ヤッホ~!帆足由美です。



今年最後の歌舞伎を観てまいりました。

     $帆足由美のヤッホーな日々


演目は「通し狂言 御摂勧進帳(ごひいきかんじんちょう)」


「通し狂言」というのは、
何幕もある芝居を最初から最後まで「通して」演じること。
歌舞伎では通しではなくハイライトだけを演じることがほとんどなんですね。
そして「狂言」とは、歌舞伎や浄瑠璃の脚本、または芝居そのもののこと。
野村萬斎さんの狂言、とは違います。


さて「勧進帳」といえば「歌舞伎十八番」のひとつ。
歌舞伎の演目の人気投票では必ず上位にランクインする芝居ですから、
TVでその映像を目にしたことのある人も多いはず。
様式美に溢れ、曲もスリリングでドライブ感満載でかっこよく、
私も大好きな演目ですが、
今回の「ごひいき」はその「勧進帳」のイメージで観に行くと、
先入観、根底から覆されます。

とにかく、笑えるの。
めちゃめちゃコミカルで、大らかなんです(‐^▽^‐)

お話は「義経記(ぎけいき)」を元にしています。
御存じ、源義経とその従者を描いた軍記物語。
その世界を、庶民好みにやわらか~く噛み砕き、
笑える場面や痛快な場面、華やかな場面もふんだんに盛り込んで、
これぞ江戸庶民の娯楽、という作品になっています。

一幕目は「暫(しばらく)」
豪華な顔ぶれ、豪華な衣装、豪快な見栄。
どこまでも華やかさを追求した演出。

ストーリーは、正真正銘の勧善懲悪ですね。

悪者にこてんぱんにやられて危機一髪の善人たちが
「どうしましょう?!」
というまさにその時、超人的な力を持つ少年が
し~ば~ら~く~~~(ちょっと待て、ってとこかな?)」
と声をかけ、あっという間に悪人追っ払ってめでたし、めでたし!というハナシ。

侍、公家、お姫様、腰元、坊主…、
歌舞伎の国の住人、舞台に勢ぞろいの豪華な図は、
「観たわ~~~~~!」というカタルシスを与えてくれます。

善玉・悪玉・道化役、隈取りの違いも面白いし、
衣装の豪華さも歌舞伎ならでは!
何より、主人公の怪力少年、
熊井太郎(尾上松緑、初演。似合いますな~、こういう役!)は
劇中のセリフそのままに
「でっけぇ~~~!!」
すご~い!とか、強そ~!とか、畏怖の念を含めた褒め言葉、かな。
衣装、なんと65kgもあるんですって!




二幕目は「色手綱恋の関札」という舞踊劇。


都を落ち延びた義経(尾上菊之介、美しい!)が、道中で美しい女馬子に出会い、
ちょっと色っぽい雰囲気に…。

義経って今でこそ美男のイメージありますが、
実際はあまりハンサムではなかったようですね。
しかし、女性には大層もてた!
京の都には、彼の通った女は25人、落ち延びる時お供にしたのは11人だった、
という記述もあるそうです。
義経といえば、の静御前もその中の一人だったんですね。
そんな、“モテモテ義経”のようすがわかる一幕。



そして三幕目は「安宅(あたか)の関の場」

歌舞伎十八番の「勧進帳」より67年も前に上演された作品。

兄頼朝の命により行く手を阻まれる義経一行が、
山伏に姿を変え、関所を通ろうと試みます。
が、「怪しい・・・」
関守たちからキビシイ追及を受けるわけです。

そこで武蔵坊弁慶(坂東三津五郎、初役)が、
「東大寺勧進の一行でございます」と、
持っていない勧進帳をソラで読み上げ、
主君義経を「この役立たずの下僕めが!」と叩きのめしてみせたことで、
「ああ、ひっ捕らえるべき相手ながら、
なんと尊い主君愛であることか・・・!!」
と心打たれた関守・富樫(尾上菊五郎)が、
「じゃ、お通りくださいまし」と許した、
そこまでは「勧進帳」と同じ筋立て(演出は違いますが)なのですが~、

「ごひいき」ではこの後、弁慶が捕らえられてしまうんですな。

縄をかけられ、番卒たちに叩かれて、子供のようにわんわん泣いちゃう、
これはびっくり!
そしてびっくりはさらに続きます。
弁慶、義経一行が追手のかからぬところまで行きついたことを確信すると、
大乱闘!!
縄引きちぎり、番卒たちの首を次から次へと引きちぎり(素手でだよ?!)、
しまいにはその首を天水桶に投げ込んで、
二本の長い金剛杖を遣って、
芋を洗うようにガ~ラガラ掻き回すことから、
この狂言「芋洗い勧進帳」なんて異名をとるんですな。

こんなにもグロテスクな内容なのに、
舞台上ではガラガラ掻き回す弁慶の向こうにカ~~~ッとのぼる朝日
水天桶の周りに作られる富士の裾野のごとき末広がりの番卒たちの姿、
世にもめでたい構図の中での笑い・驚き・豪快さ、
一年を締めくくるにふさわしい、
まことにハッピーな演目なのでございました。


ちなみに歌舞伎では、義経が題材の狂言が沢山ありますが、
義経自身はあまりセリフがなく、ただそこにいる、ということが多いんですね。
そんな中、この狂言の義経はけっこう喋る。
生きている義経を感じられて、面白かったな~。


二百数十年の時を経て笑わせてくれる。
これもまた、凄いことですよね~~~?