ある、平日ど真ん中のランチタイム。
次の会議まで時間があったから、ちょっとのんびり昼休憩。
たまにあるこういう時間には外へランチにでる。
【なぁ、雅紀、今日はなに食うの?】
《ん-、そばか、カレーかなぁ》
【ははっ!いつものメニュー!雅紀はそばとカレーがホントに好きだな】
《うん》
【今日の昼飯もうまいといいな】
《ふふ、そーだね、うまいといいね》
天使のしょーちゃんとこうして話をする。
こういうことに違和感はなくなった今日このごろ。
話をする、といっても、そこはなかなかにファンタジー。
頭の中に声が聞こえる...ってヤツ。
しょーちゃんはオレをどこからともなく見ているらしい。
そして、こうして何気ない日常の中に『こうだといいな』という小さな願いと、それが叶うようにと願ってくれる毎日が続いている。
これをされることで気づいたことがある。
仕事や生活の中で『なんとなく』の選択が明らかに減った。
食事ひとつとっても、そう。
忙しくてまともに昼飯も食えなくて、でもさすがに何も腹に入れないのはマズイなと、とりあえずのビスケットでしのいだ時には、食わないことに苦言を呈するのではなく
【お菓子で腹が膨れるって、なんかいいよな!】
...こうだ。
ズレたことを言うこともあるが、内容はどうであれ、その根幹には
【雅紀の選択が雅紀の幸せにつながるように祈ってるんだよ】
とのことで。
なるほど。
オレの選択がオレ自身の人生を幸せにする。
今日はちょっと肌寒いからあったかい蕎麦に決定。
ゆっくりできるからこそ、アチアチの蕎麦が楽しめるってもんだし、かき揚げもトッピングしちゃおう。
注文してから揚げてくれる天ぷらは作り置きとは美味さがちがう。
時間はかかるけど、こういう楽しみに時間をつかうのは気分がいい。
うきうきと蕎麦を待つ間は、読書タイム。
電子書籍も便利でいいけど、指先でたどる紙の感覚、ページをめくるたびに左から右へとページが移動する物理的な重みは、イコール時間の積み重ねが可視化された状態で、なんともいえない満足感がある。
「いらっしゃい!あいてるとこ!相席でどうぞー!」
活気のいいお兄さんの声に促されて、オレが座る席の向かいへきた男性が、思わずといったように声を上げた。
「相席失礼しまー...あ!相葉さん?」
「...櫻井さん!?」
「やっぱり相葉さん!こんにちは!ここいいですか?」
「あっ、はい、どーぞ!あ、えっと、こんにちは...」
まさかの櫻井さん。
こんな昼間に、こんな場所で会うなんて。
「すごい偶然!相葉さん、よくここくるんですか?」
「あ、はい、割と会社が近いんで昼飯は結構きます。櫻井さん、お勤め先お近くでしたっけ?」
「今日はちょっと用があってこっちまで出てきて」
「そんなたまたまなのにこんな偶然ってすごいですね」
「ですね、相葉さんと運命感じちゃいます」
と、櫻井さんはめちゃくちゃ爽やかににっこり。
こっちがドキドキしてるのも知らないで、なんでこんなに平気でカッコよくいられるんだよ、もう。
おもわず笑顔に見とれてしまったオレは継ぐべき言葉がないばかりか、きっとだらしない顔をしていたかもしれない。
「あ、すみません、テンション高くて。読書、お邪魔しちゃいましたよね...相葉さんに会えてなんだか嬉しくて」
と、これまたサラッと言ってくれちゃう。
【雅紀、しっかりしろー!】
同時にしょーちゃんからもツッコミが入ったもんだから
「ぅうんあ?」
うっかり変な声が出た。
「っ!!!ぶっ...くっくっくっくっ」
「あ、ちょ、これは、えっと違くて!えっと!!」
と、そこにタイミングがいいんだか悪いんだか、オレの蕎麦が到着。
「はい!かき揚げ蕎麦おまちどーさま!相席のおにいさん、注文きまった?」
「それうまそーだな、相葉さんとおなじのしていい?」
「あぁ!もちろんです!相葉さんとおなじので!」
【雅紀、落ち着け!頑張れ!!】
「あはははは!!!なにそれ!やべぇ!おもれぇ!」
自分でも慌てた挙句に謎の勢いで『相葉さんと同じので』とか言ってしまって。でも、それがどうやら櫻井さんのツボにはまったらしく、息継ぎもままならないほど爆笑してる。お店のお兄さんもノリノリで『はい!あいばさんとおなじの一丁!』と請け合ってくれた。
「あぁぁもー...すみません...ぅぅ」
「なんにも謝ることなんかないですよ?こちらこそすみません、ゆっくりされてるとこにお邪魔しちゃって」
「いえ、櫻井さんにお会いできて、オレも...とても、嬉しい、です」
しどろもどろになりつつ、素直な気持ちを口にしてみる。
ふわっと、左肩があったかくなった。