オレはいよいよ話の矛先が向かってきたことに覚悟して、櫻井さんに向きあう。どうやらこの赤いジュースが櫻井さんには気に入らない、ということはなんとなくわかったけど。
「これって、飲みすぎの客に出す、お店からの通告ってこと、でしょ?潤さん」
「ふふ、そうですよ、これ以上飲みすぎないでねってメッセージをこめてね」
「ヤケ酒みたいに飲んだことは大人げなかったけど、でも、これ美味しかったし、頂けてよかったと思ってます。櫻井さんは、オレがこのジュースでストップをかけられるほど飲んだことを心配してくれてるんですよね?」
「えっ......ちょっとまって、なんか話が食い違ってるというか...ねぇ、相葉さん、コレ飲まされて、なんか気分悪くなったり......その...えっと、気持ちよくなったり、しなかった?」
「気持ち...よく?」
そこで、さっきから肩を震わせていた潤さんがついに噴き出した。
「あははは!もう翔さん、僕の信用なさすぎじゃない?相葉さんに出すわけないでしょ......媚薬、なんて」
「え!?び、びやくぅ!?」
「あーすみません、相葉さん、驚かせちゃって。コレは、ただのジュースですよ」
くつくつと笑う潤さんにすごむ櫻井さん。
マジな顔もかっこいい。
「おい、潤、ホントだな」
「もーこわいなぁ、翔さんマジにならないでよ」
「ねぇ、どういうことですか?なんで潤さんが櫻井さんに怒られてるの」
「そうだよ、翔さん、なんで僕が怒られるの?相葉さんに美味しい『ジュース』を出しただけなのに」
ことさらジュースって強調する潤さんと、それをバツが悪そうに唇をむっと結んで聞いている櫻井さん。
あ、これ、しょーちゃんもたまにする。
ふふ、かわいいな。
「...相葉さん、ごめんね、大騒ぎして」
おっきな目を上目遣いにしてオレの顔を覗き込む櫻井さんは、やっぱり可愛い。
なんとなくオレの様子を伺っている感じがする。もしかしてオレの機嫌が悪いと思ったのかも。可愛いって思ってることを悟られないように、スンってしてたから。そんなことないのになぁって思いながら、ちょっとした誤解はそのままに気になることを聞いてみる。
「...媚薬、ってなんですか?」
「あー...えっとぉ...ほら、潤、説明して」
「えー!翔さんそれずりぃよ、ってか、僕が説明していいの?」
「潤がおかしな誤解を生むようなことするからだろーが」
「いやいや、勝手に誤解したのは翔さんでしょうよ」
仲いいなぁ...
羨ましい。
オレも櫻井さんに『雅紀』って呼ばれてみたいな。
2人を羨む気持ちが、オレの心に仄暗い炎を灯す。
【雅紀...だいじょうぶか?潤さん、邪魔だよな】
《しょーちゃん...?》
【せっかく櫻井さん来てくれたのに、潤さんとばっかりしゃべってて、つまんねーよなぁ】
《...オレもあんな風に、友達みたいに話したいなぁ》
【潤がいなければ、櫻井を独り占めできるよ。邪魔だって言っちゃえよ】
《え?邪魔じゃないよ...しょーちゃん、何いってんの?》
右肩が冷たく重い。
いつもふんわり温かい気配があるのとは正反対。
しょーちゃん、どうしたの...?