不思議なものだ。

 昨日までは、喧騒と幻想に包まれていた街。

 何もなかったかのように、普段に戻っていた。

 まるでボクに、昨日までを隠すかのように。

 今日でよかったのかもしれない。

 商業的になりすぎたものには、まやかしの魅力しかないのかもしれない。

 国道に出て、この度の旅のスタート地点に向かう。

 はずだったが、また立ち寄ってしまった。

 「大神子海岸」。
 坂を越えた先にある海岸は、ボクの大事なものを包み隠してくれているようだ。
 妻、弟、徳島のおじさん、江田島のおばさん。
 この2年の間で、今までのボクが波にさらわれていった。
 もう、満月の夜は来ないと思っていた。
 1本の希望の糸も容易く切れた。
 でも、月自体が欠けたわけではなかった。
 座り込んでいたボクは、サンダルを脱ぎ、砂を落とした。
 そして、昇り来る朝日に背を向けた。

 開店前の思い出の店にも立ち寄ると、大手資本が入っていた。

 信号を西に入り、しばらく走ると、おばさん方の親戚の歯科医院の看板を南に入る。


「また来れたよ。」

 いつの頃からか、この場所から徳島の街並を臨むと、胸の中で呟くようになった。

やっと旅が始まる。