つづきです









ん…?



陽の落ちた室内は、すっかり闇に溶けていた。


少しだけ開いていた窓からは


雨が上がったのだろうか


雲の隙間から差し込む、薄い…月明かりが

頼りない一筋の道を指し示し


床の上で眠っていた、もう一人のキレイな横顔を浮かび上がらせていた。



えっと…


思考回路が上手く機能しない。

もうずっと前から深く眠ることを忘れていたオレの体は、今のこの状況を理解するのに暫く時間がかかった。


たしか急に雨が降り出して、智のアパートで雨宿りさせてもらったんだよね。

それで着替えを借りて、ふたりで話してて…

その辺りから記憶が曖昧になり、途切れていた。



ただ、すごく…

ふわふわと心地よかったのは覚えている。



暗闇に慣れてきた目で辺りをうかがえば、どうやらオレはベッドに寝かされていたようだ。

柔らかな手触りに、腰痛持ちの自分としては 固い床に放置されていなかったことを感謝した。


オレがのそりとベッドから下りようとすると

目を擦りながら大きな塊が動いた。



「おはよ、和也。笑」


「もしかして、オレ…眠ってたの?

今って何時?」


「んーと、夜の7時過ぎかな」



智はあくびをしながら立ち上がり、部屋の電気を点けた。

急な眩しさに思わず目を細める。

壁にかけられた時計を見ると、確かに…7時を過ぎていた。



「…本当に?」



信じられなかった。


オレの記憶は、昼頃にここに来たところまで。

それからずっと眠っていたのだとしたら、7時間以上熟睡していたことになる。


枕を変えても

疲れるほど運動しても

リラックスできると言う音楽を聞いても


何をしてもダメだったのに…


こんな簡単に眠れるなんて、どんな魔法を使ったんだろう?



その理由を探ろうと、智に確認したのだが、彼は何もしていないと言う。ただ、頭を撫でているうちにオレが倒れ込むように眠ってしまったとか。


…もしかしたら、たまたま臨界点に達しただけ?

長く続く不眠状態に、体が限界になった…ということだろうか。


オレが考えを巡らせていると、腹の虫がぐぅと鳴いた。



「そういや、昼飯食い損ねたよな」


「…確かに」


「ちょっと待ってて」



そういうと、智は数歩歩いて小さな冷蔵庫を開けた。

このスペースのどこに入っていたのかってくらいのタッパーの山を取り出すと、次々とレンジで温めていく。

狭いテーブルの上に、沢山の料理が並んだ。



「これは?」


「あぁ、義母さんがたくさん作ってくれるんだ。いつも食べきれないくらい」


「へぇ…」



素朴な家庭料理の味。

健康面も考えられているのだろうか?野菜がふんだんに使われている。

それはどれも美味しくて…


とても、新しい家族に馴染めずに家を出た

可哀想な高校生には思えなかった。




つづく




miu