アンテナ-学生編-  第二章 第二十六話 余白 | 見えない世界の真実が此処に®

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いろいろあった夏休み。

 

講義が始まっていた。

 

 

久しぶりのキャンパス。

 

異様に小麦色に焼けた顔見知り。

なんかイメチェンした知人や友人。

全く変わらないオレ。

 

午前の講義が終わった。

 

売店で弁当を買い、部室で食べるか、それとも。

 

会えば心は揺れるだろう。

 

学食から美味しそうな香りがしてきていた。

悟は迷わず学食に足を向けた。

 

由子の姿は無い。

 

 

 

後期からは講堂が変わるらしく、昼食後、初めての講堂に向かって歩いていた。

 

うだるような路面の熱で大量の汗が吹き出す

 

(タオルを持ってくれば良かった)

 

そんなことを考えていると、目の前に現れたのが、由子だった。

 

汗が引くと思うほど、涼しい風が吹いたと思う。

 

あれから、まだ1週間くらいか。

 

(なんね、変わっとる)

 

彼女はきらきら輝いていた。

 

ただ、それだけだった。

 

夕方。

 

店の前の通りに、

少しだけ涼しい風が流れていた。

 

夏の終わりが、近づいている。

 

 

悟は、店の奥で雑巾を干していた。

 

水が、ぽたぽたと落ちる。

 

その音が、静かに響いていた。

 

 

そういえば、

(……昨日のやつ)

 

 

 

思い出す。

あの、感覚。

 

 

 

何かが“いた”。

でも、拾わなかった。

 

 

(……あれで、よかったとやろか)

 

 

答えは、出ない。

 

ただ。

 

身体は、楽だった。

 

(拾っとらんけんやろか)

 

そう思った。

 

 

 

ガラガラ、と音がした。

引き戸が開く。

 

 

 

悟は、顔を上げた。

また、あの男だった。

 

 

数日前と同じ。

でも、少しだけ違う気がした。

 

 

「おう」

 

 

軽い声だった。

 

悟は、少しだけ身構えた。

 

「こんにちは」

 

それだけ返した。

 

男は、店の中を見渡した。

それから、ゆっくり悟を見た。

 

昨日と同じ視線。

まっすぐだった。

 

でも。

 

(……昨日ほど、重くない)

 

違いが、分かった。

 

男は、少しだけ笑った。

 

 

「源は?」

 

「いま、裏です」

 

男は、うなずいた。

 

 

 

そのまま、奥に行こうとした。

 

 

 

すれ違う。

 

一瞬、距離が近づく。

 

その瞬間。

 

ざわ、とした。

 

でも。

 

(……違う)

 

 

 

悟は、すぐに気づいた。

流れ込んでこない。

 

ただ、あるだけ。

 

(感じとる)

 

悟は、息を整えた。

男は、立ち止まった。

 

振り返る。

 

「……へえ」

 

小さく、言った。

悟は、何も言わなかった。

 

男は、少しだけ目を細めた。

 

「お前、変わったな」

 

その言葉に、悟は反応できなかった。

 

 

 

(……なんで分かる)

 

男は、それ以上は何も言わなかった。

 

そのまま、奥へ消えた。

 

しばらくして。

 

店の奥から、源さんの声が聞こえた。

 

何を話しているかは、分からない。

 

でも。

 

空気が、少しだけ張っていた。

 

 

 

悟は、作業を続けた。

冷蔵庫を拭く。

手の動きが、安定している。

呼吸も、乱れていない。

 

 

 

(……できとる) 

 

そう思った。

 

しばらくして、二人が戻ってきた。

 

源さんと、あの男。

男は、帰るところだった。

 

 

「また来るわ」

 

 

軽く言った。

 

源さんは、何も言わなかった。

 

男は、悟の方を見た。

 

少しだけ、笑った。

 

「まあ、頑張れや」

 

それだけだった。

 

引き戸が閉まる。

 

静けさが戻る。

 

 

 

悟は、しばらく動かなかった。

 

(……なんなんや、あの人)

 

源さんは、何も言わなかった。

 

 

 

悟は、少しだけ迷った。

 

それから、聞いた。

 

「……あの人」

 

源さんは、少しだけ、息を吐いた。

 

 

「関わるな」

 

短かった。

 

悟は、言葉を失った。

 

でも、

それで終わりではなかった。

 

 

 

「今はな」

 

続けて、そう言った。

 

悟は、顔を上げた。

 

源さんは、悟を見ていなかった。

 

でも。

 

その言葉だけは、残った。

 

 

 

(……今は)

 

 

 

意味は、分からない。

 

 

 

でも。

 

 

 

どこかで、繋がった気がした。

外では、日が落ち始めていた。

空が、少しだけ赤くなっている。

 

 

悟は、店の外に出た。

 

風が、さっきより冷たかった。

 

 

 

(……なんか、変わっとる)

 

 

 

自分の中も。

 

周りも。

 

少しずつ。

 

 

(第二十七話へ)

 

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