つづきです
「や…やっぱ、汚れてるみたい。シャワー浴びてこようかな」
オレは慌ててスウェットを腰まで引き上げた。
コンビニで買った袋を手に、バスルームに勢いよく飛び込む。
既に冷めた湯船に身体を落として…
自分のバカさ加減に呆れた。
「何のためにコンビニ行ったんだよ…」
まぁ、智だって男だし。
オレなんかの裸を見たところで、どうってことない。別に気にもしないだろう。
ハァ…とため息を吐き出して、天井を見上げた。
暑いシャワーで身体を温め、ドアを開けると、キレイに畳まれた着替えが置かれていた。
それは、一週間前に借りたのと同じジャージ。
確かに…自分が着ていたスウェットは叩けばパラパラと砂が落ちるほど。そのままベッドに入るわけにはいかないだろう。
智の用意してくれた着替えを、有難く借りることにした。
「あの…ありがとう。借りるね」
「うん。和也、疲れただろ?
今日はベッドひとりで使って良いから…」
「え?智こそ。ゆっくり休んでよ」
「いや、お前が…」
「ダメだよ」
「えぇ?」
お互いが譲り合って、どちらも引かない。結局はいつも通り、ふたりでベッドに横になった。
でも、さすがに気分が昂っているのか、ちっとも眠気が降りてこない。
……仕方ないよね。
あんなことがあったんだから。
もぞもぞと身体を動かしていると「眠れないのか?」と智が聞いた。
「うん…今日はさすがに眠れないみたい。智は?」
「おれも」
よいしょと体の向きを変え、智と向き合う。
「どうせ眠れないなら、話…する?」
「うん」
えっと…
智への感謝の気持ちを伝えたかったのだが
それを語るには、全部…
あの公園にいた理由も、過去の話も
全てを…話すべきだと思い至った。
「…オレね、付き合ってた人がいたの。仕事の関係で離れてて…でも、このままじゃいけないって、思い切って会いに行ったんだよね。
そうしたら、見事に浮気されてた。
…笑うよね。
恋人だった人の浮気相手に『かわいそうな人』なんて言われてさ。
そうしたら、今まで自分が頑張ってきたこととか、全部…分かんなくなっちゃったの。
浮気されてたこともショックだったけど、必死に頑張ってても報われないんだなって。
じゃあオレはどうしたら良かったんだろう?って。
眠ることもできず、朝も昼も夜もずっとそんなこと考えてたら…
自分がどんどん惨めになってきちゃってね。
あぁ。オレってかわいそうなんだ。
そう思ったら、もう…全てにおいてやる気が出なくなってた。
上手くいくわけない。だって、かわいそうなんだもん。
仕事だって、別に頑張る必要ない。ムダよ。
最低限のことを、適当にやってれば良いって。
”かわいそう”…ってさ、呪いの言葉よね。
どんどん暗い方に引っ張られるの。
心の奥深くまで蝕んでた。囚われていた。
でも。
智の手が、温かくてさ。
声が…優しくて。
そうしたら、気づいたの。
他人から見て、どんなに かわいそう でも…
自分が かわいそう だなんて思わなければ、前を向けるって」
あの日 かけられた呪いは、解けた。
それは、きっと。
「智、ありがとうね」
言って…
ちょっと恥ずかしくなったオレは
布団を引き上げ、顔を隠した。
つづく
miu