2019.12 臨時号 NO.125 VS 

PGAツアーの新シーズンが既に始まっている。メジャーは来春からで第1戦のマスターズは4/9~開催される。注目は何といっても、先月初めて日本で開催のPGAツアーで完勝したタイガー・ウッズ選手がマスターズを連覇するかどうか。

数多くの記録を持つウッズ選手が破るか注目される記録が、ニクラス氏のメジャー最多の18勝。その記録を超すのにあと4勝だが、もう直44歳になることを考えれば微妙か。

 昨シーズン、マスターズ勝利後の毎年舞台が変る他の3つのメジャー成績は振るわなかった。それだけに同じコースで経験がアドバンテージとなるマスターズを勝つことがウッズ選手とって重要となる。ただ、マスターズは、メジャー大会であることに加え、優勝すればチャンピオンズロッカールームが持てることが一流プロのプライドをいたく刺激する。まだ勝ったことのない、「メジャー勝利しか要らない」と公言して憚らない世界ランク1位ケプカ選手(優勝7勝のうちメジャーが4)やマスターズ優勝で生涯グランドスラム達成となる同2位マキロイ選手、同3位ダスティン・ジョンソン選手などが、目の色を変えて臨んでくる。ウッズ選手をもってしても勝つことは容易ではない。

 海外女子プロゴルフ界では、5大メジャーの初戦となるANAインスピレーション(以下ANA)4/ ?~開催される。今年の5大メジャー優勝者は、(敬称略で)ANAとエビアン選手権がコジンヨン。全米女子オープンはイジョウン6、全米女子プロ選手権はオーストラリアのハナ・グリーン、そして全英女子オープンが“シブコ”こと渋野日向子(全米プロを制してから42年間後進のメジャー勝利を待ち焦がれた、レジェンド樋口久子さんは、試合中のお菓子を食べたりギャラリーとハイタッチする振る舞いや緊張が伝わってこないことで渋野選手を「新人類」と呼ぶも、孫が勝ったかのごとく喜んだ)

来年も上記メジャー優勝者と世界ランク2位パクソンヒョン選手の韓国勢3人と同4位畑岡奈紗選手、同10位タイのアリヤ・ジュタヌガーン選手らアジア勢で海外メジャーを争うことになるのか(そうなれば米国ファンは離れて米女子ツアーの人気も賞金も低迷する)

 

渋野選手は、メディア等が煽るも、来季米ツアーに行かない。世界ランク維持の為獲得ポイントの高い海外メジャー等にはスポット参戦する。とくに(東京五輪の前哨戦と言うべき)6/4~の全米女子オープンは頑張って欲しい。かつてニクラス氏は、「全米オープンと全英オープンとを両方制した者が真のメジャーチャンピオン」と言っていた。戦後では、(敬称略で)ベン・ホーガン、アーノルド・パーマー、ジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤー、リー・トレビノ、ジョニー・ミラー、トム・ワトソン、アーニー・エルス、タイガー・ウッズ、ローリー・マキロイ、ジョーダン・スピース等となる。錚々たる顔ぶれだ。

それに擬えれば、女子プロでは全米女子オープンと全英女子オープンとなろう。両メジャーを制したのは、(敬称略で)アニカ・ソレンタム、カリー・ウエブ、朴セリ、朴仁妃、アリヤ・ジュタヌガーンの5名のみ。これら名選手と渋野選手もぜひ肩を並べてもらいたい。

2016年度末の世界ランクのトップ3は、上からリディア・コ選手(当時19歳)、アリヤ・ジュタヌガーン選手(同21歳)、チョンインジ選手(同22歳)。コ選手は現在世界ランク35位、インジ選手に至っては46位まで順位を落としている。

 17歳で世界ランク1位に輝いたコ選手はコーチやキャディーを次々と替え、元コーチで高名なレッドベター氏が「驚くほど無知な両親のせい」と親との確執を嫌悪感を露に暴露した。インジ選手の場合は1988年の全米オープンで初勝利したリサロッテ・ノイマン選手に似ているのかもしれない。ノイマン選手は早くメジャーに勝って却ってそれが重圧となって苦しんだ。201520歳で全米オープン、日本オープンを制したインジ選手も翌年エビアン選手権に優勝しフランスから凱旋帰国した際「国民の自分を見る目が変った。相応しい言動をしなければ」と言っていた。ノイマン選手と同様ショットメーカーで、パットも上手い。難しいセッティングのメジャー大会に向く。ただ飛距離が出る方ではない。パワーヒッターのパクソンヒョン選手やコジンヨン選手、イジョウン6選手ら後から来た韓国女子選手の後塵を拝している。結果が出ない焦りからかパットも不調に(ランク76)

俄かファンが知ったかぶりすれば、渋野選手もショットメーカーだが飛距離も出る。ハンドファーストの構えで曲がらず遠くへ飛ばす様は女ダスティンというところか。メンタル面は動と静の違いはあるが女ケプカと言えるか。これは天賦の才能。とくにプレッシャーがかかるメジャーではゴルフの実力以上に物を言う(1986年グレッグ・ノーマン選手が絶好調で4大メジャー各戦とも絶好の位置につけ年間グランドスラム達成もと見られたが、メンタルが弱く、勝ったのは中嶋常幸選手と優勝争いした全英オープンのみ)

加えて、ショットもパットも攻撃的な女セベと呼べる三拍子揃う渋野選手なら、ファンも指摘する課題が露見したが、必ずや克服し“見せるゴルフ”を貫いてくれるに違いない。

  

 海外メジャーでは後から来た渋野選手に先を越された畑岡選手は、日本女子プロ、日本女子オープンの二大メジャー連勝で黄金世代の旗頭としての貫禄と意地を見せつけた。

プロテストに落ちた頃既に雲の上の畑岡選手と互角に勝負できるのかとのきつい問いに、きっぱり勝負できると明言したという渋野選手は完敗から全英後の葛藤を捨て笑顔の内に闘志を滾らせたことだろう。他の黄金世代も二人に追いつけと切磋琢磨しているだろう。

小林浩美日本女子プロゴルフ協会(以下「協会」)会長は改革の成果と胸を張る。世界に伍するよう、ジュニアの育成、ステップアップツアーを世界ランクの対象にした。スポンサー等の協力を得て4日間トーナメントを増やしてもいる。

 黄金世代の台頭、2歳下のプラチナ世代の出現、渋野選手の海外メジャー勝利、鈴木愛選手のLPGAツアー優勝で日本女子ゴルフ界は新しいステージに入った。もっと誇りを持つべきだ。面積がカリフォルニア州(425千㎢)だけで日本全体(378千㎢)より広く移動が大変で、言葉等の壁、孤独感も味わう米ツアー(元米賞金女王申ジエ選手が母国近い日本ツアーに転戦したのも、それが主因?) に実績十分の鈴木愛選手以外行かない方がよいのでは。岡本綾子さんは30歳の時20勝と賞金女王をひっさげ日本の代表として渡米した。畑岡選手の米3勝も、米で1年程揉まれたからではなく、1718歳で日本女子オープンを連覇し今年一時里帰りで二大日本メジャーを連勝した実力が元々あり米環境に慣れ顕在しただけでは。

海外メジャー制覇への挑戦は、協会が大いに奨励、後押しするなら、男子ツアーと同じく賞金ランクに海外メジャー獲得賞金も加算すればよい。

かかる情勢変化の中で、プロテストに合格した選手でなけれQT受験させないという新制度が2020年度から実施される。要は、強い韓国女子選手を来させないためだろう。

日本の女子ツアーを(男子ほど日米に賞金額の差がない)米女子ツアーに匹敵する(日本、韓国、中国、台湾、タイ等の選手が参加する)一大ツアーに昇華させていく。そのよいチャンスでもあるのに、わざわざマイナーツアーに留めおこうとする協会の制度変更に対して、レベルの低下、ガラパゴス化を懸念する批判は少なくない。エビアン選手権チャンピオンのキムヒョージユ選手も日本への転戦希望を表明している(韓国選手の方が日本ツアーを評価している?)が、そんな強い選手こそ歓迎すべきではないのか。

今日本で活躍の全英女子オープン2度制覇の上述申ジエ選手(31)やアンソンジュ選手(32)はいずれ峠を迎えるだろう。今11/19時点の優勝者内訳を見ても、37試合中日本人選手の優勝は28試合(内黄金世代11試合)。外国勢(9試合)を凌駕できている。

 「韓国人優勝は見たくない」とネット上で見かけるが、イボミ選手が大活躍の時そんな声が大きかったか? 幕末尊王攘夷から尊王開国に改めたごとく協会も一刻も早く改めよう。