最近、おっさんマンガがアツい!

自分が感じるおっさんマンガとは、ヤングジャンプやヤングマガジンなどの青年誌とは一線を画す、少年誌を卒業したマンガ読者達がかつては進んでいたリアルさを軸にした劇画中心とする、昔ながらの成人向けマンガ雑誌に連載されてるマンガ達である。

雑誌名を挙げると、漫画ゴラク、週刊漫画、漫画アクションなどで、「ゴルゴ13」や「浮浪雲」が連載されている作品傾向から、ビッグコミックスペリオール以外のビッグコミック関連もおっさんマンガ誌に含まれるのではないか、と考えている。

さて、そんなおっさんマンガには自分好みではないものが多く、そんなに読まないのだが、ジャンル的にも絵柄的にも自分好みだったので読んでみたのが、このコンビニコミックの「DIRTY」(全1巻)である。
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原作は、闇金融の世界を描いた「ミナミの帝王」や現代ヤクザの世界をリアルに描いた「白竜」シリーズなどを代表作とする原作者・天王寺大。

自分は、「ミナミの帝王」は読んだ事ないが、この作画をしてる郷力也の実兄らしい。

作画をしてる富沢順は、「聖闘士星矢」などで知られる車田正美のアシスタント出身で、車田テイストを感じる画でありながら、そこに独自の作風を加味し、オリジナルの画にした、「いのち屋エンマ」などを代表作とする漫画家である。

その女は天才であり、殺人者である―。

この作品は、一年前から大手IT企業「サルベージ」の上級役員として勤め、18歳の時に犯罪行動科学の教授として東都大学に招聘された事もある27歳の天才八神エリカ
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と、仕事に没頭するあまり、二年前に娘を連れて奥さんに逃げられて以来、投げやりな日々を過ごしていた六本木署刑事課捜査一係の32歳の刑事・工藤俊輔
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のふたりを主人公にしたクライム・サスペンス。

《終わりの始まり》は、エリカと俊輔が知り合うきっかけとなった、三ケ月前に出所した連続婦女暴行犯殺人事件。

この事件は、上に挙げた、この作品のキャッチコピーを著した事件で、エリカはかつて自分を暴行した犯人にたいする復讐のアリバイ作りの為に現職の刑事である俊輔に近づき、一夜をともに過ごす。

暴行犯にたいする殺害方法から、怨恨によるものと判断した六本木署の刑事達は、9年前の暴行事件の被害者女性のなかで犯行時間、行きずりの男と自宅で一夜を過ごしていたという唯一、アリバイのないエリカを参考人として呼ぶ。

エリカと取調室で再会した俊輔は、
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自分が犯行時刻、彼女とともに過ごしていた行きずりの男である事を上司に報告する。

「刑事とともに過ごしていた」、この完全なアリバイによって、エリカはシロとされたが、この時、俊輔の刑事としての勘には危険信号が点っていた…。
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俊輔はエリカが仕掛けた心理トリックに気づき、エリカのアリバイを崩す為、単独で捜査を続け、一夜を過ごした部屋で証拠を掴み、自首を促すが、逆に俊輔の仕掛けた罠を見破られてしまう。
俊輔は、自分の仕掛けた罠から事実を裏付けられる事を知りながらも、エリカに誘われるまま、肉欲に溺れていくのだった…。

《不確かな確実》は、強姦殺人の犯人として、被害者の体内に残された体液のDNA鑑定から、俊輔が容疑者として逮捕したのは被害者の恋人だった。
犯行の痕跡をいっさい残さず犯行を行った犯人が残した、たったひとつの痕跡。
そこに不自然さを感じたエリカは、本来DNAは個人によって異なるが、唯一同じDNAを持つ可能性がある人間を見つけだす。

この事件から、エリカは俊輔にたいして陰のアドバイザーとなる。

この事件のラストシーンに描かれた、エリカの心理描写。
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こんなエリカだからこそ、真犯人を暴けたのだろう。
《夜明けの晩》は、俊輔が二年前に別れた妻・美和子との娘、菜穂子の150427_133900.jpg
誘拐事件。

美和子は、俊輔と離婚した後、一年前に会社社長の赤城と再婚していた。
その美和子から、菜穂子が通学中に身代金目的に誘拐されたというTELが入り、俊輔は赤城の家に駆け付けるが、本庁から誘拐専門の刑事達が到着すると、引き取るように言われる。

その様子を見ていた赤城に、「なんの役にも立たない」と蔑まれる俊輔だったが、美和子が俊輔を残してもらえるよう本庁の刑事に申し出る。
被害家族の申し出により、渋々ながら連絡係として残れた俊輔を、部外者からの傍受はないと、本庁刑事が言い切る警察の誘拐専用回線にハッキングしたエリカが陰から支援するも、犯人からの要求である身代金を車で運ぶ美和子が走る高速道路上、追跡していた警察車両にたいし、娘かわいさにとんでもない失態を侵してしまう。

また、犯人からのTELを逆探知した強行班が現場に突入するも、海外からの転送電話が置いてあるだけで空振りに終わった。

まんまと身代金を奪われ、犯人を逃がし、菜穂子の安否もわからず捜査から外され、不安に押し潰されそうになっていた俊輔をエリカは自宅に呼ぶ。

エリカの自宅は以前行った部屋ではなく、高層マンションの豪華な一室だった。そう、前に俊輔が行った部屋は、エリカがあの時、復讐を果たす為に借りていた部屋だったのだ。

犯人を追う手がかりがないと落胆してる俊輔に、エリカはまだ手がかりはあり、ふたりで捜査はできると言う。

残された手がかり、それは「誘拐現場」だった。
エリカは、過去の時間は追えないという俊輔を落ち着かせると菜穂子の通学経路を聞き、東京メトロの防犯カメラ、コンビニの防犯カメラ、さらに大きな交差点に設置されてる交通事故記録装置の「タームス」までもハッキングし、
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IT企業上級役員としての並外れた技術を見せる。

タームスに残されていた誘拐現場の画像に写っていた犯人のかけていたサングラスから犯人を割り出した俊輔は捜査本部に戻ると、犯人の写真を見せる。

警察内部の人間以外入手できない画像を見た本部長は情報入手先を聞こうとするが、俊輔は外部からのタレコミという事にし、事件を解決する。

しかし、エリカはこの事件に疑問を感じていた。
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そう、この事件には裏があり、真犯人は別におり、まだ「夜明けの晩」だったのだ―。

俊輔はこの事件解決後、娘の菜穂子には時々会えるようになったが、美和子との関係は今まで通りという、しいラストだ。
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ミステリアスな美女と本来、優秀なのにそれを錆びつかせかけた中年刑事。
こういう設定、まさにおっさんマンガならではだなと思いながらも、事件にたいする原作者の知識が深いので、このテのマンガにありがちな安っぽさがなく、スリリングな作品になっている。

エリカが暴行の被害に遭う前、犯罪行動心理学の道に進んだのも、幼少時、両親を殺害され、まだ犯人が捕まっていないからではないか?という設定や女性を対象にした犯罪にたいし執念を燃やす理由など、ストーリーの中で彼女の過去がチラチラと出て来るのだが、まだ明らかにされていない。

ぜひとも続きを読みたいが、これもおっさんマンガの特徴なのだが、きちんと完結させる事なく、キリのいいところで中断し、そのまま埋もれさせてしまう事が多いのだ。

これは、それをするには惜しい作品なので、ぜひとも続きを描いてほしいものだ。

人間心理をえぐるタイプのミステリーが好きな人にはオススメ。