アンテナ-学生編- 第二章 第二十四話 遭遇 | 見えない世界の真実が此処に®

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9月に入っていた。

 

暑さは、少しだけ和らいでいた。

 

それでも、昼間はまだ夏のままだった。

 

 

悟は、源さんの店で作業をしていた。

 

洗濯機を拭く。

冷蔵庫を並べる。

雑巾を洗う。

 

いつもと同じ。

 

でも。

 

どこか、違っていた。

 

 

 

(……軽か)

 

 

 

身体が、軽い。

 

呼吸も、楽だった。

 

昨日のことが、まだ残っている。

 

 

 

(……なんやったとやろ、あれ)

 

 

 

源さんの腕。

あの温かさ。

 

 

思い出すと、

胸の奥が、少しだけ落ち着いた。

 

 

ガラガラ、と音がして、

引き戸が開いた。

 

 

悟は、顔を上げた。

 

 

見慣れない男が立っていた。

 

 

ラフな格好。

 

でも、どこか整っている。

 

空気が、違った。

 

 

「源いるか〜?」

 

 

男は、店の中を見渡しながら言った。

 

 

 

声は軽い。

 

でも。

 

 

(……なんや、これ)

 

 

悟は、少しだけ息を止めた。

 

 

その男の周りに、

何かがある。

 

 

重くはない。

でも、強い。

 

 

 

「こんにちは」

 

悟は、慌てて近づいた。

 

 

「源さんは、いま配達に行っています」

 

 

男は、ゆっくり悟を見た。

 

 

その視線が、まっすぐだった。

 

 

(……見られとる)

 

 

一瞬で、そう感じた。

男は、少しだけ目を細めた。

 

 

そして。

 

 

「ああ、……君か」

 

ぽつりと、言った。

 

悟は、固まった。

 

(おい?)

 

「よお——」

 

そこまで言いかけた瞬間。

 

 

ぺちん、と音がした。

 

 

タオルが、男の頭に当たった。

 

 

「痛っ」

 

 

「おう、来るなら来ると連絡しろ」

 

源さんだった。

 

 

 

いつの間にか、後ろに立っていた。

 

悟は、はっとして頭を下げた。

 

 

「おかえりなさい」

 

源さんは、軽くうなずいた。

 

それから、男の肩をつかんだ。

 

「ちょっと来い」

 

「え、ちょ——」

 

男は文句を言いかけたが、

 

そのまま引っ張られて外に出た。

 

 

 

引き戸が閉まる。

 

 

 

店の中が、静かになった。

 

悟は、その場に立っていた。

 

(……なんや、今の)

 

さっきの男。

 

あの視線。

 

「よお?」

 

(誰や)

 

見たことは、ない。

 

 

 

でも。

 

 

 

(……知っとる気がする)

 

 

 

胸の奥が、わずかにざわついた。

 

怖くはない。

 

 

でも。

 

 

落ち着かない。

 

悟は、しばらくその場に立っていた。

 

それから、ゆっくり動き出した。

 

雑巾を手に取る。

 

洗う。

 

絞る。

 

干す。

 

 

いつもと同じ作業。

 

でも、頭の中は違っていた。

 

 

 

(誰や)

 

 

(どこで)

 

 

(いつ)

 

 

 

考えてみる。

 

でも、出てこない。

 

雑巾を干し終えた。

 

空を見上げる。

夕方が近づいていた。

 

少しだけ、風が涼しくなっている。

でも、胸の奥はまだざわついていた。

 

 

 

(……なんや、あれ)

 

理由は分からない。

 

胸の奥が、少しだけ、ざわついたままだった。

 

悟は、店の中に戻った。

 

 

 

(第二十五話へ)

 

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