指で感じ、耳で奏でる


      ~注がれる熱情の息吹~ピアニスト・小林愛美16歳の魂の記録~




 ご覧になられた方が多いかとは思いますが、今朝のBSプレミアムクラシック具楽部では、ピアノ音楽界の新星・小林愛美さんの一昨年のフィリアホールでのリサイタルが放映されていました。


 小林さんと言えば、2005年10歳で学生音コン史上最年少優勝を果たし、14歳でCDデビュー。カーネギー・ホールでの演奏を始め世界の舞台で躍進する俊英中の俊英ですが、個人的には2010年のみなとみらいホールでのリサイタルでの私事を想い出します。



 あの時、私はみなとみらいの小ホールの方に用事があったのですが、今日の大ホールは満席だというのです。 「え、あのホール満席になるの?」 と思ってしまうくらい広いホールなのですが、その時のプログラムも今日と同じくショパンとベートーヴェンであったようです。




 さて、そういうわけでかねてから小林さんの輝かしい実績と評判は耳にしていたものの、私自身は今朝がはじめての拝聴。いずれ必ずやライヴでも聴かせて頂くことになるでしょう。




 小林さんの演奏家としての特質すべき点を敢えて挙げるとすれば、それは音楽作品の本質に対する類い稀な直観力だと思います。




 まず、最初に演奏されたショパンのマズルカ嬰ハ短調作品63―3。



 冒頭の一音から(厳密にはその直前の休符から)晩年のショパンのうら淋しいメランコリーに入り込んでいることがよくわかります。







 マズルカ特有のリズム感、及び寂寥感と浮遊感も細部のニュアンスに至るまで見事に表現されています。




 そして、葬送ソナタ☆







 実に深くしなやかな弾きこなしです♪




 さらに、注目すべきがベートーヴェンの熱情ソナタ。



 冒頭の有名なテーマの弾き方一つ(あたかも一条の光が闇の面を照らし出すかのような)で作品の本質を表現し切っていると言っても決して言い過ぎではないでしょう。







圧巻のフィナーレも構成を浮き彫りにする端正なバランス感覚に裏打ちされていることはもちろんですが、そこに実にさりげなく自然に吹きかけられる彼女特有のパッション。否応なしに作品本来の真紅の熱情を呼び覚まさずにはおきません。




また小林さんの場合、その持ち前のテクニックを所謂超絶技巧やテンポ設定において発揮するのではなく、作品の本質を捉えた表現の可能性においてその天分が生きていることが特徴です。



そういう意味で彼女の演奏は決してヴィルトゥオーソ的ではない。



けれどもこの16歳の少女の魂がショパンやベートーヴェンと言った音楽史上の大家たちの精神を驚くほど本能的な仕方で感受し、表現していることにはただただ驚かされるばかりです。



今後彼女がピアニストとしてどのような階段を上り、成長を遂げて行くのかとても楽しみです。



 最後に、彼女の「黒鍵」エチュードを聴いて祝福すべき16歳の魂の記録に改めて思いを馳せたいと思います。







(尚、当日はプロコフィエフの三番も演奏されていたようですがこちらは番組では時間の都合上放映されませんでした。)



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