リビングのカーテンを開け、庭木の茂り具合や生えてきた草の様子をじっと眺める ……さあ、これからの庭仕事、何を優先しようか…… 30℃超えの暑さ続いた後の、遅い梅雨入りだった やっと、「恵みの雨」ということで、水分を蓄えた草木は、「今だ」とばかりに勢いがいい
造園から多くの歳月が流れる中で、庭は、想像を超える勢いで樹木が生長してしまった 断腸の思いで八重桜や、アーチに巻き付いたつるバラも根元から伐ってもらった 低木も、必要なものを残して取り除いていく それでも、根のしっかりしたものは地面から新芽を出し、枝を伸ばしている 生き残りを窺うたくましい生命力だ 命が宿っていることを感じたひとときだった
1本の大きな楠がある。 根が地表に盛り上がり、空を覆うような大木だ その木を仰ぎ見ている一人の少年がいる
『クスノキの女神』(東野 圭吾)で、小学生の少年がスケッチブックに描いたのは、そんな絵だった
不思議な力を持つクスノキ。そのクスノキを見守る番人となった青年がえがかれていた『クスノキの番人』のシリーズ・2作目だ
今日の記憶が明日には消えていく少年は、その日のことを日記に記すのが日課だった そして、第一作目で青年を番人に選んだ女性には、認知症の症状が日増しに濃く現われる
自作の詩集をたくさん神社に持ってきたのは、高校生の少女だった。少女は、その詩集を神社で売って欲しかったのだ 「おーい、クスノキ」と題した詩集をなぜ売らなければならないのか……不審な事件も起き、警察も動き出す…… やがて、「クスノキの番人」を介してその少女と知り合った少年は、彼女の詩を読み、絵を描いていく 一日限りの記憶ながら、やがて、二人は「初めまして」の出会いの中で、絵本として完成させようと構想を練り始める。
余命が幾ばくもないことを知った少年は、クスノキの洞の中で、両親が揃っていた頃の楽しいひとときを想う。次に彼がその時の情景や想いを引き継ぐのは、命の終焉を確信する時だと、少年自身が決めていたに違いない 認知症が進んでいた番人のおばは、これが最後の機会だと分かり、周囲に勧められ、少女と少年合作の絵本を朗読する
「……未来を知るよりも大事なこと、それは、今が、どうかということです。あなたは今、生きています。……今のあなたが存在することをありがたいと思い、感謝しなさい。そうすれば、昨日までのことなど気にならず、明日のことも不安ではなくなります。」 読み終わった彼女の頬には涙が伝わっていた。 一瞬の静寂の後に沸き起こる拍手 ただ、その記憶はおばにも残らないし、少年にも残らない
「未来なんていらない。この先、何が起きるかなんてどうでもいい。知らなくて良いい。大事なのは今だ。」……【明日のぼくへ】と書かれた少年の日記に残る文字
「あなたは何年後の未来が知りたいですか」と東野圭吾さんが本の帯で投げかけた言葉が、ストレートに読み手に響いてくる