昨年から続くコロナ禍により京都市の財政状況が急速に悪化しているというニュースが飛び込んできました。その背景には一体何があるのか、いくつかのキーになる資料をベースに論じていきたいと思います。


まずはコロナ禍による観光客の大幅減少の煽りを受けたということ。京都市観光協会が今年2月に発表した「京都市観光協会データ年報」によると、2020年の延べ宿泊者数は前年比61.2%の減少、客室稼働率も35.8%と前年(2019年:81.2%)の半減という結果に。京都での宿泊者の大半を占めていた外国人観光客がほぼゼロになったことが大きな影響を与えていることがわかります。一般的にわが国の観光においては日本人よりも外国人の方が滞在日数も消費額も大きいため、コロナ禍におけるダメージはこの数字以上のものではないかと推察されます。


1度目の緊急事態宣言時の京都・三年坂(東山区)。

墓参に出かけたらほとんどの商店が閉まっていた。


次に、現役世代の転出が顕著であること。古いデータなのですが、平成29年に京都市都市計画局から出された資料によると、地域別では東京圏・滋賀県・京都府南部(京田辺市など)、大阪府への転出超過が目立っています。また年齢別では25歳から29歳の転出超過が大きくなっています。つまり、文教都市として大学進学までは転入者が増加するのですが、就職や結婚、子育ての世代になると京都市を離れる傾向が強くなるようです。


京都大学をはじめ全国区ブランドの大学が多いのが特徴。

(画像は新島襄創立の同志社大学今出川キャンパス)


そして、大型投資の費用回収が進まないこと。一例が地下鉄東西線です。この地下鉄は1989年に平安建都1200年記念事業のひとつとして着工、1997年に醍醐-二条間が開業しました。そこから段階的に工事が行われ、2008年に太秦天神川-六地蔵間が全通し今に至っています。これまで鉄道アクセスに乏しかった伏見区東部や山科区南部、また相互直通する京阪京津線を通じて滋賀県大津市などと京都市街地中心部を結ぶとともに、太秦天神川駅に隣接して嵐電の駅も新設され、東山〜嵐山の最短アクセスになりました。


京都市営地下鉄の路線図。

烏丸線の収支は黒字だが東西線が足を引っ張る格好に。


ただ問題は工費でした。車両の小型化や工法の変更等、コストカットは試みたものの、当初予測の2倍以上の5500億円にまで膨れ上がり、開業後の利用状況も低迷したことから、08年決算より国の監督が厳しくなる「経営健全化団体」に転落しました。これは地方財政健全化法に基づく措置で、資金不足比率が20%を継続的に超えると判断された場合において、国に対して財政健全化のプロセスを示さなければならないという、一種の烙印のようなものです。


京都市営地下鉄東西線の駅はどこも豪華。

フルスクリーンのホームドアを持つ地下鉄は珍しい。


その後の経営努力に加えてインバウンド景気も手伝い2017年には経営健全化団体を脱却できたものの、京都市交通局は今年2月に発表した21年度当初予算案で、経常ベースで地下鉄58億円、市バス56億円のそれぞれ損失を見込んでいて、資金不足比率は81%、翌年も改善の見通しは立たないことから、ふたたび経営健全化団体に転落しかねない事態となっています。


「祇園祭」は1000年の伝統を持つ京都を代表する祭典。

後祭の山鉾巡行は京都市役所前で1回目の辻廻しを行う。

(今年は新型コロナの影響で巡行は中止)


「このままでは10年以内に京都市の財政は破綻しかねない」。6月7日、収支改善に取り組むための改革案発表に際して門川大作市長は強調しています。ただし京都市の財政問題は今に始まったことではなく、10年以上前からの懸案事項でした。自助努力による歳出削減に加えてインバウンド景気により一時的に好転したように見えましたが、却って根本的な改革が遅れたように思います。京セラ、任天堂、ローム、オムロンなど京都経済を支える大企業がしっかり根を張り、歴史に裏打ちされた高い文化性を誇る京都。その行く末が物凄く気になるのは、私だけではないと思います。