翌日。

仕事もそこそこに。
同僚からの飲みの誘いも早々に断り。

さっきまで会社の窓から暮れていく街並みをながめていたのに、外に出ればもう暗い。その代わりにきらめくイルミネーションが街路樹を明るく飾り、オレの心を浮き立たせる。




翔さんに会えるという気持ちも相まって、自然、気持ちは高揚した。


日中に、翔さんから連絡をもらって、行こうと決めたのはガード下の焼き鳥屋。普段はめちゃくちゃ雰囲気のいい潤さんの店で飲んでるから、こうしてあの店を離れて会うなら、全然違う場所にしようと提案してくれた。


『オススメの焼酎と煮込みを一緒に食べましょう』

だって。


翔さん、焼き鳥好きなのかなって思ったら、煮込み食べましょうって。

おもしろいひと。

これまで翔さんにすごく興味があったのに、踏み込めないまま何気なさを装ってあの店で会話をしてきた。昨日の昼に偶然会って、おたがいシラフで話したのって、実は初めてだったのかも。


夜にあのバーにいる翔さんは、ゆらめく柔らかな灯のようで、ずっと見つめていたいって思っていた。


でも、昼間の翔さんはとっても健康的で清潔で。それでいて、やっぱりキレイだった。太陽みたいなヒトだと思ったけど、それは昼間のぴかぴかな明るさではなく、夜を少しずつ覆していく昇る太陽のような、そんな力強さを感じた。

些細なやり取りで彼のことを知っていくたびに、好きな気持ちが色づいていく。いつのまにか真っ赤に染まる美しい紅葉みたいに、鮮やかに胸に広がる気持ちが溢れそうになる。


人を好きになるって幸せだ。
翔さんのこと、ずっと想っていたいな....。



【雅紀、うれしいな!翔さんと仲良くしろよ!】

《なにそれ(笑)そりゃぁ仲良くするよ!》

【今日は絶対にそばにいてやるから!雅紀が幸せだと俺も幸せだから!!】

《うん、しょーちゃんを幸せにしてあげられるように、オレも幸せになるように頑張るよ》


しょーちゃんとおしゃべりしながら待ち合わせの駅で、なんとなくスマホを見る気ににもなれず、行き交う人並みを眺めていたら、ふっと目を引くひと...


「あ、翔さんだ」


思わずつぶやく。
帰宅ラッシュに向かうたくさんの人の中で、すぐにあの人を見つけてしまうなんて、オレはどれだけ翔さんがすきなんだって。



「お疲れ様です、...えっと、翔さん」

「ふふ、雅紀、お疲れ様です」



面と向かってこんなふうに言うのはくすぐったい。
でもやっぱり嬉しくて。
そんなふうに思っていたら、翔さんがオレを見て、やたらとにやにやしている。



「あのー、なんか、オレ、どっか、ヘンですか?」

「え、なんで?」

「翔さんが、オレを見てにやにやしてる」

「あっ...ごめ、ごめん!そういう、アレじゃなく、て!」


急にしどろもどろになって、どうしたんだろ。


「じゃあ、オレに会えて嬉しいってことにしちゃいますよ?」


と、チョケて言ってみる。

なんて答えてくれる?



「ヤバ、大正解なんスけど」

「へ?」

「実を言うと、すっげーカッコイイ人がいるなぁってつい目を惹かれて遠くから見てたんだけど、近くまで来て『いやウソだろ、雅紀じゃん』って」

「は??」

「いやだから、雅紀と待ち合わせしてるのに他の人に目を奪われてたなんて思われたくなかったし、でも、実際はそうでゴメンなんだけど、結果的にやっぱり雅紀に惹かれてしまってたっていう、自己完結がオモロくて、にやついてました、スミマセン」

「ええぇえ!?」

「あー、もう、ほら!行こう!話の続きは飲みながら、ね?」

と、さりげなく手を引いてくれる翔さんは明らかに照れていて、ものすごく可愛い。顔を見られないように先を急ぐ風にして俺の前を歩くけど、綺麗に切り揃えられた襟足からみえる首筋がほんのり赤く染っていて、バレバレだよ。

それに。


「ふふふ、翔さん、手汗がすごい」

「うわっ!ご、ごめん!」

「ううん、いいです、なんか、嬉しいので、このまんまで」


ぎゅっと握り直す。
翔さんはまた照れ隠しなのか、人差し指で鼻の下をしゅっと触って『うん、いこっか』とそのまま、歩き出した。