今回読んだのは、現在ヤングキングで自分が好きな、無理を平気で押し通す、ワガママが服を着ている最強のチンピラが主人公のヤクザマンガ「ドンケツ」
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を描いてる漫画家の前作で、元々はヤングマガジンに連載された作品で、単行本も講談社から出ていたらしい。
それを現在ヤングキングで描いてるからか、単行本三冊分を一冊にまとめたコンビニコミックとして少年画報社から再発売された。
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自分が読んだのは、このコンビニコミックなのだが、「ドンケツ」以外、たーしの作品を知らなかった自分だが、どうせ車屋のマンガにありがちな、車好きな作者の知識と取材で得た車のウンチクの押し売りを売り物にした自己満足マンガだろうとタカをくくって1巻を読んだら車そのものじゃなく、その車の購入者のこだわりや関わりの方をドラマチックに描いていたので興味をもち、軽く調べてみたら、この作品は「アーサーGARAGE」という作品の続編である事がわかった。

さっそく古本屋へ走り、サラっと立ち読みしてきたが(笑)、今回の作品のメインキャラとの関わりはもちろんだが、「アーサーGARAGE」の時に比べ、画もエピソードの深さも格段に上手くなっている事に驚いた。
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(↑アーサーGARAGE ただの汚いオッサン風)
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(↑熱血中古車屋魂!アーサーGARAGE シブみのある中年風)
今回自分がちゃんと読んだのは、「熱血中古車屋魂!アーサーGARAGE」だが、メインキャラクターの深い拘わりとかを気にしなければ、「アーサーGARAGE」を読まなくても楽しめる。

なにしろ単行本三冊分を一冊に纏めての、全5巻完結となっていたので、読み応えは十分だった。

この物語の舞台となるのは、福岡県にある漁港のオンボロ倉庫を借り、在庫を一台も置かず、セコいと評判の注文販売専門の中古車屋「アーサーGARAGE」。

この店の社長(といっても従業員は一人だが)、原田朝男(アーサー)
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は、二十歳の時に一度中古車屋を始めたが失敗し、ヤケになり、ヤクザの世界に入り、ずっとアーサーを支えてくれていた、妊娠中の妻に出ていかれた過去をもつ。

やっぱり車屋が好きで、立ち直ったアーサーはヤクザをやめて、ふたたび中古車屋を始めた。

もうひとりの主人公として、従業員の梅木千春(チハル)。
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自称アーサーの右腕の二十歳(ハタチ)。
幼い頃に事故で両親を失って以来、親代わりになった姉・チナツに育てられた。
自分が半人前の為、恋人の許になかなか嫁げない姉に申し訳なく思い、早く一人前の男になろうと、アーサーの背中を見ながら奮闘中。
自分の思った通りに行動する直情型ゆえ失敗も多いが、真っ直ぐさと正直さで成長していく。

今回の作品は、そんなアーサーが30歳を前に一大決意をし、これまでのブローカーもどきの注文販売専門店から、店頭在庫を抱えるちゃんとした?中古車屋に生まれ変わろうとするところから始まる。

とはいえ一気に店を移転したり、在庫をバーンと抱える資金はなく、まずは看板を新しくし、在庫を二、三台置くくらいからスタート。

「まごころの車屋さん
アーサーGARAGE」

この看板こそがこの作品のテーマとなっていく。

アーサーの決意にたいして、最初のお客さんはアーサーの昔からの知り合いで、ヤクザ時代は親分として面倒を見てくれ、ヤクザをやめる時もあたたかく送り出してくれたアーサーが絶対頭が上がらない三日月組組長・村松(ムラさん)。150706_111007.jpg
注文は二台。
一台は、村松の若衆でアーサーの後輩・ヨシオが組を持つのと出産祝いを兼ねたもので、はじめはほかの幹部達と同じセルシオの予定だったが、四駆が好きなヨシオの希望でランドクルーザーのシグナス。

もう一台は、「20代後半のそんなにケバくない女が乗る50万で買える車」。
車種は、アーサーに任せるという。

ヨシオは若いながらも三日月組のホープとして持ち上げられてきたが、このシグナスを買ってもらう過程で、過去の因縁から狙われる事になる。

それをヨシオにはいっさい知らせず、秘密裏に処理しようと動く村松とアーサーだったが、ヨシオは襲われてしまう。
窮地をアーサー達に救われ、ヨシオは自分の甘さや弱さ、自分の為に動いてくれる人達のありがたさを知り、人間としても極道としても一回り成長する。

このエピソードでは、アーサーの商売人としての成長と、アーサーが巻き添えで刺された後のチハルのキレぶりで、チハルのアーサーにたいする思いも描かれている。

続くもう一台の注文はラシーンに決まるのだが、実はアーサーの別れた奥さん・涼子の車であった。

アーサーに任せると言いながら、アーサーが用意した車にムラさんはなかなかOKを出さない為、店頭在庫は増えていく。

これは、涼子が店に来た時、ちゃんとアーサーが車屋をしてる姿を見せる為のムラさんの考えであった。

なにも聞かされてなかったアーサーの前に涼子と
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娘・サトミ(9歳)
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が現れ戸惑うアーサー。

涼子は最近、サトミが自分の父親を意識しだした事から、アーサーに父親として名乗ってあげてというが、ひとりでサトミを育ててきた涼子とくらべ、一年前までサトミの存在すら知らなかった血の繋がりによる父親でしかないと思うアーサーは名乗れない。

サトミは父親だと気づきながらも、そんなアーサーに敢えて友達としてメルアドの交換を申し出る。

アーサーには、想い描いた将来の理想がある―。

小さくてもいいから、もう一度ちゃんとした店を持つコト……

そして、人並みより少しでいいからお金を稼ぐコト……

そして何よりも………
涼子 サトミ…
おまえたちと一緒に暮らしたいと願っとる―
ずっと 永遠に叶うコトはないとわかっとるのに………

そんなアーサーの決意にたいしてムラさんは、一度絆の切れた家族を再会させるという粋な贈り物をしたのだった。

このあとも、自分の油断から目を離した為に手伝いをしていた後輩を事故で死なせてしまった過去をもつ整備士・福田圭一郎(25歳)の150706_110606.jpg
入社や一度すべてを失った男が、再起した姿を自分と別れた後、再婚が決まった女房に見せて安心させるのと、娘にした「迎えにいく」という約束を守れなかった事を謝る為だけに、手元にある現金だけで買える、かつて家族であった時代に乗っていたオデッセイを巡る話など珠玉のエピソードが続き、なかには後輩の整備工場の倒産やチハルの姉の彼氏の母親の痴呆症など現実味を帯びた話もあった。
現在、おもしろいマンガはたくさんあるが、読みながらキャラクターに感情移入し、泣けるマンガはなかなかないと思う。

このマンガのキャラ達はアーサーをはじめ、とにかくよく泣く。
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ときには落ち込み、悩んで、そして、よく笑う。
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その表情や感情の動きが、作者からの押し売りではなく、キャラクターから自然に溢れ出てる感じがたまらなくいいのだ。

そして、この作品には敵役でもメインとなるキャラクターに悪人がいない。

行為や行動だけを見ればかなり酷い事をするのだが、そうなった背景がきちんと描かれているから、敵役にも情が入り、一概に悪役と思えなくなってしまう。

この描き方は、たーしが現在描いてる「ドンケツ」でも本編では理不尽さで暴れるキャラクター達だが、外伝では毎回個人にスポットを当てるので、そこに活かされている。

順に話を読んできてのクライマックスは感動もの。
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もうひとつ忘れちゃいけないのが、全編に使われる福岡弁?北九州弁?
この方言が、作品をより味わい深くしている。

マンガや小説のセリフは、昔から標準語が大半を占め、たまにあっても「なんちゃって関西弁」くらいだった。

それも、作者がその土地出身というわけじゃないので、大阪弁や河内弁がごちゃ混ぜの場合が多い。

この方言については、マンガは画がある分、感情表現がわかりやすいので、小説より受け入れられやすかったからか、自分の育った土地を舞台にし、自分の方言にこだわって描いている作者も、この作品の作者であるたーしを含め、少数だがいる。

ただ、リアルさを追求したものや奇抜さ、おもしろさだけでなく、人間を描いたドラマを読みたい人やしばらく涙を流してない人にはとくにオススメしたい。

たかがマンガとバカにせず、たまには素直な気持ちで読んでみて、感情に任せて泣いてみませんか?