2019. 9NO.119 げき VS げき(1)

 日本競馬界の至宝ディープインパクト17(人間換算52.5)で亡くなった。あと10年前後先の問題として今日69になる私とどっち先に逝くかと思っていたが、(馬と一緒にしては失礼だが)妻に先立たれた夫の気持ちがどんなものか少し分かった気がした。

 悲しみに堪えて、サラブレットにはない心があるばかりに、醜い姿を晒す人間界の話をする。

 

吉本興業(以下「吉本」)傘下の芸人入江慎也氏が仲介し宮迫博之氏、田村亮氏ら芸人数人が振り込み詐欺グループの会合に営業した過去の出来事が闇営業問題としてスクープされた。それが今や当該芸人に止まらず吉本の屋台骨を揺るがす大問題に発展している。

 この問題につき、独断と偏見気味ではあろうが私見を述べてみる。

私は昭和48年から平成5年末まで某銀行に所属した。暴対法が平成4年に制定されたので、在籍した20年のほとんどの期間おいて私の銀行でも暴力団との取引は存在した。

 私自身は営業の仕事をしていないので体験はないが、当時同僚に、組長の奥さんの所に定期的に預金を貰いに行っていた。敵対する組長同士が日本刀の突き刺された場に対峙している所に同席させられ震えあがった。組長に融資の引きを上げを通告した支店長が怖い思いをしたとか、そんな話を聞いていた。

その頃反社会的勢力という言葉はなかった。兵器に喩えれば、暴力団が核兵器で、反社会的勢力(以下「反社」)が大量破壊兵器ということになるか。

平成4年の暴対法が成立して以降暴力団が姿を変えていくのに対応して平成196月政府の犯罪対策閣僚会議幹事会申し合わせとして「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が出されたが、法的拘束力がなかった。

それで、平成23年「暴力団排除条例」が全国で施行されることになる。断るのに窮していた芸能人や銀行員はさぞかし喜んだことであろう(かえって高齢者や弱者が詐欺被害に遭うケースが増えているのだが)。ただ、事の経緯からすれば、なぜ「反社会的勢力排除条例」ではないのか疑問が残る。排除条例自体を問題視する立場ではあるが。

 

平成259月銀行大手みずほ銀行が反社への融資を放置していたとして業務改善命令を金融庁から受け、世間は唖然とした。それならば、任侠の世界と過去密接な関係にあった興行の世界なら反社との関係の完全断ち切りはもっと困難と世間は思ったことだろう。

今回いち早く吉本と契約解除となった入江氏が直営業をしていることは、入江氏の年収が一億円とも言われる程手広く展開しているのなら、それを吉本の上層部が知らなかったと考えにくい。反社のグレーな先からの依頼の受け皿として入江氏の活動を見て見ぬふりをしていたのではないか。それならばこそ問題が表面化した時即切り捨てたのではないか。

お金は貰っていないとウソをつき世間のさらなるバッシングを受けた人気芸人の宮迫氏と田村氏両人は、所属の吉本から謝罪会見も許されず、吉本側の「静観」を「くさい物に蓋をする。自分らは闇に葬られる」と捉え、吉本に対する不信感が極まった。そして、当の二人は乾坤一擲捨て身の覚悟で謝罪会見を強行し、吉本に対して反撃する形となった。

 すると一転世間は二人に同情的になる。とくに朴訥ながら思いの丈を吐きだし潸然と涙する姿に心動かされ、田村氏は悲劇のヒーロー扱いとなる。

逆に吉本は釈明会見に追い込まれた。岡本社長は会見冒頭根拠も示さず宮迫氏の契約解除を撤回すると発表した。岡本社長の責任を問われると辞任しないと答え、社長が残る必要性を聞かれると沈黙が続いた後「みんなに、あとで聞いておきます」と答えた。吉本新喜劇の社長が一人芝居で新しい喜劇をしているのかと錯覚しそうになった。

 後日宮迫氏が完全否定したギャラ飲み疑惑のゴシップ誌側の反論記事が出ると、(宮迫氏を信じると言いながら)またすぐ契約解除の撤回の撤回もと発表する始末。まるで子飼い芸人より犯罪者グループの男の言うことを信じるかのように。

 

 宮迫・田村両氏と岡本社長の会見を見て、吉本自体が反社ではないか?と世間以上に驚いたのは行政だろう。今後国民が吉本を使う行政にも厳しい目を向けるから、行政は吉本に強い姿勢で臨むことになるに違いない。

国の公金を投入する多くの各省関連プロジェクトに吉本は参画している。それにふさわしいとは言えない組織なら、それは、現場マネージャー出身の大崎会長の手腕で急激に会社が大きくなり、家族経営的かつブラック企業的なオーナー企業のままで大手企業にふさわしい経営組織に脱皮できなかったということになろうか。

 財務、外務等主要ポストは経験がなく首相になり、官邸による独裁を行う安倍首相と大崎会長とはウマが合うのであろう。ただ、それでなくとも疑問視されていた吉本新喜劇の舞台に安倍首相が上がることはもうないであろう。

銀行に限らず大手企業では、キャリア・ノンキャリの区分はなく、トップになる人でも若い時は大崎会長のマネージャーのごとく現場の一線で働く。その後30年以上に亘りいろんな部署で試される。それをクリアしトップ候補になれば、人事、業務、企画の主要3部門長を歴任し他のトップ候補と併せその中からトップに任命される。会社の発展や環境変化に対応してふさわしいトップが選ばれる仕組みがシステム的に組織に内包されている。

 令和の加藤の乱と呼ばれる芸人加藤浩次氏はそれで大崎会長、岡本社長の辞任を求めたのか。しかし、狂犬と呼ばれた加藤氏でも大崎会長と会談後吠えなくなった。それだけ権力が絶大化している大崎会長の下では、内部の人間だけで国の仕事を請け負う企業にふさわしい組織体制への転換は難しいと言わざるをえない。できるものなら、吉本の東京本社を別会社にして、新会社の会長は大崎会長がなるにしても社長には会長と同じマネージャー上がりで会長に忠実な岡本社長ではなく、国の仕事を請け負う企業にふさわしい人材を外部から招聘する。その社長を補佐する社外取締役を置くのがよいと思うのだが。

若手芸人の不満を解消する待遇改善については、明石家さんまさんや(言動に私欲も見え隠れする? )松本人志さんのような吉本所属の大御所芸人の働きかけで可能だとは思うが。