔に緊張が走った。
「それは違う。返せ。返せ。」
「なんだよ。秘密の手紙か?」
「違うったら。他人の手紙を勝手に見るなよ。」
「先に帰る」ジンスクがいたたまれず席を立った。
「ジンスク、そうじゃなくて。だから。」
雰囲気を読めないソクテ…今回は仕方ないが・・・がやって来た。
「合格、合格。ジンスク俺合格したんだ。」
ジンスクからの祝いの言葉が聞けると思っていたソクテだったが、祝いどころか、目も合わせることなく、ジンスクは帰ってしまった。
残されたファミリーは、理由が分からないまま呆然とするしかなかった。
「どうしたんだろう」
「なんだこの雰囲気は」
「ジンスク、待ってくれ。」
「そうよ。この手紙は私が持って行ったの。罵りたいなら罵れば。」
「ごめんジンスク。」
「あんたがどうして謝るの?手紙を持って行ったのは私なのに?ねぇ、罵りなさいよ。いっそ怒りなさい。」
「全部知っている。お前がどんな気持ちで、これを持って行ったのか。ジンスク。お前の気持ちに気付かなくて悪かった。俺が少しだけ、早く気付いていたら。」
「これを持って行ってスジンに見せようと思ったの?あんたは私の気持ちに気付いたとしても、私を傷つけたと思う。すっとスジンだけ見ていただろうし。ピル。私恥ずかしくて、あんたの顔を見られないし、戻ってスジンの顔も見られない。申し訳なくて。後はあんたの好きにして。」
「ジンスク」
「スジン。これは。どこからどうやって説明すればいいのか、本当に分からない。これはお前のものだ。少し遅れたけど。」
「そうだったんだ。でも、これを今更、何になるの?あんたの手紙が何だって言うの。」
「手紙のせいだろう?お前が手紙を受け取れなくて、俺たちの関係が遠ざかったんじゃないか。だから、その誤解を解きたくてやったのに。」
「ピル、あんたには分からない。私たちの間には最初から誤解なんてなかった。」
「どういうことだ?」
「ジンスクは、ずっとピルが好きだったの。私は、あんたがジンスクの心を傷つけないで欲しいと思ってる。」
「スジン、まさか、ジンスクンために俺を諦めたのか?」
「場合によっては、愛より友情の方が苦しいの。もうやめよう。ピル。」
そう言われてしまっては、ピルには成す術もない。
呼び止めることさえできないピルだった。
(残った道があるとしたら・・・ジンスクに嫌われる道だけ?)
「ジンスク。」
ソクテがジンスクを追って家までやって来た。
「どうして来たの?遊んでればいいのに。」
「主人公もいない誕生日パーティーに何の意味があるんだ?みんなも帰ったよ。」
「悪かったわね。私が雰囲気壊して。」
「俺は恨めしいよ。父さんに電話もしないで、合格の通知をもらって、すぐジンスクのところに走って来たんだ。ジンスクに一番最初に教えて、ジンスクに一番最初に祝ってほしくて。」
「ごめん。私に心の余裕がなかったの。合格おめでとう。」
「お前は、俺が合格しようがしまいが関係ないんだろう。ピルが合格したら、違っていたはずさ。」
「ソクテ、急にどうしたの?」
「俺がどうして公務員になりたかったのかわかるか?お前が、未来の旦那は公務員だったらいいと言ってただろう?だから公務員試験の準備をしたんだ。ジンスクが髪の短い男がカッコいいというから、翌日髪を剃り落としに行って、お前が背の高い男が好きだというから、足が痛くてしょううがないのに中敷き三枚も敷いて歩いて。俺の世界はジンスク中心に回っているのに、お前はどうして俺のことを見てくれないんだ?どうして?」
「ソクテ。あんたは私が誰が好きなのか知っているじゃない。あんたまでどうしたのよ。」
「お前がピルを諦められないように、俺もお前を諦められない。世の中の誰も分からなくても、お前は分かってくれなくちゃ。お前に見せたいものがあるんだ。ついて来い。」
「見てみろ。」
「これ何?」
「高校の時から、スジンがピルに送った手紙だ。」
「これを、どうしてあんたが持ってるの?」
「人って時々幼稚になるだろう?お前もそうだったように。あの時は、単にピルが憎かった。俺が馬鹿にされてるようで。だから、スジンがピルに送った手紙を持ってきたんだ。」
「これを何故私に見せるの?」
「読んでみればわかるだろうけど、ピルが一方的にスジンを好きなわけじゃない。スジンもピルが好きなんだ。お前はスジンと一番仲のいい友達だろう?スジンのためにもピルを諦めるわけにはいかないか?」
「私だって、自分の気持ちを自分でもどうしようもないのに、どうしろって言うのよ。元に戻せるものなら戻したい。誰かを好きになることが、沢山の人を傷つけるとは思っていなかったけど、諦められないのをどうしろと言うの。ダメなのに。」
スジンはピルからの手紙を読み始めた。
『スジン。元気かい。とっても会いたいよ。俺は毎日作業に訓練で大分やせたし、顔も真っ黒に日焼けした。軍隊に行くと大人になるといつも言ってたけど、いざ来てみたら、人を殺すところだった。これもするな、あれもするな。当然だと思っていたことが全部出来ないから、おかしくなって死にそうだよ。その中でも一番恋しいのが、あったかい母さんのご飯でもなく、明け方作るラーメンでもなくて、お前なんだ。」
Toポンピル
「大忙しで大変でしょう?軍隊というところは、元来目ヤニをとる暇も無い程忙しいと聞いていから知っていたけど。それでも返事が無いから心配になる。だから、今週末に面会に行こうと思ってるの。手紙受け取ったら電話でもちょうだい。」
面会でピルに食べさせたい領地を作るスジン。
「黙って食べないでよ。母さん、これはピルに持っていくのに。」
「子供を育てても意味ないというけど、母さんや父さんの誕生日の料理なんて一度も準備してくれたこともないのに。真心がこもっていますこと。」
「だって、ピルは軍人じゃない。どんだけお腹がすいているか。」
「でも、ピルはお前の手紙に返事もよこさないんでしょ?面会に行くの知っているの?」
「送ってこないんじゃなくて、忙しくて送れないの。こないだ電話した時、面会に行くって言っといたから。」
「とにかく、操が堅いですこと。」
そして、面会の日。
「こんにちは。どのようなご用件でいらしたのですか?」
「面会申請したいのですが」
「これを書いて、そこで待っていてください。」
「ありがとうございます。ご苦労様です。」
「関係は・・・彼女(=女友達)」と書いてはみたものの、女を消し、友達に訂正するスジン。
「ポンピルは、面会人が来たので既に外出したそうです。」
受付の兵士が伝えに来た。
「外出ですか?いつ戻りますか?」
「それは分かりませんよ。復帰時間は8時です。」
「誰が面会に来たんだろう。無駄足になっちゃった。」
諦めて帰ろうとするスジンが、帰り道何気に崖下(?)を見ると、ピルとジンスクが仲良く食事をしていた。
焼き肉を食べながら、プレゼントまでもらって嬉しそうなピルと。
ピルの傍で幸せそうなジンスク。
スジンは、面会の光景を思い出しながら泣いた。
「(ピル、私たち、あまりにも遅すぎた)」
「スジンは、もう諦めることを選んだ。これ以上自分に何ができるというんだ。どうすればいい?俺がどうすればスジンの気持ちを取り戻せるんだ。」
ジンスクから手紙を取り戻しても、何も変わらなかった。
12時。
絶望感に包まれたままマンホールの前に立ちすくすピルの姿は消えていった。
ジンスクは夜遅く祖母に電話を入れた。
「ごめんおばあちゃん。寝ていたのに起こしちゃって。」
「いいのいいの。私の子犬ちゃん誕生日は楽しく過ごせた?」
「もちろんよ。当然でしょ?スジンがわかめスープも作ってくれて、友達がパーティーも開いてくれた。」
「そうなの。よかった。今まで友達と遊んでいたの?」
「うん。おばあちゃん。私この家整理して、おばあちゃんと一緒に暮らそうか?別に何もないけど。ただ、この町が嫌になった。決まったらまた知らせるね。おやすみなさい。」
テーブルの上に見慣れないピンクの紙袋があった。
中には「ジンスク誕生日おめでとう。ピルより」というカードとともに、プレゼントが入っていた。
手紙を探しに来た時に置き忘れたピルからのプレゼント。
「ハ~」深いため息をつくしかないジンスクだった。
エピローグ
乾杯。
「ジンスク、今週末何するの?私と一緒にどこか行かない?」
「週末?私行くところがあるの。」
「どこ?」
「約束。」
「なら、私一人で行ってこなくちゃ。」
「ひとりで行かせてごめん。どこ行くの?男に会いに?」
「違うわよ。気分転換してくる。どこに行って来たかは、戻ったら教えてあげる。」
「どこ行くのよ」
「行って来てから教える。」
「どこ?」
「行って来たら。」
10話に続く