アンテナ-学生編- 番外編 佐藤由子 第三話 出会い | 見えない世界の真実が此処に®

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大学に入った。

 

春。

 

 

まだ少しだけ、空気は冷たかった。

 

由子は、キャンパスの中を歩いていた。

 

 

 

人が多い。

声が多い。

 

少しだけ、ざわつく。

 

(……多いな)

 

 

そう思いながら、足を進めた。

 

大学に入ってからも、それは変わらなかった。

 

人が多い場所は、少し苦手だった。

 

でも、

一人でいるよりは、ましだった。

 

 

(誰かいれば、落ち着く)

 

そう思っていた。

 

 

そのとき。

 

ふと。

 

空気が変わった気がした。

 

ざわつきが、少しだけ遠くなる。

 

 

 

音が、やわらぐ。

由子は、足を止めた。

 

 

 

(……あれ)

 

 

 

目を上げる。

 

少し先に、一人の男が立っていた。

 

何をしているわけでもない。

 

ただ、そこにいるだけだった。

 

でも。

 

分かった。

 

 

 

(……静か)

 

 

 

その人のまわりだけ、空気が違う気がした。

 

近づく。

理由は分からない。

 

でも、足が動いた。

 

すれ違う。

 

その瞬間だった。

 

すっと、胸の奥が軽くなった。

 

 

 

(……なに、これ)

 

 

 

驚いた。

 

今まで感じたことがない感覚だった。

 

安心した。

 

本当に、自然に。

 

 

 

何も考えなくても。

 

ただ、そこにいるだけで。

 

 

 

(この人……)

 

 

 

振り返る。

 

その人は、もう前を向いて歩いていた。

 

 

 

名前も知らない。

 

顔も、はっきり覚えていない。

 

でも。

 

分かった。

 

 

 

(また、会いたい)

 

 

 

理由はなかった。

 

でも、そう思った。

 

 

 

それから、何度か見かけた。

 

講義室。

食堂。

キャンパスの中。

そのたびに、同じ感覚になった。

 

 

 

近くにいると、落ち着く。

ざわつきが、静かになる。

 

 

 

(……なんでだろ)

 

 

 

分からなかった。

でも、嬉しかった。

 

少しずつ、距離が近くなった。

 

話すようになった。

 

名前を知った。

 

悟。

 

五島悟。

 

 

 

名前を呼ぶと、少しだけ安心した。

 

それも、不思議だった。

 

一緒にいる時間が増えた。

 

笑うことも増えた。

 

自然だった。

 

何も無理していないのに、楽だった。

 

(……好きかもしれない)

 

 

 

そう思ったのも、自然だった。

 

でも。

 

その頃から。

 

少しだけ、違う感覚もあった。

 

 

 

夜。

 

 

 

一人でいるとき。

 

ふと、意識が遠くなることがあった。

 

ぼんやりする。

 

体が、少し軽くなる。

 

どこかに引かれるような感覚。

 

 

 

(……なに、これ)

 

 

 

怖くはなかった。

 

 

 

でも、

少しだけ、不安だった。

 

 

 

目を閉じると。

 

誰かを感じる。

 

近くにいるような。

 

でも、触れられない距離。

 

 

 

(……悟?)

 

 

 

名前は聞こえない。

 

でも。

 

なぜか、そう思った。

 

 

 

目を開ける。

 

何もいない。

 

部屋は静かだった。

 

 

 

それでも。

 

感覚だけは、残っていた。

 

 

 

(……つながってる?)

 

その言葉は、まだ知らなかった。

 

ただ。

 

 

 

一緒にいると、安心する人がいて。

 

離れていても、感じることがある。

 

 

 

それだけだった。

 

それが、何なのかは。

 

まだ、分からなかった。

 

(アンテナ-学生編-【番外編】  第四話へ)

 

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