近年、腰痛予防にMotor Control(運動制御:運動する為に必要な様々な機構を調整する能力の概念に基づくピラティスの有効性が注目されています。ピラティスのコンセプトは、Joint by Joint Theory人体の関節は「安定性が重要視される関節」と「可動性が重要視される関節」に分けられ、それぞれが交互に並んでいるという理論)に基づいています。すなわち、低可動な胸椎・股関節は可動性(mobilityを、過可動な頸椎・腰椎は安定性(stabilityを向上させることで、脊椎全体へのメカニカルストレスを低減・分散させることが重要と考えられます。

この考えに基づけば、脊椎が捻じり曲がる側弯にはJoint by Joint Theoryがうまく作動せず、いろいろな不具合が生じます。側弯症の症状は左右偏った痛みやしびれ感(腰神経走行に沿わない)が生じることが特徴で、主に凸側に症状が集中することが多いです。

でんでん太鼓の持ち手を高速で往復反転させると、紐に結ばれた玉が左右対称に振り回されます(図1)。しかし持ち手が捻じり曲がっていると、紐に結ばれた玉は不規則な動きをし、うまく太鼓にあたることはありません(図2)。側弯に置き換えると、体幹の捻じり曲がりは、紐や玉に相当する上下肢が不規則運動し不具合が発生します。また脊椎を支える体幹筋は、側弯凸側で強く伸張され活動が強まり、緊張し続ける負荷に耐えられず衰弱します。一方凹側では短縮し、萎縮し機能が失われます。また筋出力は安静時の筋肉緊張度合いに大きく影響されます。例えば肘関節を伸ばした状態や曲げすぎた状態で筋出力は低下し、90度で筋出力が最大となります(図3)。よって側弯状態にあると、安静時筋緊張がアンバランスで、筋出力に影響が出ます。

ネットでは側弯症に効く運動療法や禁止行動などが記載されていますが、側弯の程度、タイプ、年齢、体力など様々な要素があるので、対処法は各個人さまざまです。よって、trial and errorで自分にとって禁忌な動作を探していきましょう。一般的に良いとされるヨガやピラティスも、痛みを発症させないものを選択してください。痛み止めを用いず、痛みが出やすい状況で行うと、何が自分に合って合わないかがよく分かります。


column

 近年、腰痛に対してピラティスを積極的に導入している、徳島大学 西良浩一教授のある動画の発言に共感を覚えました。

「整形外科の基本は運動療法であり、手術ではない」メスだけでは限界があり、名医とは運動療法つまり保存療法が上手でないといけない」「例え手術をしたとしても、そのあとに必要となるのは運動療法である」「手術だけして“はい、終わり”という先生よりも、保存方法も上手な先生のほうが手術成績は良い」「ヨガやピラティスは、治すというよりも、再発しない体に肉体改造するもの。痛みがあるときはしっかりと手術や薬物治療してもらい、再発防止目的でヨガやピラティスを行ってほしい」

車で例えると、筋トレは馬力をあげる、ストレッチはサスペンションを良くして乗り心地をよくする、ピラティスは運転技術を磨くことです。運転する人がしっかりしていないと事故に繋がるように、身体を上手に使う方法を学ぶにはピラティスが効果的なようです。

一般医師の言葉ではなく、大学病院副院長を務める教授の言葉である事が私にとって意外で、時代が変わったと思う発言です。


次回は正直整形外科「腰痛のトリビア:腰椎不安定症」です。