雅紀(まさのり)が  高校3年の夏

会社に一本の電話がかかってきた。



息もつかずに…
教えられた病院に  向かう。



そこで 告げられた
医師からの言葉。


何を言っているのか…
俺の 耳には 入って来なかった。


ナントカ…という、難しい病気。

手術をしても 治るかどうか。
それも、一度では済まないという。

長期に渡るであろう 入院費、薬代…



今の自分には 
とても払いきれない金額。



…俺は、何の躊躇いもなく
夜の世界へ 足を踏み入れた。

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雅紀は 入退院を繰り返し

何時しか  両親が残してくれた僅かばかりの保険金も…もう、幾らも残っていなかった。



金になる事は 何でもやった。

店では、 瞬く間に ナンバーワンになり

女だけでなく…

金さえ持っていれば  オトコでも
躰を重ねた。


ライバルを蹴落とす事も 忘れず。



(フカイ ヤミ 二 オチテイク…)



気付けば 俺の手は真っ黒に汚れていた。


もがき 苦しみ……
堪えきれず  救いを求め、手を伸ばしたくても

真っ白な…雅紀に 触れることは 出来ない、そう思った。





何も…残らなかった。



雅紀は 逝った。

『俺の分まで…生きて…』

そう  言い残して。


最期の時まで…雅紀は
俺の前では泣かなかった。

死の間際まで   笑っていた。



お前が 安心して  泣けるように

そのために頑張ってきた筈なのに。


結局は  俺が お前に 守られていた。


情けなくて

自分が 赦せなくて


泣きながら…
独りきりだという事に気付いた。


独りが こんなに怖いなんて
知らなかったよ。


…この時  俺の涙は  枯れたんだ。


つづく