ヤッホ~!帆足由美です。

 

 

 

今回は、先日観てまいりました

歌舞伎座第三部の感想です。

 

 

 

 

 

 

『三月大歌舞伎』

第三部

 

 

 

一、信州川中島合戦

  (しんしゅうかわなかじまかっせん)

   輝虎配膳

 

 

 

 

 

 

時は戦国時代。

越後の大名長尾輝虎(後の上杉謙信)は、

敵対する武田信玄の軍師山本勘助を

味方につけようと画策します。

家老の直江山城守の妻唐衣が

勘助の妹であることを利用し、

勘助の母越路と妻お勝を館に呼び寄せますが、

なんと越路は息子のため饗応を断ります。

激怒した輝虎、越路に斬りかかりますが、

割って入ったのが唐衣。

そして、緊迫する空気の中、

吃音のためうまく話せないお勝は

琴を弾きながら輝虎に詫びを入れます。

憐憫の情を覚えた輝虎は

越路を切ることを思いとどめ、

越路たちは長尾家の館を後にするのでした・・・。

 

 

 

女形が大活躍のお芝居です。

息子のために命を懸けて

輝虎を向こうに回す越路は、

『道明寺』の覚寿、

『盛綱陣屋』の微妙(みみょう)とともに、

“三婆(さんばばあ)”と呼ばれる大役。

で、この越路ですが、

気品に満ちた武家の女性であるにもかかわらず、

出された膳を足蹴にする、

ということをやってのけます。

すごいです。

そして、一世一代の大仕事の後、

堂々と花道を引っ込んでいくのです!

女形にこんな役柄があるなんて!

演じるのは魁春さん

静けさの中の気迫、

毅然としたたたずまいが素晴らしかったです。

お勝を演じたのは雀右衛門さん

吃音のため口は出せないのだけれど、

はらはらしながら姑の仕業を見守る様子が

手に取るようにわかり、いじらしい姿が印象的。

輝虎の臣下の妻で、

越路の実の娘ということで、

両者の間で終始困っているのが、

孝太郎さんの唐衣。

きっちりとしたお芝居がよかった。

 

 

 

対する長尾輝虎は芝翫さんが演じていますが、

女形たちの神妙な演技の中で、

かなりコミカルな雰囲気も。

まずですね、

お髭がやたら大きくてそれに目が行きます。

衣裳もピッカピカでなんだか滑稽。

筋書きを見ると、

「輝虎にはキュートなところがありますよね。

子どもの頃から松嶋屋のお父さま(十三世仁左衛門)の

輝虎が大好きで、稽古も付けていただきました。

服を脱いでいく辺りは“お客様が笑うくらい、

面白く演らないといけないよ”と仰っていました」

と。なるほど~。

そして、前回の舞台をご覧になった、

昨年亡くなられた秀太郎さんが

「よく覚えててくれたなあ、お父ちゃん、喜んでるわ」

と仰ったというエピソードも。

秀太郎さん、大好きだったのでしみじみ。

 

 

 

どこかキュートな輝虎と、切迫した女たち、

普通の時代物とは少し趣の異なる

面白いお芝居でした。

 

 

 

二.石川五右衛門(いしかわごえもん)

 

 

 

 

 

 

安土桃山時代に上方を騒がせた

大泥棒の石川五右衛門。

その経歴は謎に包まれていますが、

そのため多くの伝説が生まれ、

江戸庶民にとってはヒーロー的存在でした。

有名なのが、

同じ時代に天下人となった豊臣秀吉と

五右衛門が、ライバル関係にあったという物語。

このお芝居は、それらの作品群から、

面白い場面や有名な台詞を取り出して

再構成したものです。

 

 

 

天下の大盗賊、石川五右衛門は、

将軍の証である御正印を盗むため、

勅使に化けて足利邸に乗り込むと、

饗応役として現れた此下久吉と遭遇します。

実は二人は、

かつて同じ盗賊仲間であった幼馴染み。

久しぶりの再会を懐かしむ二人ですが…。

 

 

 

石川五右衛門を演じるのは幸四郎さん。

叔父の吉右衛門さんに教わったとのことですが、

吉右衛門さんは昨年、残念ながら他界。

最後の舞台となったのが、

昨年三月の「楼門五三桐」の石川五右衛門。

千穐楽前日の公演後に倒れ、

千穐楽は幸四郎さんが代役を務めたのでした。

 

 

 

さて、今回の幸四郎さんです。

勅使の装束でするすると静かに登場しますが、

白い頬に浮かぶ笑みがなんとも言えず不気味。

つるりと一枚皮がはげれば

途端に牙をむきそうな凄味があります。

転じて、久吉との再会シーンでは、

畳に寝ころび頬杖ついて、なんとも可愛らしい。

場面ごとにくるくると変わる表情が魅力です。

そして、「つづら抜け」!!

大きなつづらが空中でパカッと開くと五右衛門登場!

あれ、どうやって入っているのでしょう?

そして、宙乗りのたっぷりなこと!

これまで観た宙乗りのなかで、

いちばんアップダウンが激しかったような。

ちなみに、幸四郎さんは高所恐怖症だそうで、

毎回、それをこらえながら演じているのですね。

でも、悠然と宙を行く五右衛門、

超人的なパワーに満ちてカッコよかったです!

そうして迎える南禅寺山門!

満開の桜を見渡しながらの名台詞、

「絶景かな、絶景かな」。

その姿が、声が、

もう吉右衛門さんそのもので!

驚いてしまったのでした。

その前の、あれはつづら抜けの前だったか、

「馬鹿め!」という台詞もまるで「河内山」のようで、

そこかしこに吉右衛門さんのDNAを感じました。

幸四郎さんというと、すっきりとした優男、

というイメージが強かったのですが、

今回のお芝居では、

大きく豪快な五右衛門を拝見することができて、

ひじょうに楽しかったです。

芸はこうして継承されていくのですね。

吉右衛門さんも、天国で

目を細めていらっしゃるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

特別ポスターもかっこいい!

 
 
『三月大歌舞伎』、
3月28日(月)千穐楽です。