先週観た映画たち(その19) | John's BOOROCKSブログ-I Love The Beatles, Fender Guitars & Movies!

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先週、と言ってもつい数日前、とても印象に残った映画を観ました。日を追う毎にそのイメージがどんどん鮮やかになってくるという、不思議な感覚を味わっています。その作品は原田眞人監督の『わが母の記』。今日は、これを単独で扱いましょう。

『わが母の記』
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この作品は井上靖の自伝的小説を映画化したもので、認知症で衰えてゆく母(樹木希林)、そして主人公・伊上(役所広司)とその家族達の日常が描かれます。

これを見ていて何故か小津安二郎の作品群を思い浮かべたんです。特別な大事件が起こる訳ではなく、ごく普通の日常生活が描かれるのですが、その中に細やかな観察眼によって描かれた愛憎のカケラがちりばめられていて、時に応じてそれがキラリと光るのです。そのカケラが積み重なって、大きな「うねり」となるテーマが現れてきます。これこそが、自分の中では小津監督の作風と重なるのです。

また舞台は、太平洋戦争終戦後、数年経った昭和二十年代末から三十年代であるため、家族という形態が変容する以前であり、加えて描かれているのが中流よりやや上の家庭であったため、日本人の民族性の原点である家長としての父権が生きている描写がし易かったことから、小津の世界観と容易にリンク出来たのだ、とも思いました。

現代社会と当時では、明らかに社会の成り立ちが変容しているのです。それは日本の社会の最小単位が、当時は「家」であったのです。家族が、社会の最小単位であった時代なのです。もちろん現代の日本社会の最小単位は「個」です。
その意味で、社会そのものが大きく変容しているのです。
恐らく原田監督は、それを認識しつつ、小津監督へのオマージュを作りたかったのかもしれない、と思ったのです。これまでの原田監督の作風であった、男臭さ(例えば『金融腐蝕列島』『突撃!あさま山荘事件』『クライマーズ・ハイ』など)とダイナミズムはこの作品では、鳴りをひそめています。この映画の主役は役所広司ですが、印象としては女性が主役です。もちろん最終的なテーマは、主人公の母への愛情と、裏返しの恨みなのですが、実際には女性によってストーリーが展開され、役所はその狂言回しというべき立場を演じているのです。

事実、この作品の女性陣の演技が素晴しい。樹木希林しかり、宮﨑あおいしかり、その他の女優もしっかりと役にハマっています。宮﨑あおいに関しては、従来青春ものに出演することが多かったために、その役者としてのポテンシャルを十分に見ることが出来なかったのですが、今回の役柄を見て、知性的な女性の演技をごく自然にできる女優なのだと再認識しました。

また、これまであまり映画ではお目にかからなかった赤間麻里子(主人公の妻役)が、目立つ役ではないのですが、その佇まいが、まさに昭和の女性、小津ワールドの女性をイメージさせる存在として、光っていました。また主人公の二人の妹役、キムラ緑子、南果歩も、主人公の娘たち、長女役・ミムラ、次女役・菊池亜希子(主演作『森崎書店の日々』で不思議な魅力を放っていましたね)、そして三女の宮﨑あおいといった具合に、主人公の周りはすべて女性であり、それぞれが良い演技で、カッチリと歯車がかみ合っていたのです。

この作品は、日本映画の本来もっていた良さを再認識させてくれた大切な作品であり、これが切っ掛けとなって小津安二郎、黒澤明など日本の映画文化を構築した人々の作品に、今の若い映画ファンの目が向いたならば、それこそ原田監督の最も意図したところだったのかもしれません。