ベルとキリン -後編 | 見えない世界の真実が此処に®

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初めての1人暮らし。

満員電車に揺られ、2回の乗り換えで会社に着いた。

出版社というとブラック企業かもしれないと思っていたが、最近の社会の流れか、早い時は17時に、遅い時でも21時にはタイムカードを押し退社した。

普通の社員であればそれは有難い事だろう。

早く帰り趣味の時間にあてたり、遊びに行ったり、家族と過ごしたりする事ができる。

だけど、キリンは違った。

何かに集中していなければ、すぐに
「お母さんは俺のために命を落とした」

という思いが湧いてくるのだ。

そんな状況だから、キリンの会社での評判はすこぶる良かった。

本来、飽きやすい性格のはずなのに、無理矢理にでも集中して仕事を覚え、誰よりも熱心だった。


その日、キリンは18時に退社した。

とても寒い日で、小走りで地下鉄を乗り換えた。

ラッシュアワーだったが、予想外に人の少ない車両だった。

何かに集中しないとまた何かが降りかかってくる。

いつしか、そんな思いで中吊り広告を真剣に読みあさるようになっていた。

6枚か、7枚ほどの広告を読み終わった時だった。

入口のドアに顔を寄せるようにして立っている1人の女性に目がいった。

そしてガラスに映る顔がはっきりと見えた。


お、お母さん?



ガラスにはっきりと映っていた。
その顔は間違いなく母親だった。

すぐ近く、数歩進めば手が触れられる場所に立っているその女性の顔を見ようと、キリンは女性の真後ろに移動した。



キリンの頭は真っ白だった。

同時に、目の前に何か黒い霧が降りてきたような感覚で視界が狭い。

少しふらつきも感じた。

普段ならば絶対にそんな事はしない。

だが、キリンは躊躇なく女性の肩を手でトントンし、「すみません」と声をかけた。



『ひゃいっ!』


はい、と答えたつもりだったベルの声は思わずカン高くうわずっていた。

その自分の声にとても恥ずかしくなったベルの頬は、一気に赤くなった。

頭の中で何を考えているかなど他人に分かるはずもないのにその妄想を覗かれたもしれない。

恥ずかしい。

そんな恥ずかしさ以上の変な快楽が襲ってきたような感覚もあった。

急いでもう一度言いなおした。


「はい…、どうしました?」


ベルはキリンの目をまっすぐに見つめた。



全く見知らぬ男性だけど…、ああ、もしかして、会社の上司かもしれない。


 

 

 

 

変な声を出して振り向いた女性の顔は、全くの別人であった。

どうかしてた。
最近の変な感じのせいだ。

お母さんが生きているはずもない。



振り向かせてしまい、どんな顔をしていいのかも分からないが、何かを言わなければ。

女性はキリンの目をまっすぐ見つめている。



まずい何か言わなければ。
(…可愛い子だな)


「あのー、すみません新人の…」

 

 

とキリンの焦りなど知らないベルは、自己紹介を始めた。



「え? はい?」
キリンは驚いた。



「あ、ですので、今年4月に新しく入社したベルです。」



「あ、ああ、どうもお疲れ様です。私も今年入社したキリンです。」


(なるほど、同じ会社の同期かもしれない。本当に可愛い子だな…)



「部署はどこですか?私は電子出版部です。」


「私は、ええと、校閲部です。まだ新人で…。」


「校閲部ですか?すごいですね!大変な部署だと聞いてます。僕の部署は楽なほうかもしれません。」


(よかった、一緒の会社?同じ出版社関係かな?)


「ところで、どうしましたか?」
とベルはキリンの唇を視界の端で盗み見ながら、キリンの目に意識をもっていった。


(なんで!?この人の唇や声に感じてしまう。)



「あ、いえ、実は…。」
正直に母親に似ていたと話そうと思ったキリンだったが、

「あ、いえ、何でもありません。いつも同じ電車に乗っている、あ、そうでは無くて、具合でも悪いのかな?と思って。」



「え?」


(どうしよ、話の内容が全く頭に入らないよ)



「あ、だってほら、このドアにこうやって、立ってるから。」
キリンは、さっきまでベルが立っていた様子を再現して見せた。それは本当に具合が悪そうに見えるかもしれなかった。



「ああ…そうでしたか。それはすみませんでした。ありがとうございます。」


(そうよね、カラダをどこかに支えておかないと…だから)


と、キリンがいつも降りる駅についた。

表示版は、平井。



「あっ!ここで降ります。」

キリンはこの気まずい状況からやっと解放されると安心したのか、笑顔になり言った。



「え?私もここです。」
2人は同じ駅で降りた。

平井駅で降りた2人はまるで出会わなかったかのように、それぞれ改札を出て行き、ベルは改札を出ると左に、キリンは右に。

日常へと戻っていった。





終わり


次、新初級編⑩にて解説します。



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